第零章裏 創歴五百年、偽物の異世界
『ブロロロロォォォ!!!』
あのバケモノ、何故だ。何故俺は今高揚している?会えて嬉しい、何でそんな感情が芽生えた?
俺はビーン・ムゥ、アダムス王国軍国境警備隊の隊長だ。バケモノは俺のかつての友が生み出した悲劇の産物の筈だ。
「っ・・・余計な事考えんなよな」
『やっと会えた・・・』
っ!?何だ、今のは・・・誰だ?俺?あいつの仕業か?
『何を言っているんだよ、せっかくの家族の再会なんだぜ?ビーン』
家族?
『お前も早く目覚めたらどうだ?この偽物の世界から早く目覚めろ、俺はとっくに目覚めていたぜ?』
何を言っているんだ?俺は俺だ、このアダムスで育ったビーン・ムゥだ。
『あぁ、そうだったな。だがお前は覚えているのか?小さい頃の記憶を、お前に親はいたか?一体お前はいつからビーン・ムゥとして生きていた?』
この時俺は気が付いた、思い出せない。確か、俺を拾ったのはスチュワート隊長だ。戦いのセンスがあるとかなんとかで、でもその前は・・・俺は何も思い出せない。
『なぁ、何でお前はずっと昼休み国を抜け出していた?』
あ?サボりと、あそこのサンドイッチが食べたかったに決まってるだろ?
『本当にそうか?お前はずっと見続けていただろ?あの孤児院を』
確かに・・・言われてみれば、俺は大体いつもあの村に行く時あの孤児院に顔を見せていた。あれはただ孤児院の子が元気にしてるかを見たかっただけだ。
『あぁそうだ、見守っていた。お前はずっとな・・・でもその中で一番気にかけていたのは誰だ?』
サナちゃんとルナちゃんだ、でもそもそもあの子たちは最初から親が全く分からない特別な子だ。それに最後まであの孤児院にいたのはあの姉妹だし、それから一番よく懐いてくれたのはあの子たちだ。だから自ずと気にかけちまうだろ。
『何を言っている、思い出せ。俺の目覚めもサナとルナだ。何故いてはいけないあの子らはもうこの世界に存在してる?あの子たちの目覚めは今の筈だったのに』
今?何を言ってるんだお前は?誰なんだ?
『お前こそいい加減に思い出せ、まだ分からないのか?あの子たちの親はお前だ!ビーン、いや・・・レイノルド!』
っ!!
その名前が俺の全身を駆け巡った。レイノルド・ビル・ルーカス。俺の、名前・・・
「っ!!うりぃやぁああっ!!」
俺はあのバケモノに攻撃を仕掛けた。そして、俺の記憶は一気に開いた。
「くっ!!!隊長!!あのバケモノは!!」
「分かってる!とりあえずお前たちは一旦引いて援護の準備に回れ!こいつは俺がやる!!」
「しかし!」
「いいから早くしやがれ!!考えがあんの!!」
まずは前戦で戦う兵たちを後退させた。まだ加減がわからない、俺はどのレベルで戦ってた?
「どうやら記憶を取り戻したらしいな、ビーン・ムゥ君」
この声・・・あいつじゃない。懐かしいこの声は知っている。ディエゴだ、奴は前戦で戦う兵に紛れていた。
「ディエゴ・・・これは一体どう言う事だ?俺はお前たちに負けた、ニヒルちゃんの勝ちだった筈だ」
「すまない、ニヒルの転生者が現れるより遥かに早く人間は再び異世界を見つけた。記憶を取り戻す事もなくな・・・それでサナとルナたちの目覚めを早めざるを得なくなった。そしてそれと同時にルシフェルの人格だけが先に覚醒した」
「やっぱり・・・だから最悪の結末しか迎えられないって言ったのに」
「あぁ、計画は大きくズレた。既にこの世界は完全に向こうの世界の管理下に入っている。オレとお前は今、アウロのメンバーとなりここに潜入している」
「・・・そうか、成る程思い出してきた。これはルシフェルの奴の記憶だ。あいつめ、サナとルナにあんな怪我させやがって・・・でもまぁいいか、何とか命は守ったらしいしな」
「あぁ、今は何とかサナとルナは彼らの監視を逃れ狭間の世界で眠って貰っている。コマチと一緒にな」
「そうか・・・ディエゴ、桜蘭は今どうしてる?」
「桜蘭は当初の予定通り、既に向こうの世界で暮らしている。坂神という苗字だ、ウーネアの孫として今は高校に通っている」
「そっちは順調ってか・・・なら、転生者は?」
「やっと見つけた。名は三上 礼。指宿 永零君の方は未だ記憶は取り戻さず向こうの世界で生活しているよ」
