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連載の種

昔に戻って殺し合い

掲載日:2026/03/09

「貴様らは今日! 偉大なる帝国の繁栄の礎となるのだ! 光栄に思え!」


 指揮官のダライアスが声高に叫ぶ。

 ……クソっ。

 助けるんじゃなかった。

 うっかり女児を助けたばっかりに、あたしまで除去隊(エックス)の仲間入りだ。


「これを無事に帰って来られれば、家族全員がソクサローグ地区に移れるって話、マジかな?」

「そしたら、俺たちもいよいよ名誉ソクサローグ人になれるんだな」


 付近でなされるひそひそ話があたしの耳にまで届いていた。

 ……どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。こんなのを無事に戻って来られるわけがない。

 目の前に広がるは地雷原。

 人を探査して発動する魔術地雷は、撤去することが難しい。そこで帝国が考えた手法は、まさに悪魔的だった。帝国にとって都合の悪い人間を使って、地雷原の上を歩かせるというものだ。


 ソクサローグ人に向かって石を投げつけた女の子。あいつさえ助けなければ、あたしは今でも誇り高きドエ人だったのに。まさかあれが、踏み絵のための猿芝居だったなんて、全く気がつかなかった。


 今じゃあたしも帝国に与するクソ野郎どもと大差ない。

 負け犬精神が、腹の底にまで染みついちまっている。

 男たちは自信を失い、女は他国の男に媚を売る始末だ。

 人間の尊厳を丸ごと奪われていてなお、それでもこいつらは戦おうとしない。


「進めぇええええーーーー!!!!」


 ダライアスの号令で歩兵たちが歩きだす。

 向かう先は、もちろん地雷原。

 後ろから押されるようにして、どんどんと前に飛び出していく。

 ドガン、ドカン!

