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恋はビートルズの旋律に乗せて  作者: 天猫紅楼
23/29

WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS……Vol.1

 ある日の事。

 俺の携帯電話に、拓也が連絡をよこしてきた。

「お前、今まで何をやってたんだ?」

 ぶっきらぼうに言うと、拓也は割りと明るい声で笑った。

「すみません。 ここんとこ、あれこれと忙しくて。 でも、元気でやってますんで、ご心配なく」

「心配なんてしてねーよ!」

 俺は半ば喧嘩腰で話していたが、心は今にも走り出したいほどの嬉しさに満ち溢れていた。

 拓也は寝る間も惜しんで、音楽の道をひた走っているらしい。 今の生活や仕事のことなど、取り留めのない話をした後、拓也が一言嬉しいことを言ってくれた。

「今度、クロノスライブがあるそうじゃないですか? 俺、時間が取れそうなんで、観に行きますよ!」

「本当か?」

「はい! オッカが入ったクロノスをこの目で観て見たいし、俺も色々と皆に迷惑かけてるから、土下座しに行かないとなって」

「そうだな、皆、結構大変だったんだぞ。 でも、喜ぶと思うよ。 かなり成長してるから、是非観てやってよ!」

 

 

【拓也がセブンスヘブンに来る】

 

 

 当日、クロノスのメンバーたちも、どこか浮き足立った様子でリハーサルをしていた。

「気持ちは分かるが、ライブには集中しろよ!」

「はあ~~い!」

 喝を入れる俺の言葉にも気のない返事を返してきた。

「あいつらぁ~!」

と怒りながら呟く俺に、立木兄が

「仕方ないっすよ。 でも今日は特別、力入るんじゃないですか?」

 その言葉通りというか、やはりクロノスは本物じゃないかと思わせる瞬間だ。 案の定、ライブはいつも以上の出来だった。

 なんだあいつら、まだ爪を隠してるんじゃないのか? 観客の熱気も沸騰しそうなほどに店内を盛り上げている。

 だが――

 

 ライブが始まっても、拓也の姿は見当たらないままだった。

 俺と立木兄弟は、仕事の合間を縫って受付に居るマスターに尋ねたりしたが、彼も

「来ていない」

と首を横に振るだけだった。

「一体どうしたんだろうな?」

 腕を組み、首を傾げる俺に、立木弟が

「また探してみますっ!」

と観客の波を縫って行く。

 だが結局、拓也は見つからなかった。

 心なしか寂しげな視線を残しながら、メンバーたちが去って薄暗くなったステージを後に、観客たちはぞろぞろと退場していく。 マスターも小さな金庫を持って、カウンターに戻ってきた。

「拓也は?」

 俺は一言尋ねたが、再び横に首を振るだけだった。

 ふと小さな騒めきに気付いてそちらを見ると、観客たちの流れに逆らって、早足で楽屋へ向かう人影があった。

「裕里ちゃん?」

『今日観に来ていたのか。 一言挨拶くらいくれればよかったのに』

と思うのも束の間、人波をかきわける裕理の切羽詰まったような厳しい横顔に、何か胸騒ぎを覚えた。 やがてステージに飛び上がると、楽屋への扉を勢いよく開けて入っていった。

「?」

 目だけで追っていた俺に、立木兄が

「どうしたんすか?」

と声をかけてきたが、

「ん、なんでもない」

と小さく返すのみだった。

 マスターも裕里のただならぬ雰囲気に気付いていたが、俺と目を合わせて、とにかく今は見守ろうと無言で伝えてきた。

 楽屋の方を気にしながら音響卓周りを片付けていたが、十分経っても二十分経っても、彼らは一人も楽屋から出てこない。 とうとう心配になったマスターが、様子を見に行った。 そして数分後、マスターは一人で姿を現した。