「礼か・・・レイねぇ」
俺は少し鼻で笑った、なんか親近感の湧く名前だ・・・
「ディエゴ、お前はどうするつもりだ?確かにこんな未来は予知出来なかった、人間の貪欲さをより知る機会にはなったが」
「ニヒル アダムス君との約束は何が何でも遂行する。記憶も完全に戻っている訳ではないしな、ここはまだゼロ地点ですらない」
「ここはまだゼロ地点ではないか・・・確かに、このままじゃ全部が中途半端に終わる。それに、人間の脅威はさらに増した。新たな選択の未来はより厳しい選択を迫られるだろうな」
「あぁ、だからオレはニヒル アダムス君ともう一つ約束した、オレはルシフェルの意志を継ぐとな。人間の脅威はサナとルナに迫り、今度は桜蘭だ・・・そして俺は見た。人間が何度も同じ過ちを繰り返す様を」
ディエゴの顔は・・・同じだな、俺と。こいつは見たんだ、人間の本当の汚さを、存在してはいけない理由を。まぁそれでもディエゴはニヒルを信じているけどな。
「・・・ふっ、永零が言ってたな。今度は協力し合えるかもって、まさかこんな形とはな。ディエゴ、さっさとこの偽物の世界の茶番を終わらせようぜ」
「無論だ、オレは必ず約束を果たす・・・頼むぞ、レイノルド ビル ルーカス君」
「おいおい、誰だそりゃ。俺の名はビーン・ムゥ、国境警備隊隊長だ。援護頼むぜディエゴ!!」
どうしてこのバケモノがこっちに迫ったのか、今なら理解出来る。アレックス国王じゃない、ニヒルちゃんの本当の狙いは俺だ、俺との決着をつける為にここに現れた。
そして今目覚めた理由はただ一つ、感じたんだろ?お前を引き継ぐ転生者がもうすぐこの世界に現れる事を。
「でぇりゃぁぁあっ!!」
「凄い・・・ビーン隊長、あの親のバケモノ相手は一人で、それとあの兵士は誰だ?」
援護の部隊がやって来た。俺の配下の魔弓隊、正式名称は遠距離魔法弓援護救援隊。魔法族で構成された魔法を矢に纏わせ戦う部隊、上級階級の奴らならバケモノの皮膚を貫ける魔法弓を扱えるが、残念ながらここのこいつらにそこまで強い魔法を使える奴はいない。
「ディエゴ!間違っても魔法使ったりすんなよ!」
「無論!この世界の監視網は全世界に張り巡らされている!この乱戦であれば会話は聞こえないだろうが、お前も上級魔法をこの中で使ったりするなよ!?」
「当たり前ぇよ!!だからこそのこいつらだ!!」
最上級魔法無しにニヒルちゃんに挑むのはかなりきつい、ただでさえまだ俺は完全に記憶も力も取り戻した訳じゃないからな、ルシフェルとして戦うのは以ての外だ。それで魔弓部隊の出番になる。あいつらの一斉砲火ならそれを使い上級魔法レベルまで威力を引き上げた、遠距離魔法を使える筈だ。
「とは言っても、この武器じゃ一撃で砕けるな・・・つまりはたった一撃に賭けるしかねぇってか」
「隊長!部隊準備整いました!!」
「おう!!俺が合図したら一斉に撃て!そのタイミングを俺とこいつで作る!!」
「え、彼は!?」
「利害の一致した相方ってとこかな!ともかくお前たちよりかなりの戦場を潜って来たベテランだ!!だからさっさとやりやがれ!」
「は、はいっ!!」
魔弓部隊は配置に戻った。
「俺の記憶支配なら、別の人物に書き換えることは容易だが?」
「そーなの?そりゃ随分と力を、使いこなせるようになったな。でも、嘘はいつかはバレるって話しだ。このビーンの知り合いに、一つの嘘のせいで世界を恐怖に陥れるまで至った男がいるからな」
「ふっ、随分と人間らしい事を言うようになったな。その話為になったよ、生き抜く術に新たに加えておくとするか」
ニヒルちゃんの攻撃は以前と変わらない程強いが、あの刀、異世輝國を失っている今のニヒルちゃん。その武器になる爪のリーチと俺の槍と魔法、俺の方が今は上だ。
さて、準備は整った。俺はニヒルちゃんをじっと睨む。次で一気に終わらせる・・・その命を俺は奪うよ、でも必ず取り戻す。何もかも終わらせて、今度こそ一緒に・・・
この時、俺はニヒルちゃんから同じ視線を感じた。同じように俺を睨む。ニヒルちゃんの計画はもう破綻したも同じ、でもまだ諦めないって言うのか?
