第3話: 王都への道中、ふたりの距離
王都を目指して歩き始めた拓真とエリス。拓真はまだエリスに助けられたばかりで、彼女にどう接してよいかわからず、ぎこちなく歩を進めていた。エリスは無言で先を歩き、その背中には迷いも疲れもないように見える。
しばらくして、小さな宿場町にたどり着いた。エリスは「少し休もう」とだけ言い、宿を見つけて部屋を取る。拓真も宿の手伝いを申し出たが、すぐにエリスに「自分の分を確保するだけで十分よ」とたしなめられた。
しかし、その後も宿で出会った旅人たちに話しかけられた拓真は、頼まれると反射的に「はい」と答えてしまう。荷物の運搬を手伝い、道案内を頼まれればついていく。気がつくと、自分がしたいことよりも他人のために動いてしまっていた。
エリスは呆れたように言う。
「どうして、そんなに頼まれることに弱いの?」
「えっと…なんというか、断れないんだ。『いいよ』って言うのが、癖になってて…」
エリスは冷たい目で拓真を見つめると、ため息をついた。
「頼まれるからって、全部受け入れるのは優しさじゃないわ。時には、断ることも必要よ」
拓真はその言葉に少しショックを受けつつも、反論することはできなかった。確かに彼は、相手の求めるままに動いていることが多く、自分の意思で何かを選んでいなかった。
そんなふたりの会話の途中、宿場町の人々がエリスを見てひそひそと噂しているのが聞こえてきた。エリスはそれを気に留めず、ただ前を向いていたが、彼女の目にはどこか覚悟を秘めたものがあるように見えた。
その夜、エリスが焚き火の前で淡々と自分の過去を語り出した。
「私もかつては、頼まれることが多かったわ。強くなるにつれ、人々の期待や頼みごとが増えて…最初は、私もすべてを受け入れていた。でも、そんなことをしていたら、いつか自分を見失ってしまう。」
拓真はその話に耳を傾け、エリスの強さの裏にある苦悩を感じ取った。エリスの言葉が、少しずつ彼の胸に響き、自分も変わりたいと強く思う。
「ありがとう、エリス。僕も…少しずつ変わってみたいと思う」
ふたりはその夜、少しだけ心の距離を縮めた。そして、拓真は王都に向かう旅を続けながら、自分の意思で「イエス」と言うことの意味を学び始めるのだった。