五章 死刑と監禁、でも真相は…… 6
「姫さまだけには知られないようにと、心をくだいたのに、これで水の泡か。見てのとおり、陛下は妃を失った悲しみのあまり、ご乱心に……」
「えっ? じゃあ、これまでのことは、全部——」
「そう。姉さんがつけてた薔薇の香水をかぐと、正気を失われてしまう。そのあいだのことは、おぼろげながら自覚がおありのようで、正気にもどると、胸を痛めておいでだ。よく礼拝堂で、ザンゲなさっている」
ああ……ありました。そんなこと……。
「だが、ああなっているあいだは、まったく理性がきかない。夜な夜な、死んだ姉の姿を求めて、町を徘徊なさっておられる。殺された女の子たちは、みんな、薔薇の香水をつけていたのだろう」
「でも、それじゃ、左大臣さまの令嬢は?」
「ヘルダさまは次期王妃の座をねらっていらした。姉と同じ香水をつけて、積極的に陛下に迫ったのではないだろうか。それが命とりになると知らずに」
「じゃあ、ご主人さまたちに罪をかぶせたのは、王さまだったんですか?」
「……それは、私だ」
むう。やっぱり。
「私とマルグリーテは殺人犯を捕まえるために調査していて、陛下のご乱心に気づいた。
このまま放置しておくわけにもいかず、どうしようかと考えあぐねていたら、ミケーレという男が犯人だという訴えがあった。
これは使えると思ったんだ。一国の王が心を病んで自国の民を殺してまわっているなんて、誰にも知られるわけにはいかないじゃないか。
そんなことが諸外国に知れたら、かっこうの侵略の機会と思われ、戦になってしまう。
国を守るためには、犯人は別の誰かでなければならなかった。それで、ミケーレを犯人に仕立てあげ、事態を終息させようと……」
「おしゃべりジムさんがウソをついてるのを知ってて、利用したんですね?」
「ジム? ああ、あの船乗りか。もちろんウソだということは知っていた。
あの男はぐうぜん、陛下が女を手にかけるところを見て、自分から陛下に接触をはかったのだ。秘密をバラされたくなければ金を出せとおどしていたな。
私も陛下のあとを尾行しているときに、二人が墓場で話しているのを聞いた」
「そこまで知っていて、ヒドイですよ。なんの関係もないご主人さまや、エイリッヒさんたちに罪を着せて……第一、そんなことしたって、人殺しはなくならないじゃないですか。王さまが、あのままなかぎり」
「それは、わかっている。だから、表向きは別人が処刑されたことにして、そのあいだに陛下を田舎の城へおつれするつもりだった。鍵つきの部屋で一生を終えていただこうと。
姫にはツライ事実だから、計画がぶじに終わるまで、おまえたちに託した。いずれ、お迎えにあがるつもりだったのに、おまえたちが勝手に舞いもどってくるから……」
うう……だって、知らなかったんだから、しかたないじゃないですか。
「だからってぇ、ご主人さまを殺していい理由にはなりませーん!」
「最初の計画では、ミケーレが牢獄から脱走して外国に逃げたと、触れを出すつもりだった。おまえたちがかきまわすから、こんなことに……。
いや、そんな目で見なくても、私にだって良心はある。
もし、おまえたちが誰にもこの事実を言わず、すみやかに遠くへ移り住むと約束してくれるなら、私だってムダな殺生はしたくない。
ベリーヒトに似た男の死体を探してきて、代わりに縛り首になってもらおう。ミケーレたち二人は逃げたことにすればいい」
「ミケーレさん? しかも二人? もう一人は、リンデさんですね。あの二人も捕まってるんですか?」
フローランさんは、うなずきました。
まったく、たよりにならない男の人たちですね。
シャルランが、がんばらなくちゃ。
「わかりました。あたしたちは外国へ引っ越します。そのかわり、今すぐ、ご主人さまの処刑をとりやめてください」
「わかった。しかし、この状況をどうするんだ? 中止しようにも、庭から出られない……」
そうなんですよ。
王さまは、あいかわらず追ってきます。
あたしたちは広い薔薇園のなかを逃げまわり、木のかげにかくれたり、ベンチの下にもぐりこんだりして、やりすごしていました。
それにしても、王さま、しつこいです!
このままじゃ、らちがあきません。
そうこうしてるうちに、処刑の時間が刻一刻と迫ってきます。ご主人さまが死んじゃう!
「しかたありません。あたしに任せてください!」
あたしはかくれていた茂みから、とびだしました。
「王さま! あたしは、ここです」
王さまは即座にふりかえり、こっちにむかってきます。
「このあいだに姫さまをつれて逃げてください!」
姫さまとフローランさんを茂みに残し、あたしは走りだしました。
あたしの力は男の人より強いんだから、王さま一人くらい、やっつけてしまえる——と思ったんですけど……。
「王さま、かかってきなさいです!」
立ちはだかるあたしに、王さまは力いっぱい、剣をふりおろしてきました。
大ぶりなので、その下をかいくぐって、剣の柄をつかんでしまうのは、わけないです。
いつものあたしなら、そのまま剣をむしりとっちゃうんですけど……あれ? どうしたのかな。手に力が入りませんよ? なんか肩がズキズキするんですけど……。
そこで、あたしはハッとしました。
あのときでしょうか?
武器庫の扉に体当たりしたとき、もしかして肩を痛めてしまっていた?
ああッ、もうダメ!
柄はにぎったけど、剣を押しかえせないですぅ。切っ先が止まりません!
(ごめんなさい。ご主人さま。あたし、死んじゃうかも)
あたしが迫りくる刃を前に、目をとじたときでした。
「——シャルランッ!」
声がして、なんか、ものすごい力でつきとばされました。王さまの悲鳴が聞こえます。いったい、何が起こったんでしょう?




