創歴十九年 異世界の出産
???年
「ふんふふーん・・・らーりらったった〜」
あたしは鼻歌を歌いながらいつものように本棚の整理、整理っと。さて、今日やるべき事は・・・
「よ」
「こりゃ随分とお早い到着なこったね。で、何の用?」
「分かってるんだろ?」
「まぁね〜、でも言ってくれなきゃやってやんないよ〜だ」
「そうだな・・・カラスちゃん、お前に最後の仕事を頼みたい・・・」
「あいあいさ、つまりはあたしも歴史の表舞台に立つ時が来たって訳ね。でも良いの?あんたあいつの事大好きなんでしょ?」
「好きになってしまったからこそ、俺がやるべき事はあいつを救う事だ」
「向こうの世界に入り浸ったかと思えば、随分とまん丸になったもんだねぇ」
「俺も不思議なくらいだ。人間の全てを憎んだ俺が、あの人間に惹かれ、剰え惚れたんだ。世界はまだまだ面白いものもあるもんだな」
「でも、終わらせるんでしょ?」
「あぁ、ケジメ付けないとな・・・」
「そうだ、あたしはあんたの事なんて呼べば良い?そのまんまレイノルド?」
ここに来た男の名は、レイノルド ビル ルーカスと名乗る存在。けど、今ここにその名を名乗る人間はいない。いるのは・・・
「それとも・・・本名の方が良かった?」
「そうだな、俺の時はその名で呼んでくれ」
「じゃ、あだ名で呼ぶわ。ほんじゃねー、るーしーちゃん」
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創歴十六年 四月一日 ニヒル アダムス。
「ぬぐううううううっ!!!」
「ニヒルちゃん!!頑張るんだ!!」
「お姉さま!!気を確かに!!」
ウーネア!?気は確かだ!!今私は絶賛出産の激痛との戦いだ!
噂には聞いていたが・・・これはやはりとてつも無い、こんな流暢に考える暇なんて本来無いくらいだ。
「うおりぃやぁぁぁぁっっっ!!!」
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激闘を終え、私に息子が産まれた・・・
「ひゅー、一時はどうなるかと思ったぜ」
レイノルドが腰を抜かして私のベッドの横に倒れた。
「ほんとよね〜でも息子かぁ。良いなぁ〜、私にも誰かいないかな、因みにあんたはお断りよ?」
「あん?」
両脇で仲良く腰を抜かしてる割にはレイノルドとウーネアの口はまだまだ回る。知ってるか?世間の間ではお前たちが夫婦なんじゃ無いか?なんて言われてるぞ?
そして私とレイノルドの扱いは親子だとか聞いた、やれやれ・・・だとしたらこれじゃ私はもうおばあちゃんになるぞ。
「あはは、また仲良く喧嘩してるね。さてとニヒルさん、この子があなたの息子だよ」
永零が息子を抱いて私に見せた。出産は衛府郎と永零が立ち会ったんだ。元より衛府郎は産婦人科では無いが様々な医学に精通してる医者、永零は言うもがな。奴の能力のおかげで出産がスムーズに運んだ。
私は息子の顔を見る、こんなに小さいんだな。私はそっと指を頬の近くに持っていくと息子は小さな手で私の指を握った。
「ふふっ、これこの子絶対お母さんっ子になるわね。息子に嫌われるお父さんの気持ちはどう?」
「べっ!別にまだ嫌われた訳じゃねーし!!」
「ほらほら二人とも、病院では静かにね」
『は、はぃ・・・』
永零が少し怖い笑顔で二人に言い聞かせた、二人は黙った。
「ところでニヒルさん、レイノルドさん。この子の名前は決めたの?」
「勿論!グレートジーニアス!!」
「レイノルド・・・何回か死んでくるですか?」
「え?だめ?」
ダメに決まってるだろ、前から思っていたがどんなネーミングセンスを持っているんだこの男?
