1945年 8月10日 大日本帝国
ほっ!やぁどーも!丁度いいとこに来てくれたよぉ!
さっきあまりにお腹空いてたもんだから、ウーバー〇ーツでデリバリー頼んだのよ。そしたら頼みすぎちゃってさぁ、お金はいいから一緒に食べてくれない?
え、もう食べてきた?あら、そぅ・・・あー、ラップして冷蔵庫に入れとくか。
一緒に食べるの好きなんだけどなぁ、でも食べてきたんじゃ仕方ない、食べすぎ良くないよね。
さてと、今日は次の日。二発の原爆が落とされた直後の日本、もう勝ち目は無いと思われたけど日本にはまだある秘策があったんだ。
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1945年 8月10日 神和住 森羅
『ドン!ドン!ドン!』
我が邸を誰かが滅茶苦茶な勢いで叩く。玄関なら鐘を鳴らせばいいだろう、それに、そんな勢いで叩かなくても一度鳴らせば邸の者がすぐに出る。それすらも待てないのか?
「神和住 森羅!!私は大日本帝国陸軍大佐、東郷 慎平だ!!貴様に用がある!!」
日本陸軍か。おおよそ予想はついているが、入れるとするか。わたくしは邸の者に指示を出した。
「はい、いらっしゃいまし。主がお待ちです、どうぞ」
「失礼する!!」
大佐とかいう男、邸の者を押しのけずかずかと入って来た。
「貴様が神和住 森羅か!?」
そしてわたくしのいる部屋を勢いよく開けたかと思ったら険しい剣幕で言い放った。
「いかにも、わたくしがこの邸の主。神和住 森羅だ。要件とはなにかな?」
わたくしは出来る限り物腰を柔らかくしたつもりだ。しかし、この男はそれが気に喰わないのかさらに怒りを強くした。
「貴様!!赤紙を拒否したらしいな!!!それがどういう意味か分かっているのか!?」
「えぇ分かっています。分かっているからこそわたくしは拒否した。わたくしは赤紙なんて物は受け取ってはいけない人間ですから」
「赤紙が届くと言う事は天皇陛下の御意志!!貴様は天皇陛下をも愚弄するか!?」
「さぁ、神と言えども間違いはあるのでは?」
「貴様!!」
大佐の怒りが頂点に達した時、ふすまが空いた。
「お茶が入りました」
「あぁ、客人にも出してやってくれ。大佐、少し落ち着きなさい。いいですね」
「お茶だと!?貴様、そんな贅沢品を!!この非国民が!!話は無用のようだな!!ここで成敗する!!」
大佐は軍刀を引き抜いた。
「えぇ、わたくしはこの国の国民ではありませんよ」
「な、なに!?」
「そもそもその話で来たのではないのですか?わたくしの力が借りたいと」
「分かっているのなら従え!!」
「ですから従う事は出来ません。それはこの戦争が始まった当初に天皇陛下に申し上げた事です。わたくし、神和住はこの国に何があろうとも軍事的介入はしないと。そう申したはずですが?」
「なんだと!?」
確かに約束したはずだ。この力は陰にのみ存在する、軍事に利用されてはいけない。ただ一国の利益の為に使う事は固く禁じられている。その理由は強すぎるからだ、いくら米軍がどこまでの戦力を得ていようとも関係がない程強いからだ。
「我ら神和住が動く時と言うのは世界の均衡を乱された時だ。我が『神破聖拳』は、均衡をもたらす為に使われる」
「なら尚の事!!その力を世を乱す悪鬼に使うべきではないのか!?」
「いや、逆だ。戦争を最初に仕掛けたのは日本だ。どんな理由があれども日本が仕掛けた。そして日本は無駄に勢力を伸ばしすぎた。大東亜共栄圏と言う己惚れを正義と思い込んだ。バランスを乱しているのはこの国だと思わないか?」
「貴様ぁ!!」
大佐は剣を振るった、が・・・
『パキン!!』
綺麗な音を立てて刀が折れた。
「な、馬鹿な・・・傷一つ付かないなんて!!」
