1965年 5月 異世界再始動編 その4
1965年 5月 ニヒル アダムス
例のパーティから数週間が経った。魔法、指輪、刀。私は何かを思い出さなければいけないんだ。
凄く大切だったはずの思い出が私にはあった。隆二や善之介たちと同じくらいに大切で、守らなければいけない誓いを。
「あのー、部長?」
「あ、田中どうしたです?」
「ここにハンコ、お願いしたいんですが・・・」
「あーはいはい。ハンコね、えっとどこにしまったでしたっけ・・・」
あれ、確か昨日引き出しにしまったような。違うわ、鞄の方に今度使うから入れたんだ。
らしく無い事を、こんなんで無駄に時間を有するとは、仕事に対する気合が足りんな。
昼休み
たまには屋上にでも行こうか。私は階段を上がると先客がいるな。あれは佐藤と田中か。
「なぁ、ニヒル部長ってさ」
「どしたの?」
「いや、最近大丈夫かなって。なんかここ最近疲れてそうじゃん。前のパーティの事故と、それによるガイアグループとの提携の白紙、結構気にしてるんじゃ無いかって思ってさ」
成る程、しかしそこは気にするな。私も願い下げだだったからな。
「それね、今までに無いくらい気合い入ってたのに、辛いだろうな」
おい、勝手に被害者にするな。やれやれ・・・
「おい、何人の不幸をおかずにご飯食べてるですか?」
「わっ!部長!?」
「な、いや!!何でも無いんです!はい!」
「ま、心配してくれるのは感謝するですよ。しかし、それで逆にお前たちの業務に支障がきたしたら、分かってるですね?」
「あ!当たり前ですよ!でも、それ言うなら部長の方こそ業務の支障は大丈夫なんです?私たちにはそうですけど、部長最近顔色が悪いように見えます」
「あ?田中、誰に向かって言ってるですか?私はこの通り・・・ん」
あれ、身体が上手く頭がいきなりふわふわして・・・あかん!
私は踏みとどまった。
「立ちくらみか、まだ涼しい季節だが、そろそろ暑くなって来る頃か」
「いや、どう見ても疲労ですよね、はい。部長、たまには有給使って京都旅行でも行ってきたらどうですか?」
何を?私が抜けるとその後の仕事が・・・
「そうだぞニヒル、たまには休め」
「あれ?橋本さん?」
「よ」
いつのまにか橋本さんまで屋上に来ていた。今日はやけに賑やかになったな。
「ニヒルよ、最近見てて思ったんだよ。あのパーティ以降あんまし仕事に身が入ってないぞ?伝達ミスも起こってるし、お前らしくねぇ。ってな訳で、勝手に有給届け出しといたぜ!てかニヒル、有給使えよ。余りまくってんじゃねぇか。これからの時代、仕事と休息の両立が必要だぜ?」
何を勝手にやるんだこの男!
「あ、いたいた。ニヒル!」
「あ?善之介!?何でお前が!?」
「いや、今日出張でここに来るって前から言ってたじゃないか。さっきから探してたんだよ?」
そう言えば・・・ほんとに物忘れ酷いな・・・
「にしても、さっき下で君の噂話聞いてたけどほんと大丈夫なの?やっぱりこの間の事で・・・」
「仕事は仕事、個人は個人です!」
「はぁ、君らしいね。でも、流石にこれは休んだ方が良いよ。って、その有給届けの日・・・」
「うん?」
「いや、僕もその日休みにしてるんだよ、嫁さんがね、本格的な結婚生活の前に一人で気晴らし旅行で京都にでも行ってきたら?ってね。ま、どちらかというとあいつの事だから美味しい八つ橋やらお土産でも買ってきてって意味だと思うよ。それで良い店見つけたら今度は私も連れてけと。本番前の下見って感じかな?」
どう言う嫁さんだ・・・
「お、だったら良いじゃんか!ニヒルも丁度京都に旅行行くらしいしよ」
橋本さん?私はそんな事一言も言ってないですけど?言い出しっぺは佐藤が適当に・・・
「あ!ニヒル!善之介!もしかして京都行くのか!?だったらおすすめの宿があんだけどよ!」
「うわぁっ!隆二!?何処から出てきた!?」
びっくりした、ってか何でいるんだ?流石に記憶辿っても今日隆二がこっちに来る予定は無かったはずだ。
