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薔薇園〜ローズガーデン〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
三章 地下牢と冒険、それに……恋?

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五章 地下牢と冒険、それに……恋? 3


 *



 なんでしょうか。

 仮眠をとってから、エイリッヒさんとリンデさんの視線が変です。

「なんなんですか? さっきから、いやにジロジロ見ますね」

「それは、おまえが——」

 言いかけるリンデさんを、エイリッヒさんが押さえます。

「しッ。今は逃げることに集中しよう」


 というわけで、差し入れのカギを使って、あたしたちは牢屋をぬけだしました。地下は、まるで迷路です。

「古い戦乱の時代に敵をさそいこんで出られなくさせたか、あるいは罪人の追放の地だったのかもしれないな」と、エイリッヒさんが解説してくれます。


「ふにゅう。出口がわかりません」

「正規の出口は兵士が見張っている。見つからずに逃げだすことは不可能だ」

「どこかに別の出口はありませんか?」

「大気の流れで調べてみよう」


 エイリッヒさんは虚空を見つめて動かなくなりました。

 ちょっと怖いです。エイリッヒさんは美男子なので、動かないと人じゃないみたいです。あっ、人じゃなかったですね。


「……この地下迷路には、地上へ通じる出口が複数ある。この近辺は石灰岩質の地層だ。自然にできた鍾乳洞に、人間が手をくわえたんだな。

 一部が王宮の地下につながっているということは、いざというときに逃げだすための隠し通路にしていたんだろう」

「じゃあ、その道を通って逃げられますね」

「いや。今は地下牢以外の場所に通じる道は、すべて鉄の扉や岩石でふさいであるみたいだ。ふさがれていないところは、兵士が見張っている」

「そんなぁ。どうするんですか?」


 話していると、リンデさんが急に言いだしました。

「こっちだ。この匂い」

 手招きするので、あたしとエイリッヒさんは、ついていきました。

 枝わかれする暗い地下道。

 リンデさんを追って歩いていきます。

 すると、前方に、わずかな光が見えてきました。天井のあたりです。近づくと、その手前で数段の階段になっていました。


「階段が天井に消えてます」

「こういうのは、仕掛けがあるんだよ」

 そう言って、リンデさんが天井に手をかけました。光の筋が、みるみる太くなっていきます。そこだけ、あげぶたになっていたのです。


「秘密のぬけ穴だ」

「よかったぁ。シャルラン、暗闇は苦手なんですよぉ。オバケが出てきそうな気がするんです……やっと明るいところに出られるんですね」

「明るくはないよ。外も夜だ。礼拝堂のなかみたいだな。祭壇が見える。

 リンデさんは、すきまからのぞいて報告してくれます。

 が、サッと頭をひっこめました。

「人がいる」


 真夜中の礼拝堂に?

 えっと……それは、オバケ的な何か……。


「ご安心ください。わたくしです」

 人間の声がしました。

 天井のすきまから、ささやく声は、あの差し入れをくれた侍女さんです。

 ほっと胸をなでおろし、あたしたちは秘密のぬけ穴から、まっくらな礼拝堂へ侵入しました。

 とりあえず、地下は脱出ですね。


「いっこうにおいでにならないので、心配しました。地図を見てくださったんですよね?」


 地図? そんなの、ありましたっけ?