「当り前だ、わたくしを誰だと思っている?わたくしは現、神破聖拳伝承者。神和住 森羅、刀程度では傷もつけられん。銃弾だろうと、爆弾だろうと・・・何万の命を奪ったと言う、あの兵器だろうと。神破聖拳の前では無意味、分かったか?これ以上大日本帝国軍としてわたくしに介入するのならばわたくしは、均衡を保つためこの国を滅ぼす」
「くっ!!覚えておけ!!」
大佐はすごすご帰っていった。
「父さん・・・」
「衛府郎か、どうした?」
そのすぐ後、ふすまの後ろに隠れていた息子の衛府郎が顔を出した。
「本当にこれで良かったの?神破聖拳の掟は知ってる。でも、均衡を保つと言うのなら今こそ神破聖拳を使う時なんじゃないの?これまで世界を乱してきた多くの独裁者を葬って来たんでしょ?どうして何もしないんだ?」
衛府郎は少し怒りと、困惑の表情で訴えてくる。確かにその考えは間違っていない・・・だが。
「わたくしは、もう終わらせるべきだと思っている。この時代、神破聖拳は既に時代遅れだ。とは言っても無敗の拳である事に誇りはあり、それは間違ってはいないと考えている。だが、今回のこの戦争。誰が悪いとかはもう存在しない。世界大戦とはよく言ったものだ。この世界、全てが悪なのだから。世界は自らを悪だとも気づかずに無意味に争いを続けている。むしろわたくしはこの戦争、逆にどのように結末を迎えるのかを見たい。どれだけ犠牲にすれば気が付くのか。もしくは気が付かないのか」
この戦争はもう少しで終わる。空が光り、広島を焼き尽くしたとか言うアレでどう感じた?このまま行けば簡単に星その者ものを壊せる。世界はその域に達している。
バランスは今、自動的に取り戻されつつある。神破聖拳を使わずとも・・・
「父さん、母さんが死んでからおかしいよ・・・米軍が一体何をしたのか知ってるの?」
「あぁ、知っている。だとしてもだ、それはこの国も同じ事が言える、世界の全てで言える。植民地、奴隷、強制労働、どの形であれどの国も勝った所はそれを手に入れる。だが、それも恐らくもう少しで終わる」
「終わらないかもしれないだろ?確証も無いのによくそんな事が言えるな。『勝てば官軍負ければ賊軍』これはどんなに時代が変わろうと変わらない。国が負ければ他国に飲み込まれ、より悲惨な地獄が待っている。それを止められるのは我らだけだろ?」
「衛府郎、お前は少し正義感が強すぎる。どんな形であれ神破聖拳はバランスを保つ。どちらかの正義感に囚われてはいけない。時には悪の存在にも手を貸す事にもなる。それに、世界はもう戦争の愚かさを実感している。さっきの男、焦っていたのはそれを知ったからだ。戦争には意味がないと頭では分からなくとも心では感じているからだ。だから手出しはしない、我々はこれまで通り見守る」
「まだ分からないだろ?もし間違っていたら、戦争はより多くの人の命を奪う。父さんはバランスとか言ってるけどさ、人の命ってそんなに軽くてもいいの?前から思っていた、無駄に死に過ぎだ。父さんは母さんが死んだ時どう思った?定めだから、バランスの為に仕方がないって思ったんだろ?そうだよ、あんたは母さんが死んでも何も悲しんではいない。そして俺も愛してはいない。お前はただ、その固い頭と伝統だけを守りたいが為に俺を産んだだけなんだろ?」
衛府郎は声を荒げてはいないが、どんどん個人的主観を前に出し。今にも怒りが爆発しそうな勢いで語りだした。流石に、わたくしも苛立ちを覚えた。大人げないが、言い返すとしよう。
