表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇園〜ローズガーデン〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
三章 地下牢と冒険、それに……恋?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/38

三章 地下牢と冒険、それに……恋? 2


 *



 エイリッヒが目ざめたとき、天井あたりにある小さな窓から月光がさしこんでいた。兵隊が手薄になる深夜まで、仮眠をとったのだ。そろそろ、いい時刻だ。


 すでにリンデは目をさましていた。

 狼にしろ猫にしろ、コウモリにしろ、夜行性の生き物だ。リンデは昼より夜のほうが活動に適している。ことに、こんなふうに月の明るい夜が、彼は好きだ。


 リンデがニカッと犬歯を見せて笑う。

「いい夜だな。気持ちがいい」

「おまえ好みの夜だな。こんな日には力が倍増するんだろう?」

「満月の夜ほどじゃないけどな。おれは、あんたみたいに、いろんな魔法は使えない。変身して、動物としての能力を発揮するだけだ。いろいろできる、あんたがうらやましいよ」


「おれだって、今はもう、ろくな魔法は使えない。太古にかわしたエレメンツとの契約があるから、多少、元素の力を利用できるだけだ。

 かつてのおれは、もっと多くの力を有していた。そのころの力の余韻が、体の奥底に感じられる。今も世界のどこかに、あの力が存在しているのだと思う。クモの糸のようなもので、かすかに、おれとつながっている」

「あんたも難儀だなぁ。エイリッヒ」

「その名前も、ほんとのものではないからな。真の名は、とっくに忘れた。おれは一度、死んだはずなんだ。そのときに多くの大切な記憶が失われた」


「忘れたなら忘れたで、いいじゃないか。失った力をとりもどそうと、あがくときのあんたは、ときどき怖いときがある。

 おれは、これまで邪まな心に呑まれて悪鬼と化した精霊を、何人も見てきた。家族や友人や恋人を、人間に殺され、復讐のために、悪しき化け物になりはてたやつらを。

 やがて、その魂は邪悪に染まり、悪魔になる。もう精霊じゃない。死んでも精霊として、よみがえることはできない。

 おれは、あんたに、そんなふうになってもらいたくないんだよ」

「おまえにとって、おれは親代わりだからな」


 もっとも、エイリッヒ自身には、どのようにして自分がリンデを育てたのか、ほとんど記憶にないのだが。


「でも、リンデ。自分がかりそめの命しか与えられていないと自覚しながら、夢を見るように生きるのは、もどかしい。

 胸の下で、今も、かつて引き裂かれた傷が血をふいているのが、わかるのに。その傷を見ることも、ふれることもできない。なぜ自分が苦しいのかさえ、知るよしもない。

 この形の見えない不安。いっそ傷口をこの目で見て、おれは瀕死なんだと知りたいんだよ。でなければ、一歩も前へ進めない」

「エイリッヒ……」


 泣きそうな目をしたリンデの顔は、ふしぎと、これまでに何度も見たという感覚が、たしかにある。

 こんなときには、リンデとのあいだの強い絆を感じることができた。

 自分はたぶん、リンデがいなかったころは、もっと、すさんでいたのだろう。じだらくで自暴自棄になっていたのだろう。

 誰のことも記憶に残っていないのが、その証拠だ。

 世界中のあらゆることに無関心で無頓着で、絶望のなかを無為に流されてきたのだ。


 でも、今は違う。


「大丈夫。おまえの声が、きっと、おれを正しい道にふみとどめてくれる。これからさき、どんなことがあっても」

「なら、いいけど」

 急に照れたように、リンデは話をそらした。

「そろそろ、小娘、起こしてやるか。置いてったら、泣くだろうからさ」


 そう言って、背後をふりかえったリンデは、うわッと声をあげて、おどろいた。

「どうした? リンデ」

「エイリッヒ。こいつ——」


 リンデの指さすさきを見て、エイリッヒも驚がくした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