第一話 始まり それとも紹介か
このジャンルには初めての投稿です。よろしくお願いいたします。
「ねぇねぇ放課後あいてる? カラオケ行かない?」
帰りのホームルームが終わり、クラスがうるさくなった時にクラスメイトの長月昭美がやってきた。
「あれ? 剣道部は?」
「顧問の先生が研修でいないからお休み。ねぇ? 遊びにいかない?」
ボーイッシュで男女関係無く明るく接する長月はクラス――いや学年中でも上位に入賞する人気を博しているが、さらに県大会でも上位に入賞するほどの腕を持つ剣道部のエースだ。
そんな長月が俺をカラオケに誘ってくれる。最高に良い気分だ。去年だったらカラオケに誘ってくれないに違いない。
そう。俺はこの春休みに心機一転した。
今まで通っていた地元の格安床屋から四駅離れた美容院に変えた。
身体を鍛えるためにジョギングも始めた。
『会話術のポイント』と名のつく本を片っ端から読んで覚えた。
そのおかげか始業式のときにやたらと女子が俺のことを二度見してきた。今思い出しても顔がにやけてしまう。
おっと、にやけるのをごまかすために右手を頬に当てて「他は誰かいるのか?」とさりげなく聞く。
「う、うーん。二人だけじゃつまらないよね……」
わずかに頬を紅潮させて長月がクラスを見渡す。さっきの一言が無ければ二人きりでカラオケにいけたかもしれないと思うと残念で仕方が無い。
「あ、ユイ! 一緒にカラオケ行かない?」
「は? なんで私が一緒に行かなくちゃならないのよ」
ツインテールの髪を揺らして振り向いた一色ゆいがジト目で俺を睨んでいる。
「いいじゃねーか一色。ひまなんだろ?」
「失礼ね。あんたと違って私は忙しいの。これから予備校に行かなくちゃならないからね。そもそもなんでアンタなんかとカラオケに行かなくちゃならないのよ」
高飛車な物言いにカチンと来るが、長月共々人気の高い人物である。前までなら視線さえも合わせてくれなかったのだ。その様変わりにも満足感が勝ってしまう。
「委員長は?」
クラス委員長を務める舞草章江が「どうしました?」と小首をかしげながら近づいて来た。手には先ほどクラスで集めた進路希望報告書を抱えている。
黒縁メガネに三つ編みという絶滅危惧種的な委員長である。学年中で保護しようと言われている。俺としてはレッドデータブックに載せるべきだと思う。
「先生にプリントを届けなければならないので、その後でよろしければ……」
「オッケー! それじゃ場所決まったら連絡するねー」
舞草がうなづいて両手でプリントを抱えなおしてから教室を出ていく。
あぁプリントになりたい。
「ちょっとー! 抜け駆けは許さないんだからね!」
「じゃー愛洲もいくか」
学年一位の美少女と名高い愛洲恵果だ。茶色がかった長髪。パッチリとした瞳。健康そうな肌。
顔だけじゃない。スタイルも出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
非の打ち所の無い完璧だ。
雑誌の表紙を飾るモデル顔負けの肢体に視線が釘付けになってしまう。
「雑賀も行くんでしょ? なら行くに決まってるじゃーん!!」
鼻歌が聞こえそうなほどの笑顔に俺の顔も自然と笑みが浮かんだ。やはり学年一位は違う。
「そうだ! ヨッシーも行こうよ」
その言葉に俺の胸もドキリとしてしまう。視線を斜め右に送ると天使が振り向く瞬間だった。
流れるような黒髪。磁器のような肌。線の細い身体。
彼女こそ五刀吉賀だ。学年一位である愛洲と比べれば一般的な顔立ちだが、物静かなたたずまいに優しさが満ちている相貌に俺の心臓がはやがねを打つ。
そう。彼女こそが俺の本命だ。学年全体で比べれば上位の方を獲得できる可愛さであるが、元気娘な長月やレッドデータ的委員長、そしてスタイル抜群の愛洲のほうがもちろん人気がる。
だが俺は聖母のような五刀がいいのだ。
去年転校してきた五刀と出会ったからこそ、俺は変わった。
五刀と付き合うにふさわしい存在になれるよう努力したのが報われた。
だが最終目標は五刀を手中に収めることだ。そう、これはまだスタートラインに立っただけだ。
ありがとう長月。五刀を誘ってくれて。このカラオケがスタートの合図となるのだ。
「ごめんね。はるかと遊ぶ約束してるんだ」
合図にならなかった。そう言うと彼女の前の席に座る加島はるかに視線を送る。
「長月さんが言うなら一緒に行こうよ。あ、あと雑賀がいいならだけど……」
セミロングの髪をポニーテールにまとめた加島がはにかみながら言った。それから加島が五刀に視線を投げる。
「は、はるかがそう言うなら、そうしよっか」
グッジョブ! グレイト! エクセレント!