「衛府郎、確かに母さんが死んだのはバランスのせいだ。神破聖拳を受け継ぐ子孫の母は子を産みすぐに死んでしまう、言わば呪いだ。神破聖拳のパワーバランスを保つためにあの方が定めた呪いなのだ。後継者は二人以上いてはいけない、そして一子相伝。その為に母さんは死んだ。しかし、わたくしはその定めの為だけにお前を産んだんじゃない。母さんとの出会いは本当にただの偶然だ。わたくしは母さんを本当に愛していた。でも母さんは元々病弱で、あまり長生きは出来そうになかった。わたくしは母さんをただの人だとは思っていない、わたくしにとって特別な存在であることは確かだ。それともう一つ。人一人の命を軽んじた事は決して無い」
「そう言う所が軽んじてる風に聞こえるんだよ・・・決めた、父さん。俺にとって世界のバランスを乱しているのは父さんの方だ。神破聖拳次期後継者として、お前を排除する」
どうにも・・・わたくしは衛府郎の言う通り、頭が固いのかもしれない。息子へのろくな触れ方も知らず、ただ淡々と技を教えただけで、愛情は注げていないのかもしれない。
ただ、揺るぎない事実は、これ以上神破聖拳を残すのはもう意味がないと言う事だ。世界はこれから自らの手でバランスを取らなければいけないと思う。それだけは譲れない。だからわたくしは、衛府郎、お前には奥義はおろか、神破聖拳をほとんど教えてはいない。基礎の基礎、護身術程度だ。
衛府郎、お前は良い目をしている。だからこそ、神破聖拳なんてものに囚われてはいけない。更なる成長を望むのならお前は、別の方法でわたくしを超えろ。
衛府郎は拳を構えた。本気で殺そうとしている。ずっと何もせずに人が死ぬのを見ていたわたくしを蔑み、自身はその殺される人を救いたいと願う。悪い事ではない。だが、わたくしにはそれが出来ない。
「来い」
「はぁぁぁあああああ!!神破聖拳!衝勢!!!」
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「げほ・・・ごほ・・・」
衛府郎は倒れている。正直に言えばわたくしにとっては相手にならない。まだまだ弱すぎる、だが闘志は依然燃えている。
「衛府郎、その程度がお前の覚悟か?」
「っ!!まだ、まだ・・・!!」
「いや、もういい。お前はよく頑張った、これの方がいいのかもしれない。お前のその拳は神破聖拳の一割も引き出せていない、と言う事はまだまだ成長が出来る。わたくしはもう極め過ぎた老害と言う奴だ。だがお前は、その教えた基礎を更に別の方向に発展させられる。わかるか?その力をバランスの為ではなく、正義の為に使えるのだ」
「・・・え?」
「衛府郎、これよりお前を破門する。これからは、自らで足を進めろ。神破聖拳ではなく、お前の手で守って見せろ。わたくしが出来るお前へせめてもの愛情だ」
可愛い子には旅をさせよ、と言うやつのつもりだ。とは言っても、不器用には違いない・・・結局、わたくしは何がしたいんだ。それが分からなくなっている時点で、世界にわたくしはもう必要ないのだろう。
これからの時代は、衛府郎のようなまだ見ぬ未来を見ている人が必要になる。だからわたくしは、せめてその者らの邪魔をしないようにここで隠居していよう。
衛府郎はずるずると足を引きずりながら出て行った。
「よろしかったので?」
近くで見守っていた邸の者がわたくしに問いかけた。
「わからない。伝統を考えるならば恐らくは良くはないだろう。けどわたくしとて人間だ、個人的観点がある。わたくしの主観は衛府郎に神破聖拳の重荷を背負わせたくはない。時代は移ろい、長きに渡ったこの拳も、そろそろ休ませるべきだ。ガイアもそう感じているんだろう?」
「そうでございます、ガイア様もこの戦争が終わった後はイタリアへ向かいたいと話されておりました」
神破聖拳にはもう一つの役割がある。それは命の女神と呼ばれる存在の守護。それが神和住一族の役割だ。
