罵文
あなたは恥の多い生涯を送ってきました……。ええ、私にはわかっています。
あなたはこの世界に生まれ落ちたその瞬間から、ただただ醜態を晒し続けてきました。子豚の断末魔じみた産声を上げ、小便を撒き散らし、母親でさえ抱きかかえて顔を見た瞬間、「返品できないものか」と心底後悔した始末。
生まれたての赤ん坊はしわくちゃで猿のようだと言われますが、あなたは今もなお猿のままです。見た目も内面も猿そのもの。人間的なものを何一つ持ち合わせていません。劣った存在です。その醜さに、あの桃太郎でさえ出合い頭に「無礼者!」と切り捨てることでしょう。猿蟹合戦の猿にもなれません。あなたには悪役すらもったいない。物語が始まる前、生まれ落ちた直後に何の役も与えられぬまま打ち捨てられてるに違いありません。
運よく人に生まれたおかげで、どうにか即殺だけは免れましたが、それがあなたの最初にして最後の幸運であり、不幸の始まりだったのです。
小学校、中学校、高校――どの瞬間を切り取っても、あなたは何一つ成功せず、つまずき、転び、場を凍らせ、空気を汚してきました。
けれども、あなたが失敗から得たものは何一つありませんでした。失敗はただの失敗でしかありません。エジソンもあなたを見たなら、「これはただの失敗作だ」と言ったことでしょう。
思い出してごらんなさい。あなたはどんな失敗をしましたか? 誰に嫌われましたか? 誰に泣かされ、そして誰を泣かせましたか?
隣の席の生徒があなたを見たとき、かすかに顔を歪めましたね。あれは気のせいではありません。あれこそが、人間としての自然な反応なのです。「誰にでも優しく」「平等に」「理由なく嫌ってはいけない」――そうした人間の善性のおかげで、あなたはこれまで生かされてきたに過ぎません。つけ込んできたと言ってもいいですね。あなたは醜悪です。周囲の忍耐にすがりつき、かろうじて存在できる寄生虫のようなもの。教師でさえ、あなたのことが嫌いでした。
鮭とは違い、あなたには捨てるところしかありません。「誰にでも一つは取り柄がある」と言うでしょう。あなたにはありません。ないです。
唯一褒めるとするなら、ないです。ありません。期待などしないでください。あるいは、その貧弱な脳みそのおかげで、鈍感にして厚顔無恥にこれまで生き延びてきたことくらいでしょうか。
今一度、耳を澄ましてごらんなさい。人々の声が聞こえるでしょう。あなたに死んでほしいと、人々は願っているのです。
家族に。職場の人間に。知り合いに。さらには店員や、通りすがりの人間にすら。ええ、あなたに友人など一人としていません。友人だと思っているのはあなただけです。あなたに人権などありません。気のせいです。
この世に生きてること自体が迷惑です。存在自体が害悪です。咀嚼音が不愉快です。呼吸をしてるだけで苛立ちます。二度と「おはよう」と口にしないでください。生理的に無理です。吐き気がします。淘汰されるべきです。死んでください消えてくださいバカ自殺しろカスゴミアホクズブスブサイクハゲデブキモイ臭いボケチビザコサルブタゴリラチンパンジーゴミムシウジムシゴキブリナメクジ負け犬虫ケラ便所虫怠け者チキン野郎サル以下ケダモノ社会のダニ豚鼻肌汚い二重あごニキビ面まぬけ面あほ面老け顔糸目青髭歯が汚い鼻の穴大きい体毛濃いそばかすうすのろ無能低脳へたれ鈍感根暗愚鈍グズ役立たずニート寄生虫社会不適合者引きこもり無駄飯食いウンコ製造機自宅警備員家族のお荷物パラサイト子供部屋おじさんおばさんあぶれ者無職親のすねかじり穀潰し人足らず頭おかしい出来損ない知恵遅れキチガイ池沼失敗作障害入ってる間違いの産物バイキン欠陥品ガラクタ不潔下品下劣世間の鼻つまみ者社会の底辺臭い息吐くなノロマ弱虫ビビリゲス卑怯者憶病者クソったれグズ野郎クソ野郎クズ野郎チンカス野郎イカレポンチマヌケ頭悪すぎ田舎者チンピラ腐れ外道チンカストンチンカンボンクラダメ人間へっぽこポンコツバカチン嘘つき根性なし意気地なし腰抜けケチパチンカスヘタレ意志薄弱ズボラ口先だけアホンダラ恥知らず幼稚独りよがり自己中空気読めない意識高い系勘違い野郎詐欺師軽薄軽率思慮不足差別主義者恥晒し中二病胡散臭い腑抜け無学無知大馬鹿者粗忽者嫌われ者愚か者小心者犯罪者万引き犯性犯罪者反社中卒整形不倫女ヤリマン売春婦枕営業腹黒経歴詐称売国奴地獄行き人殺し悪魔気持ち悪い頭弱いうざいネトウヨパヨク生きてる価値なしカス野郎精神病院行け残念な人ゴミ以下負け組薄気味悪い低レベル役立たずの標本バカの見本オツムが弱いトンマ木偶の坊どうしようもない奴本当に頭悪い知能指数ゼロ生存価値ゼロ生産性ゼロ嘲笑の対象人間のクズ社会のゴミ弱者男性無価値気に障るノータリン脳みそスッカラカンみじめな奴うるさい無駄に生きるなつまらない奴頭が空っぽパクリ野郎何でいるのしょーもない何やってもダメお前の存在が不快死んだ方がマシ世の害悪終わってる人まったく使えない貧乏人お前には期待しない誰からも好かれない生ゴミ粗大ゴミキモオタさっさと失せろ生き恥いたんだクソババアクソジジイクソガキ能無し誰からも必要とされてない進化に失敗した生物害虫理解力ないわかった気の馬鹿言葉が通じない生まれてきたのが間違い節穴生きる意味を見出せない人類の恥見苦しいヒトモドキトイレ臭い反吐ワキガ童貞変態浮浪者コジキゴミ漁り糞袋腐れ脳汚物負の遺産ド素人ヘボ時代遅れ小汚い恥の塊ゴミ人間無様息するだけ無駄頭お花畑埃無価値な塵世紀末レベルの低脳顔面偏差値ゼロ知能指数マイナスクソの役にも立たない奴愚かさの権化使い物にならない知能の欠片もない話を聞く価値なしゴミ以下の存在いるだけで邪魔お前がいなくても誰も困らない。
◇ ◇ ◇
汚名二慰は、しがないネット作家である。
どれだけ小説を書いても、ほとんど読まれることはない。わずかに寄せられる感想には心から感謝していたが、それでも時折、まるで宇宙に向かって叫んでいるかのような、底知れぬ虚しさに襲われた。
孤独は人を狂わせる。彼も例外ではなかった。ある夜、やけになった汚名は、読者を徹底的に罵倒し尽くす小説を衝動のままに書き殴り、そのまま投稿してしまったのだ。
キーを叩く音は怒りと怨嗟の太鼓のように鳴り響き、画面は罵詈雑言の奔流に呑み込まれていった。憎悪の痰を吐き散らすように書き終えたとき、彼の胸にはかすかな爽快感が残っていた。
投稿ボタンを押してベッドに潜り込むと、彼はいつになく深い眠りに落ちていった。
翌朝、汚名は仰天した。スマートフォンの通知が爆発したかのようにあふれ返っていたのだ。投稿サイトはもちろん、SNSも大騒ぎになっており、コメント欄はスパムのように埋め尽くされていた。
しかも不思議なことに、その反応が一様に好意的だったのだ。
フォロワーは雪崩のように増え続け、いくつもの出版社から連絡が舞い込み、さらにはニュース番組で取り上げられるほどの騒動へと発展した。やがて人々は、そんな彼を敬意を込めて『罵倒王』と呼ぶようになった。
だがなぜ、これほどまでに彼の作品が反響を呼んだのか。この時代は、誹謗中傷に対して極端なまでに敏感になっていた。現実世界はもちろん、ネットでも厳しく取り締まられ、他者を傷つける言葉は徹底的に刈り取られていた。自虐すら不謹慎であり、規制すべきだと議論されるほどだった。
ゆえに、人々は飢えていた。刺激に、毒に、罵倒に。抑圧された欲望は渇きとなり、汚名の文章は激辛の一皿のように喉を焼き、血を巡らせる新鮮な快楽として受け入れられたのだ。
こうして彼は、罵倒文学の第一人者として次々と本を世に送り出した。
記念すべきデビュー作は『あなたは恥の多い生涯を送ってきました』。続いて『貴様はゴミである。名前など必要ない』『止まれ、死ね』『天はお前の下に何も作らず』『お前たちはどう死ぬか』『お前と罰』と書き連ね、出版界の寵児へと祭り上げられていった。
内容はどれも代り映えのしない罵倒の繰り返しにすぎなかったが、買い求めるのは普段ほとんど本を手にしない層ばかりで、その単調さに気づく者はいなかった。
そしてある日、汚名は初めてファン交流イベントに立つことになった。壇上に姿を現した瞬間、スポットライトが彼を白々と焼きつけ、司会者の声をかき消すほどの拍手が会場を揺るがした。
汚名はぎこちない笑みを浮かべ、観客に手を振る。肘掛け椅子に腰を下ろし、指を絡めて組みながら満足げにほくそ笑んだ。
――これだ、これ。作家として、おれはついにやり遂げたんだ……!
しかし次の瞬間、その笑みは凍りついた。
「ブッサ……」
――え?
「猿みたい」
「鼻の穴でかすぎじゃない?」
「なんかくせえ」
「気持ち悪い……」
ひそひそと、木々の葉擦れのように嘲笑と罵倒が広がり、会場全体を覆い尽くしていく。
汚名は思わず司会者のほうを振り向いた。司会者はにこやかに笑い、ゆっくりと耳栓を耳に押し込んだ。
『いいですね、皆さん。その調子で、先生の著作の中からお気に入りの罵倒フレーズをどんどん先生に伝えましょう!』
その瞬間、汚名は悟った。
――人々が本当に欲していたのは、罵倒の言葉そのものではなく、罵倒してもよい“生贄”だったのだ。
四方八方から一斉に放たれた罵声は、鋭い刃の群れとなって汚名を切り裂いた。鼓膜を破り、鼻の粘膜を裂き、瞳から光を奪った。
椅子から力なく崩れ落ちる汚名。罵倒に耐性を持たなかった彼は、全身の穴という穴からどす黒い血を流し、無音の世界で孤独に死を迎えた。
「当然の末路だ」と、誰もが口を揃えて彼を褒め称えたのだった。