「そんな事気にするな!気になったから来たんだ。それより善之介よ、京都旅行下見に行くんなら俺が案内するぜ。結構京都は行くし、色んな店知ってんだ。王道から知る人ぞ知る店まで教えてやるぜー」
「あ、助かるよ!俺京都は詳しく無いらかさ。変な土産買おうものなら何で言われるか分かったもんじゃ無い。いやー助かるな」
「で、ニヒルも来るよな?」
「・・・この雰囲気、行けって命令と同じですよね。なんです?この芝居がかったこの感じ」
寸劇に巻き込まれた気分だ。でも、こいつらと旅行か。昔みたいで懐かしいかもな。前歩いて旅してた時は舞鶴の方を通ったからな。中心部の方は見た事はない。
「芝居じゃねえよ、たまたまだ!んじゃな!休みの日に名古屋駅集合な!」
やれやれ・・・みんなして私を元気付けようとしてるのは一目瞭然だ。
後日 名古屋駅
私は荷物を揃えて名古屋駅に到着した。
「あ、善之介」
「や、ニヒル。隆二だけど先に京都で待ってるってさ」
「ツアー添乗員の癖に現地集合ですか全く」
私と善之介はホームへと上がっていった。各駅停車で場所は自由席で良いだろう。前まで年末年始とかにしかなかったが最近毎日に設定されたんだ、私はどうにも特急と言うのが嫌いなのか。
と言うより、切符買うのに指定席の指定とかやったりするのが面倒くさいんだ。だからこの自由席はかなりありがたい。
そんなこんなで列車に乗り込むと、オフィスみたいなタバコの香りと灰色と青色の配色の座席が飛びついて来る。
「あ、空いてた」
私たちは二人掛けの座席に座る。車内は結構満員に近い。出発する頃には立ち席の人も出て来た。
私はボケーっと飛んでいく景色を見る。この景色を見るのは好きだ。速度二百キロ超え、世界にまだ類を見ない技術だ。それをこの国で体感できるのがなんか良い。
列車はあっという間に京都に到着した。
うん、何処をどう行けば良いのか分からん。出口は何処だ?
「お、いたいた!ニヒル!善之介!」
一号車付近から隆二が走って来た。十二両編成もあるのによく分かったな。
「やっぱり指定席使わずに来たか。しかも各駅停車、ニヒルらしいケチっぷりだな」
「悪かったな」
「まぁ良いや、それより何処か行きたいとこあるか?」
「京都と言えば梅小路機関区!!そこに行きたいんだけど!」
善之介がはしゃいで出てきた。なんだそれ、聞いたこと無いが。
「おま、普通清水寺とか、東寺とかじゃねぇのかよ」
「いや、SLの写真撮るのが趣味でさ。一度行きたかったんだよね、そんな時間かけないから良いでしょ?」
善之介はカメラを取り出した。あれ確かめちゃくちゃ高いやつじゃないか?
「いや、良いけどお前奥さんにそのテンションはやめとけよ?離婚されるぜ?」
そんなこんなでその梅小路機関区とやらにやってきた。
「うはー!この扇形車庫見てみたかったんだよー!最近はSLも減ってきたしね。写真に収めとかなきゃいつかなくなっちゃう!」
成る程ね、たしかに最近は蒸気機関車は少なくなってきたな。電車が主流になりつつある。
善之介にとってはここは美術館か博物館に見えてるみたいだな。
私も一応カメラは買って持ってきたんだ。善之介のやつほどいいやつではないが、けど結構な値段して買ったんだ。記念に一枚だけ撮っておこう。
「さて、そろそろ次行くか。ニヒルは行きたいとこあるか?」
「京都で知ってるのは清水の舞台か、伏見の伏見稲荷ですかね?」
「お前はやっぱり王道だな。俺のおすすめは嵐山なんだがそれは明日行ってみるか。今日はやっぱり清水だな」
そして清水寺、ふむ。私はやっぱりこう言うのが好きだな。これがかの有名な清水の舞台か。良い景色だ。撮っておこう、あ、あそこに見えるのは音羽の滝か、後で行ってみようか。
「ふぅ、にしてもここは坂道多いですね」
「そりゃ山ん中に立ってるようなもんだからな。ここは因みに産寧坂ってんだ。三年坂が正しい呼び名だけどな」
へー、流石に詳しいな。関西住みは伊達じゃないか。