彼女らもまた、伝統と言う鎖に縛り付けられている一族。しかし、彼女らは我ら神和住一族よりも重く、切り離せない重荷を背負っている。
わたくしは拳を封印すればそれでいい。しかし、ガイアはそうはいかない、生まれついてその運命に縛られる。ガイアはあらゆる命の流れを見る事が出来る一族、そして死ぬまでその命の流れを見続けなければいけない。手も出せずひたすらに命の叫びを聞く。わたくしからすれば気が狂いそうになる話だ。
「イタリアか。いい街だが、そこに行っても何も変わらないだろ?」
「えぇ、変わりはしません」
奥の部屋からこの国には絶対にいないであろう金髪の女性が出てきた。これがガイアだ。客観的に見れば芸術と言っていい程の美しい姿をしている。
「しかし、我が子にはせめて今のこの惨状は見せたくはない」
「ガイア様・・・まさか妊娠を?」
ガイアは不思議な一族だ、適齢期が来たら勝手に妊娠する。そして生まれるのは女性のみ。男性の遺伝子を一切受け継がない。これも酷な話だ、誰も愛せず宿命のまま子を産まなければいけない。そしてその子には命の女神と言う重荷を背負わせなければいけない。
「はい、この戦争でこの国は負ける。それはもう分かっています。復興には時間がかかる・・・いえ、思いの他かからないかもしれませんね」
「どういう事だ?」
「こっちの話です、この国が敗北するのは五日後。そして完全に終結するのは来月あたりになりますね。その日を境にわたくしはイタリアに向かおうと思います」
「そうですか、分かりました。では神和住一族も守護者として共に向かいましょう」
「いえ、あなたはここに残りなさい。それが望みでしょう?」
「え・・・しかし」
「わたくし自身も考えていた事です。世界のこれからを考えるのであればわたくしの守護は別の者に任せます。世界はもうそれが出来る、神和住ではない人間が。ガイアも神和住も、この古い考えを捨てなければいけない時期が来たのです。それにはガイアと神和住、その二つの分断が必要と考えます」
「ガイアと神和住を分ける・・・考えてもみなかった」
本音が出た。神破聖拳の強さがあってガイアはこれまで守られてきた。しかし、それを分断・・・世界はそこまで来ているのか。技術で神破聖拳を上回ると・・・
「ですが森羅。神破聖拳は封じる事はまだこの先出来ないでしょう。あなたが本当にその拳を必要としない世界を望むのなら、あなただけは使命を全うしなければいけません。時には掟も破り自分で考え動かなければいけません。あなたにその覚悟はありますか?」
覚悟か・・・これは非常に厄介な覚悟をしなければいけないんだな。伝統を壊すと言う事は、生半可では・・・頭の固いままではいけないと言う事か。
「しなければ衛府郎はおろか、孫の代までこの伝統を押し付けてしまう。ならば覚悟を決めよう」
神破聖拳はわたくしの代で終わる・・・衛府郎、お前はそのまま進め。わたくしはこのまま、神破聖拳の役割を全うする!
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創暦 ???年
驚いた?君たちの世界にはね、まだまだ隠されてきた裏の歴史があるんだよ、これはほんのその一部。神和住はその圧倒的な力を持っているが故に国家に帰属しない。歴史が動いた時、その影には必ず神破聖拳があったんだよ。一部ではフリーメイソンとかの仕業とか噂されてたね。
神和住は決してどこにも属さない、それが掟だった。けどえふちゃんはそれを破った。そして森羅も、別の形で掟を破る事にした。
さぁ、果たして二人の運命はどう転がっていくんだろうねぇ・・・そしてガイアも、神破聖拳でなくても自信を守れる存在って何なんだろうね・・・でも、その前に次は異世界の事を少し話しておこうね。永零のその後を。