「じゃキングオブアナザーワールド!!これなら」
「死ね」
レイノルドが凹んだ。私は外を見る、桜が満開だ・・・あ、そう言えば桜の花言葉は『優美な女性』や『私を忘れないで』だったな、前に森羅の知り合いの奴からうんちくを聞いた。
でもこの子にはそんなの必要ないな、自分を持って、そして自分に自信を持って生きてくれれば私は言うことはない。
ん、そうだ。ならあの花にしよう。
「桜蘭って書いてサクラ、確か桜蘭の花言葉って『人生の門出』だったですよね、今この子の人生はこの満開の桜の下から始まった。人生は何かを始める事の連続、だからこの子には色々始める人になって欲しいです。始める事で自分の世界は広がって、また新たなスタート地点に立つ。そしてまた世界が広がる。そうやって人との関わりを大切にできる人になって欲しい。私はあまり人付き合いが得意な人じゃ無かったですから」
私が名前の案を出したら周りはしんと、静まり返った。
「な、なんです?」
「泣いた・・・」
「は?」
「ニヒルぢゃ゛ん゛、何でそんなネーミングセンスあるんのぉ?」
レイノルドが涙と鼻水垂らしながら泣いている。
「桜蘭ね、うん、良い名前じゃない。みんなも賛成でしょ?」
あ、ドアの外・・・騒がしい気がすると思ったら、どんだけ見舞いに来てるんだ。森羅や隆二たちと飯綱親子に四精霊は良いとして四神も来てるな。それから?覚醒者組のボローニャ達もいる。ほぼほぼ私の知り合いが来てるな。一人を除いて、ディエゴは一人修行してるのか。
それからさらに数年が経過する。
創歴十九年 アダムス王国 ニヒル アダムス
「はい、ではその旨はエイドの方に・・・了解です」
私はエイドへの言伝を賜った。そしてすぐにエイドの永零に連絡する。
私の今の仕事は国王だ。運送会社の役員から考えると、とんでもない出世だな・・・とは言っても、余り仕事の内容が変わった気はしない。
ただ、流石に今の覚醒した身体でも少し疲労が来るな。
今私は第二子を妊娠した、しかも衛府郎の話では双子らしい。ただ不思議なのはこのお腹の子は何故妊娠したのか分からないんだ。確かにレイノルドとは桜蘭もそろそろ大きくなりつつあるから第二子も良いんじゃないか?と言う話をした。
しかし、それは私がこの世界に来て二十年を迎えるにあたって、一旦向こうの世界に戻った後にしようと言っていた筈なんだ。それでレイノルドに問い詰めたんだが、レイノルドは涙ながらに「ニヒルちゃんにそんな危ない事させる訳ないだろ!」と逆ギレされた。そしてレイノルドにいる仮面の男に関してもレイノルド曰くこの十何年奴は眠っていると言っていたし・・・
かと言ってこの命を軽く捨てる訳にはいかない。だから私は一度向こうの世界に戻ってそこで出産する事にした。今はそれに関して国王の業務をウーネアに引き継いでもらう為にやるべき事をやっている。
「あ!ちょお姉さま!!後はもう私がやるって言ったじゃない!」
「いや、これだけは何とかやっておかないとダメです」
「お姉さまのそう言うとこはダメだと思うわよ?身重なんだから、自分は良くてもお腹の子には良くないのよ!ほら!お姉さまは帰って桜蘭の面倒を見る!出産で一旦向こう行くんだからしばらく会えなくなるのよ?そこんとこちゃんと考えなさい!」
「はぁ、分かったです。息子を蔑ろにするのは親失格か、じゃぁ任せたです」
「お任せあれ!こう見えても私、国民からお姉さまと同じく女神様って呼ばれてるんだから!」
ウーネアは力こぶを私に見せる。
人間って、ほんと生きるのが大変な生き物だな。何かを巻き込まなければ自身の幸福は得られない。何もかも得ようとしてもそれはただ失うだけ。今更ながら、私は極めて恵まれた存在だと改めて認識させられる。業務を引き継いでくれる妹はいる、家事をやってくれる旦那がいる。出産の事を色々やってくれる医者がいる。そして息子と遊んでくれる兄貴分もいる。
桜蘭は基本誰にでもすぐ懐くが、特にお気に入りなのがディエゴだ。桜蘭は今三歳になり、言葉も大分話せるようになった。ディエゴが言葉を教えていたおかげで、他の子よりも言葉のレパートリーが多い。なんなら桜蘭が初めて話した言葉も「でぃえご」だった。最初の言葉がそれで少し悲しかったが、桜蘭はそれほどまでにディエゴに懐いている。