いや、まさか・・・ニヒルちゃんは最初からこうなる事を予見してた?人間のこの行動を、じゃあディエゴに教えていた計画は・・・
「ディエゴ、最後に一つだけ質問していいか?あの最終戦争の日、お前はどこまで計画を聞いていたんだ?」
「ビーン・ムゥ君、俺がニヒル アダムス君から聞いた計画のほとんどはオレの憶測だ。彼女の考えを考察、推測し行動していたに過ぎない」
そう言う事か、やはりディエゴに全てを伝えていた訳じゃなかった。ディエゴに教えていたのはあくまでもニヒルちゃんの意志。ニヒルちゃんの守りたいものを、どう守るのかはディエゴ自身が決めていた。
「全く・・・ニヒルちゃんの行動にはいつも驚かされるなぁ、こんな未来を賭けた博打は普通はしないでしょ」
「誰も選ばない道を選ぶ、オレに映っているニヒル アダムスという女性はそう言う奴だ。それを汲み取り俺は行動していたが、やはり彼女はそのオレのさらに上を行っていたらしいがな」
この俺相手にどれだけ策を練ってんだよ・・・ただ、一つの平和の為にどれだけ・・・
あぁ、俺も大差無いか。計画の為になら何でも犠牲に出来た。その犠牲を救えればその過程なんてどうでも良かった。桜蘭も、サナやルナも・・・全て終わる時にそこにいればそれで良いって。
けど、ニヒルちゃんはそれが嫌だったんだ・・・ニヒルちゃんにとって過程が一番大切な平和の在り方だったんだな。だから俺たちはこんな大げんかしてるのか。
「なら俺は、俺を信じよう。どちらが正しいのか、勝負しようぜニヒルちゃん・・・行くぞ!!構え!!」
『撃てぇっっ!!!』
一斉に電撃を纏った矢が放たれた。
「喰らえ・・・俺のこの、雷鳴の一撃をな!!」
俺を中心に電撃は数珠繋ぎのように連鎖する。そして持っていたナイフをニヒルの急所目掛けて全部投げた。数珠繋ぎの電撃はナイフたちに収束していく、そして同時に俺は槍で強烈な突きを放った。
「行けぇっ!!」
ナイフと槍に収束した一撃はニヒルの全ての急所を貫いた。
「はぁ、はぁ・・・今度こそ俺の・・・いや、また引き分けかよ。痛ぇ、絆創膏貼ってもこれ、治らないかもな」
すれ違いざまだった、ニヒルの攻撃は俺の左頬を掠めていた。治そうとしても、全く治らない。何で傷が消えないのか、あの時は神の入れ知恵だとばかり思っていたが、そうじゃなかった。
これはニヒルちゃんの意志の強さだ。最初に付けられたあの傷も無理矢理治したけど、何度も傷が開いたんだよな。
「・・・分かった、その賭け俺も乗るわ。お前は賭けたんだろ?お前の転生者によ。そしてもうすぐ来る、お前がここまでして賭けたんだ、俺がこの命を懸けて導くぜ。だから今はちょっと休んでな」
ニヒルはゆっくりと倒れる、ビーンは彼女をそっと抱きしめ受け止めた。
「くっ・・・俺、神様なのになんで・・・目から水が溢れやがる。また会えるってのに・・・これ、涙じゃないわ、絶対に俺泣いてないからな、だって永遠の別れじゃねぇから!俺はこんなので涙は流さねぇよ!?」
口から出まかせを言うが、本音は苦しかった。過程と言う物が大事だと言う事を初めて痛感した。そしてニヒルちゃんは俺の手元から消えてなくなっていった。
取り戻すんだ。俺は、何としても・・・
「く、くく・・・礼 早く会ってみたいぜ、そして俺と勝負しようぜ!」
その時俺はいつのまにか口を押さえて笑っていた。好奇心が俺に向かって押し寄せたんだ。
楽しみだなぁ、礼。俺お前の事好きになれるかな?名前からして男なんだろうなぁ。どんな性格してるんだろ、ニヒルちゃんに似てるのか、いや、名前から察せるよ。
お前はニヒルちゃんと全然違う性格してる。けど、お前みたいな奴、俺は好きだぜ?
分かるんだ。お前はニヒルちゃん以上の奴だって。お前なら、全てを変えてくれるってな。だから、一緒に世界を変えようぜ?
礼。
こうして五百年眠り続けた物語は今、再び幕を開ける。この物語は私たちが「支配者」を倒す物語。そして、「支配」を・・・
終わらせるぞ・・・