 四方から響く爆発音。

 地面に埋められていた魔術地雷が作動したのだ。


「うあぁああああ!!!!」


 自棄になって叫んだのは、はたしてあたしだったのだろうか。

 ふと気がつくと、あたしの体が宙を舞っていた。

 どうやら、誰かが踏み抜いた地雷の爆発に巻きこまれたらしい。

 叩きつけられるようにして、地上に落下する。


「ぐっ!」


 肺の空気が残らず、体の外に出てしまったかのようだ。

 息が苦しい。

 呼吸ができない。

 なんだか体中がやたらと熱い気がする。

 眠い。

 目を閉じてもいいだろうか。


「――ベラ。……ベラ、起きろ。ベラ!」


 何度もくり返される呼びかけに、やっとの思いで目を開ける


「お前……どうしてここに」


 そこにいたのはオーウェンだ。

 幼少期しか一緒に過ごしていないが、その顔はまるで変っていない。

 あたしと違って、一本気なこいつは政治犯になんぞならないはずだが、いったい何があったというのか。


「軍にベラが連れて行かれたと聞い……いや、自分にできることをしようと思ってな。志願兵になった。そうして今しがた、俺も地雷を踏み抜いたところだ」


 そう話す割には、ぴんぴんとしている。

 殺戮用の魔術を受けても無傷とは、ふざけた体の造りをしている。


「……。インチキな体だな」

「いや、こう見えてもいくらか怪我をしたぞ」


 体の調子はすこぶる悪いが、オーウェンのおかげで頭の明晰さが戻って来た。


「状況はどうなっている?」

「悲惨だな。目に見えて劣勢だ」


 除去隊(エックス)は地雷を排除するための捨て駒だ。

 最初からソクサローグは、ドエ人を使い捨てるつもりでいる。オーウェンの手を借りて、どうにかあたしは立ち上がった。


 見渡す限り、死体の山。

 運よく生き残った者も、その大部分が手足を失い、大地の上で身もだえていた。

 たまたま目についたところには、先ほど「無事に帰って――」と話していた男の死体がある。

 部隊の統率なんぞ、原形もなかった。

 そこではたと、あたしの頭にアイデアが浮かぶ。


「……」


 今ならば、反旗を翻したとしても、止める者もいないのではないのか。

 もはや時間はない。


「オーウェン、手を貸せ!」

「何をするつもりだ?」

「決まっているだろう! このごたつきに乗じて、馬鹿げた指揮を執る売国奴に天誅を下す。ダライアスはドエの人間だぞ!」


 あたしの発言に、明らかにオーウェンは動揺していた。

 だが、やがてはあたしに賛同を示す。


「……わかった。お前に従う」

「感謝するぞ」


 ……そういや、どうしてこいつは倒れているのが、あたしだと気がついたんだろう。

 あたしはともかく、オーウェンの頭はお世辞にもいいとは言えない。あたしのことなんか、覚えちゃいないだろうに。


 まあいい、どうでも。

 あたしは痛む体に鞭を打って、前哨基地に戻った。

 モルタルで作られた四角い箱が複数見える。

 警備の数こそ手薄だが、施錠されていて中には入れない。


「どうする? ここまで来たはいいが、どこからも侵入できないぞ」

「焦るな」


 あたしは魔法を使って鍵を無力化した。


「魔法が使えるのか! それはソクサローグの人間にか許されていないんじゃ?」

「馬鹿か、お前。あたしがそんな決まりを、大人しく守っているわけがないだろう? それに、禁を破るのがあたしの専門だ」


 こんな惨めなことが許されていいわけがないのだ。

 敵国にしっぽを振るなんて、恥辱の極みにほかならない。

 祖国の汚名はあたしがすすいでやる。


「オーウェン。あたしとお前が100年前に生まれていたら、ドエが敗戦国になるなんてことは決してなかった」


「どうしたんだ、急に」

「な~に、ここまでつきあってくれたことへの礼だよ。行こう。ダライアスはすぐそこだ」


 上官の部屋に入ると同時に、あたしはダライアスの首を刎ねた。

 いつも殺そうと思っていた相手だ。

 自分でも驚くほどスマートに、息の根を止めることができた。


「よし、逃げるぞ。魔法で鍵を開けられるのは、ソクサローグの人間だけだ。あたしたちは疑われない」


 部屋から出ようとするが、そこにダライアスの部下が駆けつけて来る。

 ……しまった!

