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その子を見かけたのはいつもの歯科の帰りだった。
いつもの時間に立ち寄るスーパーで彼は品出しをしていた。若い。高校生?ああ、進路が決まったからバイトしてるんだな。それとも彼女からのバレンタインデーのお返しにアクセサリーを買ってあげたいから?いいねえ、おばさんそういうの好きよ。彼はとても背が高かった。180cmはある。向かいの商品棚から頭が見えた。細くて色白でマッシュで指が長かった。ちょっと好きな俳優に似てる、マスクの下はわからない、でも期待値は勝手に上がる。その子の印象はそんな感じだった。
月一の歯科の帰り、必ず寄ると必ず品出し。毎日同じ時間に行っても、土曜日の午後にしか見かけなかった。彼を最も気に入った点はその静かな佇まいだった。黙々と品出しをし、声をかけられたら商品案内もちゃんとしていた。なんだかそれがこの上もなく『理想的』だった。理想的という言葉は適当ではないかもしれない。夫には全然似ていなかった。そもそも夫は身長はそんなに高くない。願望満載だったが、とても感じのいい子には違いなかった。だからこそ、こんな申し出は少し心苦しかったが、彼がどんな反応をするのかも興味があった。最初が肝心、軽蔑されるかもしれないけど、どストレートな方が響くかもしれない。
葛藤は終わらない。
「ねえ、あなた、いくら?いくら支払ったら一緒に映画行ってくれる?」
怪訝な顔、困惑と恐怖の入り交じる感じが、目元だけで警戒してるのがありありと伝わるとこまでを想像して、棚の向こうに見え隠れする彼の頭に(ごめんね)と謝ってその日は帰った。