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薔薇園〜ローズガーデン〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
二章 伝説と予言の青い薔薇、そして殺人鬼

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二章 伝説と予言の青い薔薇、そして殺人鬼 5


 *



 ご主人さまをせかして、大急ぎでお屋敷へ帰りました。

 ご主人さまは仕事部屋へ直行です。

 あたしは、そのすきに、そうっとお屋敷をぬけだし、断崖へ猛ダッシュ。


「こんにちはァ。お兄さまぁ。リンデさーん。どなたかいませんか? おーい、あけてくれないと、玄関ぶちやぶっちゃいますよぉ」


 なんか、すごい速さで走ってくる足音がして、扉が思いっきり、ひらかれました。

「やぶるな! おまえが言うと冗談にならんわ。この怪力女!」

 出てきたのは、リンデさんです。


「す……すみません。でも、どうしてもお話がしたくてですねぇ。あの、お兄さまはいらっしゃらないんですか?」

「誰が誰のお兄さまだよ」

「エイリッヒさんですよぉ。別名、ミケーレさん」

「……やっぱり、おまえも捕まったか」

「は? 捕まるのは、ミケーレさんですよ? お城で聞いてきたんですけどね」


 わけを話すと、リンデさんは頭をかかえました。


「早ぇよ! もうバレたのかよ?」

「あのぉ? まさか、ほんとにエイリッヒさんがマチルダさんを殺したんですか?」


 リンデさんは青い顔で、うなりだしました。

 そこで、ふっと思いだしたんですが、そういえば断崖の魔術師は、たくさん人を殺してきた悪いヤツでした。


「ああッ! そうでした! ご主人さまのお兄さまだからって、悪いやつは悪いやつです。成敗しなくちゃなのでした!」

「待て待て待てって。おまえは、なんでそう短絡的なんだ。違う。違う。今、さらっと気になるワードが出てきたんで、説明してやるけどな。生皮はいで、はく製とか、シチューとか、骨メイドとか、あれ全部、おれたちが流したデマだ」

「デマ?」


 デマとは流言。

 つまり、作り話ってことですよね。


「そう。デマ。ウソ。ほら話。だからだな。エイリッヒはスゴイ人嫌いなんだよ。みんなから怖がられて、さけられるように、わざと恐ろしいウワサ話を自分で流したの。ほんとは、ただの厭世家えんせいかの魔法使い。人間を殺したことは一度もない」


 シャルラン、感激です!


「そうですよね! お兄さまが、そんな悪い人なわけないですよね! よかったです。信じてましたよぉ」

「さっきまで成敗とか言ってなかったか?」

「え? 誰が?」


 リンデさんは、ため息をつきました。

「……今までは、そうだったんだけどな」

 ちろっとリンデさんが奥のほうに視線をなげると、そこに、エイリッヒさんがすわっていました。シャルランを見て、にっこり笑って近づいてきます。

「白薔薇」


 またですか。


「いくら、ご主人さまのお兄さまでも、ちかん行為はゆるしませーん!」


 パーンチ——の前に、リンデさんが、エイリッヒさんの肩をつかんで、ひきもどしました。


「ああ、もう。おまえら、いいかげんにしてくれ。おれ、こんなことばっかしてたら、絶対、早く老ける」

「ええッ、だって、しつこいのはエイリッヒさんのほうですよぉ。昨日から何回めですか?」

「しょうがねぇよ。こいつ、おまえのこと、おぼえてねぇもん。エイリッヒにとって、おまえは三十分ごとに初対面なんだよ」

「何を言ってるんだか、わかりません」

「エイリッヒは病気なの。三十分ごとに記憶が消えてしまうんだよ。誰のこともおぼえてないし、自分がどこで何してたのかも、わからなくなるんだよ」


 シャルランは腕をくんで考えました。

「それって、おバカってことなんじゃ?」

「違う! 頭の働きは、すこぶるいい。おい、エイリッヒ。123456×654321は?」

「80779853376……かな」

「じゃあ、654321÷123456は?」

「5.300034020217……もういいか?」


 ああッ、ついてけません!


「難しすぎて答えがあってるかどうかすら、わかりません! さすがはご主人さまのお兄さまです!」

「だから、記憶がなくなるのは、頭が問題じゃないんだ。ハッキリした原因は、おれも知らないんだが……っていうかさ。さっきから言ってる『ご主人さまのお兄さま』って、なんだよ?」

「それは、ええと……」


 いきなり精霊と言うのは、マズイですかねぇ?

 エイリッヒさんが、ほんとに記憶の結晶化ができるかどうか確認したわけじゃないし、もしも、ただの人間の魔法使いなら、ご主人さまのこと悪用しようとするかも?


「……ご主人さまには、生き別れになったお兄さまがいるんですよ。それが、エイリッヒさんじゃないかと思うのです」

「なんで?」

「なんでって……」


 さて、どうしましょう。

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