「何があったんだ? 喧嘩か?」

 心配になって俺が尋ねると、マスターは珍しく神妙な顔で眉をしかめた。 そして俺の顔を見ると、ゆっくりと言った。

「拓也くんが、逮捕されたらしい……」

「……え……?」

 頭が真っ白になった。 どういうことだ? マスターの言っている意味が理解できない。 というより、理解しないように思考回路が止まったようだった。

 話を聞いた立木兄弟もまた驚き言葉を失っている前で、マスターは説明した。

「さっき、裕里ちゃんがケータイのニュースで見たらしいんだ。 どうも、大物音楽プロデューサーと付き合いがあったみたいで、一緒にクスリをやっていたようで、今朝……」

「嘘ですよ!」

 立木弟が拳を固く握った。

「そんなわけないじゃないですか! 僕の知ってる拓也さんは、そんな人じゃない!」

 握った拳をカウンターに叩きつけた。 その兄もまた、かぶりを振って震える声で言った。

「信じられるわけ、ないじゃないっすか?」

 いつも絶やすことの無い笑顔がすっかり消え、こわばった頬が小さく震えている。 俺は、やっと我に返るとはたと思い付き、立ち上がった。

「城沢は?」

 そういった途端、楽屋の扉が静かに開いた。

「城さ……」

 楽屋から出てきたのは、意気消沈してうなだれたクロノスのメンバーたちだった。 城沢は、裕里とマサトの肩を借りて、やっと歩いている状態だった。

「大丈夫か?」

 駆け寄った俺を見上げた裕里が、今にも泣きそうな顔で言った。

「オッカ、返事をしないの。 意識がどっか行っちゃったみたいで……とりあえず、家まで送ろうかと思って」

「俺の車に乗れ!」

 俺は思わず声を上げた。

「あ、じゃあ、俺はオッカの自転車乗って届けます」

とマサトも素早い対応をしてくれた。 裕里と、心配して外で待っていた朋美と一緒に城沢を自分の車に乗せると、彼女の家へと向かった。

 思えば城沢の家を知らなかった俺は、裕里にナビをしてもらいながら車を走らせた。 心配そうに見つめる裕里や朋美が目に入らないかのように、城沢はずっと焦点が合わないままだった。

 朋美は城沢の手をしっかりと握り

「オッカ……」

と涙をためながら肩を抱く裕里にされるがままに、城沢は車に揺られていた。 城沢の家に送り届けるまで、城沢は一言も話さなかった。 車のドアが閉じられる瞬間、城沢は振り向いて小さく

「ありがとう」

と呟いた。 それは無意識だったのか、意識を取り戻したのかは分からない。 だが俺には、少しだけ救いになった。

 城沢を送って戻ってきた裕里と朋美。 二人共疲れて顔をしている。

「しばらく、そっとしておこう……拓也の事も、まだ詳しいことは分からないんだろ?」

 俺が尋ねると、裕里は小さく頷いた。 裕里もまた拓也のことはショックだろうし、城沢のことも心配だろうしで、落ち着かない様子だった。 朋美も妊娠している身。 その精神的なダメージが子供に影響を与えないか心配だった。 彼女たちを家まで送り、我が家へ帰るときもずっと、気持ちは治まらないままだった。

『まさかクスリやってたなんて……。 まさか……』

 そんなことを考えているうちに、今度は怒りが込み上げてきた。

 連絡もよこさないで、一体あいつは東京で何をやってたんだ?

 何をしたくて東京に行ったんだ?

 その手に固く握った夢を切々と語って、俺を説得したのは拓也、お前だろう!

 一言言うだけじゃ足りず、一発殴ってやりたいところだった。

 だがケータイは繋がらず、情報はテレビやネットで得るしかなくなった。

 

 

 そのニュースは、次の日には事務所の皆にも広まっていた。

 何しろ、逮捕された張本人は世間じゃ名の知れた大物音楽プロデューサー大島満オオシマ ミツル。 マスコミによると、拓也ともう一人の男が、大島にならってクスリを覚えたという。

 しかし拓也も拓也だ。 良いことと悪いことの違いも分からないのか……。 連絡が取れるようになったら、絶対に一発殴ってやる。

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