「んじゃ、次は錦市場に行ってみるか?あそこに美味しい店があんのよ」
ほーん。それで私は錦市場に来た。かなり活気のある商店街だ。
「ここが300年以上続く、京の台所なんて呼ばれてる錦市場だ!」
「ふーん。それよりお腹すいたです」
「俺も」
そろそろ昼時だ。
「ここはたしかに良い店もあるけど、今日は食べ歩きしようぜ?そうした方が食べながら周れる。ニヒルはこっちの方が良いだろ?」
たしかに、店に入ってその店を堪能するのも悪くはないが、観光はどちらかと言えば何というかより周った方が勝ちみたいな感じがするからな。そうしよう。
うむ。中々良いな、食べ歩き。色んなものが食べられる。太りそうだ・・・
「ほな、このネギくれはります?」
「へ!いやー今日もべっぴんやな!今日は特別更にサービスや!」
「あら、うれしぃわ〜。ほなまた来ます〜」
ん?あー、成る程。関西らしい売り方だな。相手を持ち上げてからの。サービス、それでリピーターを増やす狙いか・・・けど、なんで私は今の女を見たんだ?なんか、誰かに似ていたような・・・
「おーい!ニヒル?何してんの?」
「あ、はい!」
置いていかれる所だった。この歳で迷子で交番の世話は嫌だ。
「んじゃ、今日は伏見稲荷行ってから旅館だな。伏見に良い旅館知ってんだ!」
「伏見に?その旅館何があるです?」
「ん?聞いてくれるか?そこの女将さんがめっちゃ美人なのよ!お前も見習った方がいいぜ!」
顔面凹ますぞ。
「まさか隆二、その人に気があるの?」
「い、いや!?多分あの感じは旦那いるだろうし!?でもあわよくば、仲良くなりたいかなー?」
やれやれ、女目的か。
「おいなんだ!?その目!言っとくけどな!あの人の料理めっちゃ美味しいんだぞ!お前の数千倍は凄いんだからな!それを割と格安で泊まれるんだ!もっと知れても良いのによ!あ、でも有名になったら遠くに行っちまう!」
はいはい、どーせ私は女性の魅力が皆無なガキ大将ですよ。
それで私は伏見稲荷までやって来た。なんだ?なんだか、懐かしい香りがする。ここの境内全体。この懐かしい香りに満ちている。
どか!
「ん?すまん、見てなかった」
「あ、こちらこそです!すみません!」
そんな事してたら誰かにぶつかった。ちょっと強面のコートを来た男だ。こんな季節なのにコート?そんな寒くはないぞ?それに今の男も何処かで・・・
「おーい!また何ボケっとしてんだー?一人で突っ立ってよ!」
隆二が私を呼んだ。のは良いが、一人?
振り返ったらさっきの男はいなかった。
「あれ?」
私たちは参拝をして、そして伏見を見て回った。そして隆二は少し寂れた路地に入る。ここにその旅館があるそうだ。確かに中心部からは少し外れて立地はそこまで良いとは言えないか。
けど、私は好きだ。雰囲気の割には旅館の内装はかなり綺麗に整っている。
そして女将が玄関で待っていてくれていた。
「どうも!お玉さん!!」
隆二、鼻息鼻息、落ち着け。
「毎度おおきにな、隆二はん。ほんでお客様、ようそこおいでやす。わたくし当旅館の女将をしてます、玉藻と申します。本日はこのわたくしが、お客様の担当させて頂きます。どうぞよろしやす」
「あ、はい。こちらこそ・・・」
な、なるほど。これは凄い、佇まいと言い、醸し出す雰囲気は私なんか遠く及ばない。
って、この人・・・よく見たら、さっき錦市場で買い物してた・・・
そう思った瞬間。なんか目が合った気がした。そして笑っていた。営業スマイル?
「隆二が気に入る理由、分かったかもね」
「そうですね。隆二見てみるですよ、さっきまであんなにはしゃいでいたあの男が、今は顔真っ赤で何も言えてない」
「あら隆二はん?顔、真っ赤やけど、どないしはりましたん?」
「い、いえ!なんでもございやせん」
「ほなええですけど、無理はなさらんといてな?隣のお客はんも、今日は心ゆくまで、ゆっくりとうちの旅館でくつろいでいって下さいな」
そうさせて貰います。