 あたしたちが首をかしげていると、侍女さんは、おでこに手をあてました。

「あ、やっぱり、気づいてもらえませんでしたか。じつはパンの裏に針で彫って、地図を描いておいたのです。すみません。まぎらわしいことをして」


 パン……シャルランがモシャモシャいただいたやつですか。うっ。エイリッヒさんとリンデさんの視線が痛いです。


「そういえば、なんか模様があった気がします。オシャレなパンだなって……てへっ」


 リンデさんが牙をむきます。

「てへっ、じゃねえよ。おれが、この人の匂いに気づいたから、よかったようなものの。でなきゃ、おれたち永遠に地下の迷路をさまよってたとこだぞ」

「わあっ、スゴイですね。匂いでわかったんですか」

「うん、まあ。この姿でも、人並みよりは嗅覚も聴覚も——って、こらこら。ごまかされるか。反省しろよな。このドジっ子」

「す……すみませんです」


 まあまあと、侍女さんがなだめてくれました。


「急ぎませんと、あなたがたが牢屋からいなくなったことに、見まわりの兵士が気づくかもしれません。早々に城をぬけだしませんと。わたくしがご案内いたしましょう」

 待てよと、リンデさんが呼びとめます。

「あんた、なんで、おれたちに、ここまでしてくれるんだ」


 あ、そうか。リンデさんたちは侍女さんのこと知らないんでした。


「それはですね」と、あたしが説明する前に、柱のうしろから、小さな影がとびだしてきました。

「わたしが、たのんだのよ」

 抱きついてきたのは、もちろん、姫さまです。


「姫さままで来てたんですか」

「だって、ベリーヒトの召使いが殺人罪で捕まったって聞いて、心配で寝られなかったんだもん」

「ええっ。あたしも同罪なんですか? それはヒドイです。フローランさん」

「そうよ。フローランは横暴すぎるわ。ベリーヒトの召使いが人殺しなんかするわけないのに。だから、逃がしてあげようと思ったの」

「ありがとうございます、姫さま。でも、あたしのことは、シャルランって呼んでくださいね。それで、こっちはお友達のリンデさんと、エイリッヒさん。エイリッヒさんはですね——」


 断崖の魔術師なんですよねと言おうとしたら、エイリッヒさんが、そっと首をふりました。だまってろってことですか?


「わかったわ。シャルラン、リンデ、エイリッヒ。さ、今のうちに逃げて。城壁のところまでは、わたしたちが案内してあげる」

 みんなで一列になって、参列席のあいだを歩いていきます。ピクニックみたいで楽しいです。


 そのとき、とつぜん、キイッと音がして、外から扉がひらかれました。

 ヤバイです! 誰か、やってきました!

 あたしたちは大あわてです。

 バラバラになって、参列席のあいだに、しゃがみこみます。


 ひらかれた扉から月光がさしこみ、黒い人型のシルエットが浮かんでいました。背の高い男の人みたいです。

 その人は、かくれてるあたしたちには気づかないようでした。みなさん、すばやかったですからねぇ。


 そういうあたしも、変なカッコでイスの下にすべりこんじゃって、苦しいです。

 なんか床が妙にゴツゴツ……?

 というか、むしろ弾力があって、でこぼこ?

 それに、生あったかいし……。


「生あったかいのは、おまえが、おれを下敷きにしてるからだ」

 耳元で声がするので、よく見ると——

 きゃあッ。エ、エ……エイリッヒさん!

「バカ、バカっ。何してるんですかっ」

「おまえが、おれを押し倒したんだろ?」

「そんなことしません」

「したんだよ」

「しません」

「静かにしろよ。気づかれるだろ」


 あう……っ。そうでした。

 だからって、この人、どこさわってるんですか。

 なんか、エイリッヒさんの両手が腰にまわってきますよ。


「離せ。ふとどき者——です」

「おまえ、いい匂いがするな。薔薇の香りだ。なつかしい」


 ええっ? またですか? また“白薔薇!”ですか?

 しかも、今?

 こまったなぁ。ここでは、パーンチもできないし……。


 入口の人影は、あたしたちのコソコソ声に気づいたのか、念入りに周囲を見まわしています。

「誰か、いるのか?」


 どっかで聞いたような声ですねぇ。


 すると、座席のかげから黒猫がとびだして、ニャアと鳴きました。

 えっ? どこから猫さんが。

 でも、ありがとう!


 人影は、ほっとしたように息をつきました。なかへ入ってきます。座席のあいだを歩いていく姿が、ステンドグラスからさしこむ月光にてらされました。

 声に聞きおぼえがあるはずです。

 なんと、王さまではないですか。

 王さまは一直線に歩いていくと、祭壇の前にひざをつきました。両手をあわせてお祈りを始めます。


 つぶやきが聞こえました。

「デルトリーネ……」

 女の人の名前ですね。

 亡くなったお妃さまでしょうか。

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