一日目
泣き声が、やけに広く感じる部屋に響いていた。美咲が泣いてる。僕は、何もしてあげられない。
「ユウ、どうしよう。ひとりぼっちになっちゃった」
悲しく笑いながら、僕を見つめる。こんな顔をして欲しくないよ。
「何で私、あんなこと言ったんだろう」
なにも答えられない。美咲をみているのが苦しかった。
「明日なんて来なければいいのに」
神様お願い。美咲を助ける力を僕に下さい。
ちゃんと明日を生きられるように。美咲を元気にして挙げられるような。
「ずっと昨日だったら良かったのに」
過去に囚われないように。大切な思い出を残せるような。
「私も連れて行ってくれれば良かったのに」
彼女の為なら何でもします。だからどうか、力をください---。
7月27日の少しだけ涼しい朝。美咲と僕は外に立っていた。
「ここ、どこ?どうなってるの?」
まるで夢を見ているみたいと寝ぼけたように彼女は言った。
「あなたユウなの?」
「僕は、祐だよ」
「祐?ねえ、これどういうことなの?」
不思議そうだった。でも、悲しそうじゃなかった。
「お願いしたんだ。美咲が後悔なく明日に行けますようにって」
「私が?」
「うん。だって美咲、とても悲しそうだったから」
美咲は僕を見つめた。
「美咲、悲しいと思う。だけど、元気になってもらいたい。昨日に忘れ物があるなら、ちゃんと取ってきてもらいたい」
美咲は驚いた表情をしている。
「また笑ってもらいたい」
僕は頭が良くないから、何が出来るかわからなかった。美咲が喜んでいるかもわからなかった。美咲の為にできる事をやるしかなかったから。
「祐はどうするの?」
「……僕は、美咲が明日が来ても大丈夫って言うまで付き合う。ずっとずっと一緒にいる」
僕は美咲にゆっくり近づいた。いつもみたいに抱きついてみた。
「僕は絶対に、美咲を一人にしないよ」
やっと美咲が笑ってくれた気がした。
一日目はそこから始まった。同じ昨日を繰り返すことが新鮮で周りには不思議がられたりしたみたいだったけれど、とても楽しそうに過ごしていた。最後の家族との団欒も、美咲は心置きなく過ごしていた。その様子を僕は遠くから眺めていた。
二日目が訪れたことは、あまり驚かなかった。やっぱり美咲は慣れないみたいで、少しだけおかしかった。両親も不思議買っていたけれど、美咲はとても幸せそうだった。
三日目は、少しだけ美咲も慣れたみたいだった。友人たちとも楽しそうに過ごしていた。授業だけは何度もあって面倒だと愚痴を零すぐらい元気になっていた。
……十五日目。いつの間にか僕は美咲の幼馴染になっていた。同じクラスで授業を受けることになった。美咲は少し嬉しそうだった。
……百十日目。この日から美咲の記憶がおかしかった。覚えているはずのことを忘れていたり、知らないことを知っていたりした。だいぶ溶け込んでしたんだなと軽く考えていた。
……千七百五十日目。美咲は全てを忘れてしまった。ただ繰り返し昨日を生きるだけになってしまった。明日を生きてもらいたかったのに、どうしたらいいのかわからなかった。
……五千百五十七日目。前の日に僕が受けた傷を何故か美咲は覚えていた。もしかしたらこれか解決の糸口になるのかもしれないと、少しだけ嬉しかった。
……八千九百七十七日目。美咲が傷を覚えていることはまちまちだった。切り傷ばかりで身体中がいたかった。
……一万五千七十七日目。傷の治りは変わらないみたいだった。やっと全ての傷を完治したので、今度からは大きい傷をつけて行くことにした。
……六十万一千五百日目。大きい傷であるほど、記憶に残るみたいだった。終わりが近づいてきたかのように思えた。
……一億二十三日目。苦しい。終わりにしたい。
「ユウ!」
耳元の声で意識が戻った。目の前で美咲が心配そうな表情で顔を覗き込んでいた。
「良かった。心配した」
雨は知らずのうちに止んでいた。
驚いたように美咲を見上げると、今まで見た中で一番の笑顔をユウに向けた。
「ユウ、ありがとう。私、元気になったよ」
不思議と陽射しが暖かかった。先程までの冷たさが嘘のようだった。
立ち上がるために地面に手をやると、ユウの手に何かが触れた。目をやるとそれはあの時の花であった。しっかりと上を向いて咲いている。
「だからユウ。明日を迎えに行こう」
泣きたくなるぐらいに、暖かい陽射しだった。
ねえ、ユウ。
ずっと一緒にいてくれたんだね。
私を支えてくれてたんだね。
ありがとう。
大好きだよ。