その為私が出産でいない間、ディエゴがメインで面倒を見てくれる事になった。他にも森羅や四精霊も桜蘭を見ていてくれる。
私は家に帰るべく職場の部屋を離れ、廊下を歩いていた。
「貴方が、ニヒル アダムスね?」
突然後ろから声をかけられた。なんでいつも神様系の奴らは私の後ろに立つ?そんな事を考えながら私は振り向いた。
「初めまして、わたくしはガイア」
そこにいた女性に私は固まった。その美しさは表現の域を超えている。感覚が彼女はこの世界で最も美しいと認識した。
「ガイアって・・・確か、森羅の」
「えぇ、訳あって少しこちらへ来ました。森羅と衛府郎は元気かしら?」
「は、はいです」
「そう見たいね、それよりもわたくしは貴方に用事があって来ました。顔を良く見せてくれますか?」
ガイアは私の顔をじっと見つめた。視線が離せない、見惚れているんだ。
「うん、分かりました・・・」
「あ、あの一体・・・」
「命の女神、これまでの貴方の軌跡を見たのです。貴方の力はこのわたくしと同じ、あらゆる生命を感じる事が出来る。わたくしは向こう世界の貴方とでも言いましょうか。まぁ、貴方と違い出来損ないの存在ですが」
「え、出来損ないなんて・・・私よりあなたの方が」
「確かに、見た目はそうかもしれませんね。なんせ神は完璧な美しさを求めてわたくしを作ったんですから。けど。その見た目だけの美しさでは世界を平和にする事は出来ません。貴方がきっと、神の探し求めていた答えなんでしょう。けど、貴方は・・・」
「え、あれ?」
私は思わず瞬きした瞬間、ガイアは姿を消した。あの悲しい顔は何だったのか・・・何を言いかけたのか。
とりあえず私は帰らなきゃいけないんだ・・・
「お、帰って来た!全くよー、今朝起きたら仕事行くって紙置いてきやがってよー。お腹に赤ちゃんいるんだから考えてくれよ!」
帰るなり、レイノルドが私に説教か。
「ウーネアにも言われたです、悪かったですよ。ま、とりあえず今日で一応はやるべき事はやったからまぁ良いだろ」
「ぬー」
レイノルドはエプロン付けたまま不貞腐れてる。
「ニヒル、帰って来たな」
「おかしゃんおかりっす」
ディエゴは桜蘭を抱っこしながら出てきた。そして桜蘭を私に渡す、そして桜蘭は足の裾にしがみつく。
「いつも済まないですね。桜蘭の面倒見てもらって」
「俺は構わない、それより、客人が来てるよニヒル アダムス君」
「おいっす!ニヒルおねえちゃん!」
「上がらせてもろてますー」
飯綱たち一家がいた。それに加え
「よ、ニヒル、邪魔してぜ。にしても桜蘭君、お前のへんな喋り方移って来たなぁ。大丈夫か?」
隆二だ。
「私の真似してしまったかもですね、すまん」
「まぁ、親子らしいっちゃらしいか、個性は大事だしな。それより、帰るのは明後日なんだろ?玉藻さん達も同じタイミングで帰るつもりらしいし、俺も帰るからその打ち合わせ的な事したくてな。今大丈夫か?」
「元々ウーネアにさっさと休めと帰されただけですから、まだ余裕です。それに、唯の会話だろ?問題ないです」
打ち合わせと言いつつこれは最早唯のパーティになった。レイノルドが客用に料理を作り、それを食べながらほぼほぼ雑談、飯綱は桜蘭と遊んでる。これは最早休息だ。
「にしても善之介にも子供が産まれたし、ニヒルなんか第二子だ。俺も早いとこ作らねーとなー」
「あー、ならウーネアどうです?あいつも彼氏募集ですよ?」
隆二がぼやく。こいつも私と同じ仕事人間だからな、私は成り行きで結婚したが、こいつは出会いが無い。
「え、いや・・・あの子も確かに可愛いけどさ、なんつーか怖い。特にニヒルの事になるとさ・・・な?」
ウーネア、そう言う扱いなのな。
「そうですか。なら森羅辺りに聞いてみたら?」
「あ、森羅で思い出したけど、衛府郎も結婚するらしいぜ?何でも向こうの患者の治療が完了したら結婚してくれってさ」
「こりゃ急いだ方がいいですね」
「せやったらうちがええ子紹介したろか?」
そこに助け舟を出したのは玉藻だった。
「玉藻さん・・・」
「うち妖の知り合いも多いんでな?」
隆二の為のお見合い話は玉藻に任せよう。
割と大変だが、これが今の日常だ。双子が産まれたらもっと忙しくなるな・・・名前も決めなければいけないし。でも、今は幸福だ。




