思春期
僕のロボットはカサカサと動く。
皆はこのロボットはおかしいと言う。買い換えるべきだと代わる代わる僕にパンフレットを押し付けて、財布の中身を透かしてみようとする。でも、僕はこのロボットが好きだから他のロボットを買う気はない。
パンフレットを突き返すとこの変人からは金も取れないと捨て台詞を吐いていくんだ。
『ロボットは普通"ウィーン"とか"ガシャン"とかいうはずだろ。よくこんなイカレた物捨てる気にならないね。』
『そもそも誰がロボットの音を決めたんだ?僕は世の中のロボットの方がイカレてると思うね。』
『誰が決めた訳でなくてもロボットの音は"ウィーン"や"ガシャン"に決まってんだ。みんなそうなんだからイカレてんのはお前の方だ。』
カサカサいうのがなんだというのだろう。それだけの事でイカレた物扱いだ。
このロボットはロボットの中でも優秀な方だと僕は胸を張って言える。
性能的にはこのロボットは優れているのに音が違うのがそんなに問題なのだろうか?
悩む僕の隣をカサカサ音を立てながらロボットが通り過ぎていく。足の付け根の隙間にピラピラ揺れる紙が見えた。
「ちょっと止まって。」
カサカサ音の元だと確信した僕は紙に手をかけ力ずくで引き抜こうとする。こんなものがついているだけで異端扱いなら、無い方がいい。
体を精一杯のけぞらせ、体重をかけながらなんとか紙を引っ張り出した。
ロボットは反動で体を大きく震わせ、もう一度体を震わせるとバラバラに崩れてしまった。
引き抜いた紙には『とらないで下さい』と書いてあるだけだった。
取り返しのつかない有り様を目の当たりにした俺は、ドアの投函口に溜まったパンフレットの一つを手にとって電話をかける。
「どんなロボットをご希望ですか?」
「普通のロボットをお願いします。凄く良くても悪くても、そのどちらでなくても目立つところがあっては駄目なんです。」
「皆さんそうおっしゃいます。大丈夫ですよ、ピッタリの物をご用意しておりますから。標準的な規格サイズのロボットを一般的な人口頭脳を搭載させてお届けします。」
「それは良かった。早くそうするべきだったのかもしれないな。うちのロボットは変な音を立てるロボットでね。よくバカにされたんだよ。」
「至極当然ですよ。人間の方が個性が無いのに個性のあるロボットなんて目障りなだけですからね。」
手早くロボットの残骸を片付け、ふとさっきのロボットから出て来た紙の裏を見てみた。そこには『Last fort』と書いてあったが、俺には意味が分からなかった。
紙を丸めて捨てて、特記する事もないスーツに身を包み、無難な革製の靴を履いてどこにでもあるようなアパートを後にする。
明日新しいロボットが届くだろう。そうしたら、もう馬鹿にされることはない。当たり前ほど安心する物は無いのだ。
読んでいただきありがとうございます。
普通とは何なのでしょうか。一般的で平均的で無難で…つまりなんだと言われても説明できる人は少ないと思います。
その実体の無い物に振り回されてると思うと何だか悲しくなりませんか?
では、またいつかどこかで。




