第6話 夏休み
ダリウスが、夏休み国元に帰らないというので、少し離れた別荘に誘ったのは祖母だ。ついでのように、私たちも誘われた。
意外なことに弟が、乗り気だった。別荘の書庫に詰め込まれたおじいさまと父上の蔵書が目的らしい。ああ、、、、まあ、、、あの子らしいね。
「ハル君かい?大きくなったね?」
親戚のおじさんかい?
懐かしそうに微笑んで、、、急に2メートル近い大男に握手を求められて、流石の弟も戸惑っている。
「あの、、、申し訳ございませんが、、、、」
そうよね?ダリが遊びに来ていたころは、この子はまだ2つ。覚えてないわよねえ、、
挨拶が済むとすぐに、姉がダリを引きずって、乗馬に出掛けた。
弟は、早速、書庫にこもる。
風通しのいいロビーで、おばあさまとお茶にする。
別荘は少し高地にあるので、王都よりは随分涼しい。
「相変わらず、、、あの子はダリウスに懐いているのねえ、、、」
「え??」
「小さい頃からピリピリして、痛々しかったから、、、私はいいと思うのよ、ダリウス。」
「・・・・・」
「愚息が、、、あなたたちの父上がねえ、、、頭硬くて。」
「・・・・?」
「あの頃、、、健康には自信のあったオーリが、3番目の子を流産してしまって、、、もう子供は望めない、と、言われて、、、アイリーンに教育が始まったでしょ?」
「・・・・・」
「オーリももちろん参っていたんだけど、それを見ていたエドがねえ、、ポンコツになっちゃって、、、、ちょうど、ルシア国の王が、末っ子を連れてきていて、、あの頃、ダリは3歳くらいだった?小柄な子でね、、、母親を亡くしたばかりだったから、、なんだかオーリに懐いちゃって、、、」
「・・・・・」
なんか、、、
「エドが、ダリをアイリーンの婚約者にしたのよ。それからかな、、、毎年半年間位、この国で教育を受けてたでしょ?覚えてる?」
「・・・・はあ、、、、」
「そうこうしているうちに、ハルが生まれて、、、もちろん嬉しかったわ、、、、あの子が、、ハルが3歳になるのを待って、アイリーンとダリウスの婚約は解消されたのよ。まあ、、、、まるきり、大人の都合ね。と、いうか、我が国の都合よね、、、、仕方がなかったとはいえ、、、、」
「・・・・・」
「ダリが国元に帰ってすぐに、今度はあの子の兄が亡くなったのよ。あの子は、、、立太子して、10のころから戦に出てるわ。まあ、、、小さい国だからね、、、隣国との小競り合いが絶えないらしくて、、、、」
「・・・・・」
「エドが、手を差し伸べようとしたらしいんだけど、うちの国はあなたの国の属国にはなっていないので、と、やんわりと断られたらしいわ。やるわね、ダリ。」
「・・・・でも、、、おばあさま?じゃあ、ダリが王になったら、お姉様が嫁ぐのに、何の支障もないのでは?」
「・・・それがねえ、、、、」
国力の差、なのだ、と。
小国から、《《もらう》》のはいい、が、、、大事に育てられた大国の姫を弱小国に《《出す》》のはいけない?
近隣諸国との力のバランスなんだと、、、、まあ、、、私にはよくわからないが、、、、
しかも、、、母上によく似た容姿と性格の姉上は、実は近隣諸国が狙っているらしい。
ブリアの栄光ごと手に入る?もちろん両国間のつながりは強くなる。
それって、、、、
「そうね、いわゆる政治的政略結婚、ね。」
おやじいいい、、、、自分は恋愛結婚だとか、言ってるくせに、、、、
まあ、それだけの権力があったってことかあ、、、、
「ダリはね、わかって来ているのよ。
もう、自由に動けるのが、このタイミングしかなくて、って笑ってたわ。
アリーが相変わらず美しい、だの、優しい、だの、美味しそうに食べるんだとか、、、いつも楽しそうに教えてくれるの。」
「・・・・・」
「私が心配しているのは、アイリーンのほうよ?」
「・・・・・」
「あの子は、、、またダリを失うんだわ、、、、自覚があるかどうかはわからないけど、、まあ、、恋だの愛だのとは違うかもしれないんだけど、、、、、、ねえ?イング?あの子を支えてやってくれる?」
「・・・・おばあさま、、、、」
「私たちは大人の都合で、あの子に与えては、取り上げているのよ、、、、今回のダリの留学も、、、私はできれば、断りたかったわ、、、アイリーンが、、、壊れないかしら?」
風がレースのカーテンを揺らしていく。
今までおとなしかったセミが、一斉に鳴きだした。