加島の行いは表彰状を授与するレベルで素晴らしいぞ!!
「そうだ。ヤエも行こうよ」
「いいの? それじゃ……」
先ほどからこちらをチラリチラリと伺っていた黒髪ロングの八重野美咲の顔に花が咲く。
五刀のようにスレンダーな肢体を持っているが時折怖いくらいに鋭くなる瞳を持つ八重野は八方美人だという話しが絶えなかった。
先生や気に入った生徒に対しては柔和な顔を向けるが、それ以外はナイフのような視線を向けてくる。
去年の俺だったら後者の視線を浴びていたが、今は妙に優しい視線を浴びている。正直、気持ち悪い。
個人的にあまり仲良くしたくないのだが、長月の幼馴染であるために長月たちと遊ぶ時は彼女の誘いで混ざってくる時が多かった。
だが今回は長月や舞草や愛洲、そして五刀と言ったメンバーだ。八重野が混ざっても仕方が無いと思えるくらいに気分の良いメンバーだ。
「それじゃ行こうか!」
「あー歌った歌った」
カラオケの帰り道。すでに太陽が没してしまった。
「それじゃあたしたちこっちだから」
長月、舞草、愛洲、そして八重野が交差点を右折していく。残った俺と五刀は左だ。
「はるかの関西弁上手いね。もう、可笑しくて、可笑しくて」
後半は思い出し笑いで濁ってしまった。
そう、五刀と俺だけの帰り道だったらもうどんな不運が訪れても良いと思った。
「吉賀は正統派に上手いからネタをいれなきゃね」
この場になんで加島はるかがいるんだ。
カラオケまで五刀に金魚の糞のごとくついてきたのは良い。だが空気を読んで別方向に帰ってくれればなんと幸せなことだったか。
「加島の後に歌いたくないと思っちまうよ」
「そう? なんで?」
そりゃハンバーガーショップやスターウォーズのテーマを日本語版で歌った後に歌わされる奴の身にもなってみろ。選曲どうしろって言うんだ。
「それじゃ、私こっちだから」
言ったのは加島ではなく五刀だった。
気がつけば駅から離れた新興の住宅街の真っ只中だ。
「そ、そう? それじゃまた明日!」
「ばいばーい」
五刀の後姿を未練タラタラで送る。楽しいひと時はすぐに過ぎてしまうという。あぁ早く明日にならないものか……。
「いつまで吉賀を見てるんだ」
そうだ。コイツが居たんだ。
「雑賀の隣にはこんなに可憐な美少女がいるのに何が不満なのか」
「美少女ってどこにいるんだよ? あ、五刀のことか?」
加島の下段蹴りが来るが、絶妙のタイミングでよける。すでに慣れた光景だ。
コイツはもてない頃から俺によく話しかけてくれる数少ない女だ。
いや、待て。よくよく考えれば今日カラオケに行ったメンバーで、なおかつ加島以外でイメチェンする前から親しく話しかけてくれた奴が居たか? いや、居ない。
しいて言うなら舞草くらいだが、それは委員長としての仕事としての会話であって、友人のように親しく話した記憶がない。
長月とも会話があったが二、三話すだけで、そもそも友人と見られていたかも怪しい。
そう考えると加島は貴重な存在だったが、いかんせんコイツが女と見れない。
いや、生物学上の雌であることはわかる。
だが、長月のようなボーイッシュとも違う。
どうして俺は加島を女と見れないのか。
それに気がついたのは家に到着する寸前だった。
「今日は本当に楽しかったね。こういう日がずっと続けばいいのにな」
「毎日カラオケじゃ喉が壊れるぞ。それじゃーな」
加島が自信の自宅に入る。俺も家に帰ろう。
そう。俺のうちは加島の隣の家だ。つまる加島との関係は友情の消えない幼馴染ポジションだからだ。
他の投稿している小説を見るとわかると思いますが、そういう作者です。
ご指南ご指導をお願いします。