 侵入したところを見られていたのか。

 気がついたときには手遅れだった。


陥炸ノ弾(マシンガン)!」


 散弾の魔法が展開され、そのうちの1発があたしの首を貫いた。


「ベラァアアアアーーーー!!!!」


 オーウェンが両手を広げてあたしを庇ってくれる。

 身を挺した盾のつもりなのだろうが、いささか遅すぎた。


「逃げろ、ベラ! 俺はお前が――」


 オーウェンが最後に何を伝えようとしていたのか、結局、あたしは最後まで聞けなかった。




✿✿✿❀✿✿✿




「進めぇええええーーーー!!!!」


 怒声に似た咆哮で我に返る。

 目の前に広がっていたのは、戦場にほかならない。

 先ほどまでと似たものだが、決定的に違う部分がある。

 旗の色だ。

 手前の軍勢が手にしているのは茶色。今は失われたドエの国の色だったのだ。


「これは……なんだ。俺は夢でも見ているのか?」


 あまりにも自分とそっくりな感想をつぶやくを声を聞いて、思わずあたしは隣に視線を向けていた。


「我らがドエの地を、一歩たりとも蛮族に踏ませるな! ゆけ、行けぇええええーーーー!!!!」


 全く身に覚えのない顔だが、確かにこの声はあいつのものに違いない。先ほどまで一緒にいたのだ、聞き間違うはずがなかった。


「まさか……オーウェンなのか?」

「……? ベラ?」


 身につけた軍服には血がべっとりとこびりついていたのだが、あたしの体はいたって無事だ。あたしのものではないらしい。


 首元の涼しさに、思わず手をやれば、そこにあるはずの髪の毛がなかった。

 訝しんで前髪を掴んでみれば、色が異なる。白色……。

 あたしの髪は黒のはずだ。

 おまけに、心なしか胸も以前より膨らんでいる。余計に邪魔くさい。


「……どうなっているんだ? ベラ……なんだよな?」

「ああ。そこは間違いないみたいだ」


 呆けた顔のオーウェンがあたしを見つめる。いや、腕章を見る限りでは、オーウェンではなくビザレッタか。


 あたしの名前は……ナミア。ナミア=ドウルボーク。

 ドウルボーク?

 この名前には覚えがある。

 おかげで、ここがどこなのかを決定できた。


「第一次帑仄(ドソク)戦争……。今はその真っただ中だ」

「第一次って、あの歴史的大敗のか!?」


 あたしの発言に、元オーウェンが仰天していた。


「なんだ? お前でもそのくらいは知っていたのか」

「ああ、さすがにな」

「そうだ。これからあたしたちは負けに負けて、遠くない未来には『これに負けたからこそ偉大なる帝国の属国になれたのだ』と進んで叫ぶようになる……。馬鹿すぎだ。敗戦国の末路にしたって出来が悪い。どういう理屈かは知らんが、あたしたちは過去に戻った。それも別人――いや、ドウルボーク家はこの戦いで死んでいるはずだな。なるほど。本来、あたしたちは死人なのか」


「もっとわかりやすく説明してくれ!」

「一言で言えば、別人として過去に戻った。ベラもオーウェンも、たぶん未来じゃ死んでいるから気にするな。こういう具合だろうよ」


 あたしの説明にオーウェンが黙ってしまう。


「……」

「さすがに、ショックか?」

「いや……。ただ、俺はこれからどうすればいいのかが全くわからん」

「さっきと同じだ。あたしに手を貸せ。沈みゆく船ならば、昇級のスピードも段違いだ。すぐにあたしは指揮官になってやる。戦勝国のおごりから、ソクサローグの歴史は何度も教えられているからな」


「……まさか、ソクサローグを撃退するつもりか?」

「それだけじゃないさ。覚えているか、あたしたちを殺したやつの軍服を?」

「ああ、もちろん」

「どっちの国の人間だった?」

「……? そりゃ、ドエだろう?」


 いったい何を聞いているんだと言いたげに、オーウェンはあたしを不審がった。


「ああ、そうだな。あたしはともかく、ドエの国の人間がどうして魔法を使えるんだろうな? それも軍に所属している人間だぞ?」


「……!」


 ようやく、その異常さを理解したらしい。オーウェンが口元に手をやっていた。


「ずっと引っかかっていたんだ。どうして、勇猛果敢で知られるドエの祖先たちが、あんなにも簡単に帝国に敗れてしまったのかを。そりゃ、帝国は強大だ。でも、たった1度の戦いで決着がつくほどじゃない。裏を返せば、第一次帑仄(ドソク)戦争は、投入されたソクサローグの兵士が少なすぎるんだ。でも、負けた。世界でも稀にみる大敗北だ」


「何が言いたい……」

「ようやく合点がいったぜ、ビザレッタ。これは、最初から仕組まれていたんだ」

「仕組むって、誰が?」

「いるだろう? 1人だけ。いきなりの統治は無理だとかなんだとか理由をつけて、ドエの人間でありながら、帝国からその自治を委ねられている人物が」


「ライタグム家!」


 あたしは砲火の飛び交う戦場を見渡した。

 自信なんぞという貧弱な言葉ではない。

 確信だ。


「ああ。どうやら殺さなきゃいけねえやつが増えちまったな。この戦争は、ライタグムの野郎が招いた外患だったってオチだ。売国奴が……必ず殺してやる。手を貸せ、ビザレッタ。あたしが、敗戦の歴史を塗り替えてやるよ」

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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