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老夫婦

作者: ソレイユ

「これはこちらに。それはあちらに入れてください」 

「うむ」


 妻の指示に従いてきぱきと片づけを進める。もともと物が少ない家だ。片づけにそう時間がかかるわけでもない。今朝方始めた片づけは、昼ごろにはすでに終わりが見えていた。

 最後と手を付け始めた物置の中。その中から、一つだけやけに丁重に紐で縛られている箱が出てきた。


「おい、これはなんだ」

「あぁそれはですね、少し待ってください」


 妻がこれまた丁寧に紐をほどいていく。手を止めることなくほどいていくので、妻のものなんだろうと漠然と考えながら眺めていた。

 ようやくほどき終わりふたを開けると、中に入っていたのは古ぼけた紙束だった。

 一枚手に取り、見てみると、崩さないように丁寧に封を解かれた後の手紙のようだ。何気なく中を見て


 すぐに元にもどした。


 それを見ながら妻はさもおかしそうに笑う。


「な、なんでこんなものをとってあるんだ!?」

「いえ。あなたから頂いた大切な手紙ですもの。全部とってありますよ。懐かしいですね。一つ読み返してみましょうか」


 制止する間もなく妻は箱を彼女の手元にやると、一つ取り上げて読み始めた。




 拝啓

 すっかり春めいてまいりましたが、あなたはいかがおすごしでしょうか。この頃は冬の寒さが嘘のように暖かくなり、外套が必要でもなくなってきました。風が心地よく、ふらりと散歩して見たくな陽気です。

 散歩と言えば、この間ふらりと歩いていたところ、一つ公園を抜けるとこれはまたたいそう美しい花畑が広がっていたのです。花には詳しくないので何が咲いていたのかをここで書いて差し上げるのができないのが心苦しい限りですが、いつかこの花畑にも二人で行くことができればと思います。

 夜はまだまだ寒いようなので、お体には十分お気を付けください。

                                             敬具





 妻が読み終わったが、恥ずかしさのあまり顔をあげることができなかった。顔が真っ赤になっているのがよくわかる。妻はそんな俺を見ていたずらっぽく笑う。出会ってから50年。いまだに変わらない笑顔だ。


「懐かしいですねぇ。あのころのあなたときたら。初々しくてかわいらしかったのですよ」


 なにも言い返すことができない。こういう時に俺が弱いのを妻は知っている。なにせ50年来の付き合いだ。


「この花畑も探したらあるでしょうか。お片付けが終わったら少しお散歩にでも行きましょう。せっかく暖かくなってきたことですしね」

「あぁ。そうしようか」


 二人の間に言葉はなく、それでも気持ちは通じ合う。夫に寄り添う妻の姿を、ただ庭に生えている桜の木のみが見ていた。         

こんな感じで老後を過ごせたらそれはとても幸せなことなんだと思います。


手紙の書き方が曖昧なので、もしお気づきの点がございましたらお教えいただけると助かります。

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