表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇園〜ローズガーデン〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
四章 原因はビュリオラ、いろんな意味で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/38

四章 原因はビュリオラ、いろんな意味で 6




 エイリッヒさんのようすが変です。

 いえ、変なのは、いつものことなんですけどね。

 なんだか元気がないっていうか、思いつめた感じなんですよね。


 ご主人さまの手作りの絵本を読んでたせいみたい。

 いったい、どうしちゃったんでしょうか。


 でも、あたしに対する態度は前より紳士的になりました。優しすぎて、怖いです。


 それはともかく、あたしたちは無事に港へやってきました。


「港は広いですけど、どうやって船乗りさんを見つけたらいいんでしょう」


 すると、リンデさんが、

「やみくもに探しまわっても目立つだけだろ。なあ、エイリッヒ? やっぱり、まず、人魚のいけすで聞くのが一番だよな」と言いました。


 いつものエイリッヒさんなら、「ああ、そうだな」とか、「おまえに任せる」とか、なんか言いそうなものなのに、物思いに沈むように、だまりこんでいます。


「おい、エイリッヒ。しっかりしてくれ。正念場だぞ。いくら、おれたちだって、肉体を失うと死ぬんだからな。火焙りなんて、ごめんだ」


「え? ああ……」と、この調子。


 朝は早いけど、市場も近いので、けっこう通行人がいました。髪を黒く染めても、エイリッヒさんは人々の目をひく美形なので、ウカウカしていられません。


 というのも、さっき、お城のほうから、馬に乗った兵隊さんが来て、通りのあちこちに、おふれ書きを貼っていったからです。


 エイリッヒさんの似顔絵でした。

 あたしたちの似顔絵はなかったけど、仲間に黒ずくめの男と少女って書いてあります。


 やっぱり、罪人になっちゃいましたね。


「急ごう。姫さん、まだ歩けるか? おぶってやろうか?」

 リンデさんはエイリッヒさんのぶんも、がんばってます。いつも何かと苦労が絶えませんね。


「わたしなら平気よ。毎日、庭をかけまわってるもの」


 姫さまはローズちゃんをかかえて、上機嫌。


 あたしたちが通りすがりの人に怪しまれないですんでるのは、姫さまがいるからでしょう。姫さまが、はしゃぎまわるので、観光に来た旅人だと思われてるみたい。


 人魚のいけすに来ると、お店は休業中。

 でも、おかみさんが窓から、あたしたちを見て、とびつくように扉をあけました。


「ミケーレ。あんた、よく無事で……役人が、あんたを探しまわってるよ。あんたがマチルダを殺したって言うんだけど、そんなはずないだろ?」


 心配してくれるのは嬉しいんですけど、変装はバレバレなんですね……。


「はっきり、おぼえてないが、どうも違うらしい。それで、聞きたいことがあるんだ」


 親しげなおかみさんの態度に、エイリッヒさんは、ちょっと迷惑そう。きっと、おかみさんのことも、おぼえてないんですね。おまえ、誰だと言いださないのは、エイリッヒさんなりの気遣いなのかも。


 しょうがないので、あたしとリンデさんが事情を説明しました。


 おかみさんはリンデさんを見て、うなずきます。


「ああ、それで、あんた、夜中にも来たんだね。たたき起こされて寝不足だけど、そういうことなら、まあいいよ。


 あんたたちの探してるのは、おしゃべりジムだ。ミケーレ、あんた、ジムのこと、おぼえてないのかい? マチルダが、あんたにベッタリなんで、よくからんできただろ?」


「ふうん。そうなのか」と、エイリッヒさんは他人ごとみたい。

 でも、気にはなったみたい。


「ということは、そいつはマチルダに気があったのか」


「まあ、しつこく、くどいてはいたよ。マチルダはバカにしてたけどね。だから、あんたのことをそうとう恨んでたねぇ。ジムの証言だって言うから、怪しいもんだとは思ってたんだ。きっと、あんたに仕返ししたかっただけだね。ほんとに見たかどうかも疑問だよ」


 ええと……つまり、マチルダさんにふられた腹いせってことですか? ヒドイですねぇ。そんなことで無実の人を殺人犯にするなんて。


 あたしは憤りました。

「なんて人でしょう。ゆるせませんです」


 エイリッヒさんは納得しています。

「これで、偽証に素地があることはわかった。あとは本人に聞くだけだ。おしゃべりジムは、どこにいる?」


「あいつの乗ってる船は、とうぶん港を出ないからね。宿にでもいるだろうよ。行きつけは、黒炭亭さ」


「炭でできてるんですか?」


 あたしが聞くと、おかみさんは笑いました。

 ちなみに、髪をアップにして、青いドレスを着たあたしのことに、おかみさんは気づいていないみたいです。


「あんたみたいな金持ちの行く宿じゃないからね。木賃宿さ。炭代さえ払えばいい、ざこねの宿さ」


 よくわからないけど、安宿って意味みたいです。

 おかみさんに場所を聞いて、黒炭亭に行くことになりました。


 外に出たところで、リンデさんが提案しました。


「四人で動きまわると目立つ。それに、ああいう宿は、低賃金の労働者が行くところだ。ドレス着た女がうろついてたら、それだけで変だ。シャルランと姫さんは、どっかで待ってろよ」


「ええっ」


「おふれを見ろよ。役人が追ってるのは、エイリッヒだ。離れてるほうが、二人のためでもあるんだ。ほら、あそこに見える上等な宿なら、女二人でも安全だ。おれたちもジムを問いつめたら、ちゃんと合流するから」


「しょうがないですねぇ」


 あたしはともかく、これ以上、姫さまに危ないマネはさせられませんからね。


「わかりました。じゃあ、あとで必ず来てくださいね」


 なんででしょうねぇ。

 ぼんやりしているエイリッヒさんを見送るのが、とても心配でした。これきり、もう二度と会えないんじゃないかって、思ったりして……。


 そんな気持ちに気づいたのでしょうか。

 歩きかけてから、途中で、エイリッヒさんがひきかえしてきました。


「シャルラン。帰ってきたら、おまえに大事な話がある。忘れないように手帳にも書いておいた」


 そんな真剣な顔されたら、よけい心配じゃないですか。


 エイリッヒさんは、じっと、あたしを見つめたあと、ためらうように手を伸ばしてきました。あたしの髪を優しくなでます。


 それから……ほんの一瞬のことです。

 すばやくおりてきたエイリッヒさんのくちびるが、あたしの口をふさぎました。


 あたしってば、どうしちゃったんでしょうね。

 なぜか、イヤじゃなかったです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