第1話: 異世界の風景とイエスマンの呪縛
「……ここは、一体…?」
佐藤拓真は、目を開けた瞬間に自分の置かれた状況が理解できなかった。目の前に広がるのは、見慣れた東京の街並みでも、会社のオフィスでもない、まったく異なる景色だった。あたりは広がる緑の草原、遠くには古びた木造の建物が並んでいる。空は高く青く、まるで絵本から飛び出してきたような美しい風景が広がっていた。
「異世界…?」
拓真は自分の頭を抱えた。記憶を辿ってみても、何も思い出せない。あんなに疲れていた帰り道、突然トラックに轢かれ、意識が途切れて――その先に、この世界が広がっている。信じられなかったが、体感としてはどうやら現実のようだ。
「でも、何で…?」
混乱しながらも、とりあえず立ち上がり、周囲を見渡す。地面には草が生い茂り、小道には小さな家々が並び、その先には広大な森が見える。風に揺れる木々の葉音が耳に心地よいが、拓真の心はそれどころではなかった。
「とりあえず、どうすればいいんだ?」
そんなことを考えながら歩き出したそのとき、突如として背後から声がかかった。
「おーい、助けてくれ!」
振り向いた先には、荷物を運んでいる一人の男性が立っていた。どうやら何か重いものを持っているらしく、苦しそうに息をついている。拓真は一瞬立ち止まり、反射的にその男性の方を見た。
「すみません、ちょっと助けてもらえませんか?」
その声に、拓真は迷うことなく答えていた。
「は、はい!」
その瞬間、拓真は何を言っているのか、頭の中で自分の言葉が反響した。――あれ?なんで断らなかったんだろう?まだこの世界のことを何も理解していないのに、どうして自分はこんなことを…?
しかし、すでに遅かった。男性はすぐに荷物を持ち上げ、少し楽になったのか、感謝の意を込めて「ありがとうございます!」と言った。その瞬間、拓真は自分のことをすっかり忘れて、目の前の人を助けることに心が支配されていた。
「いや、でも…」
頭の中で「断ってもよかったんじゃないか?」と思いながらも、体が勝手に動いていた。彼のように、他人の頼みを断れず、すぐに「はい」と言ってしまう。それが拓真の「性格」であり、いつの間にか染みついてしまった癖だった。
「自分のことよりも、他人を優先してしまう。」
その気づきと共に、拓真は改めて自分の生き方に疑問を抱き始めた。しかし、その後も彼は気づかないうちに、別の村人に頼まれごとを引き受け、また「はい」と言ってしまうのであった。