1965年 4月 異世界再始動編 その2
1965年 4月 東京 ニヒル
パーティ会場、うん。なんとも煌びやかな雰囲気だ。うちの企業場違い過ぎないか?確かに最近は色んな事業も手を出してはいるものの、メインは流通の会社だぞ。トラックで色んな荷物運んだりとかが主な仕事だ。
なのにここにいる奴ら、どう見てもセレブだ。どうもありがとうございました。
『本日はガイアグループ主催のパーティにお越しくださりありがとうございます。私はガイアグループ上海支部代表、シェンリーと申します・・・』
ガイアグループの代表の挨拶が始まった。意外と若いな。中国企業と聞いていたが、日本語もペラペラか。通訳も付けず、一人で中国語と日本語で演説を続けている。
「将校さん、聞きたいことがあるです。いまいち分からないのですが、ガイアグループとはどんな企業なんです?この雰囲気といい、一端の駆け出し企業では無いですよね」
いくらなんでもおかしい。これじゃ大企業のパーティだ。それに、ここに来る途中すれ違った男。あの男確か新聞で見たことがある。男であの長い三つ編みは、日本ではあいつしかいないだろう。
「やはり、お前の見る目は確かだな。お前をこのパーティに呼んだ理由はお前のその洞察力を貸してほしいと思ってな。あ、ならあの男の事ももう知っているのか?」
将校さんが指差したステージの上にはその三つ編みの男がいた。
『ここで神和住製薬、代表取締役社長の挨拶をお願いします』
『ご機嫌よう。この度、この様な会に招かれた事をとても光栄に思います。つきましては・・・』
「神和住 衛府郎。神和住製薬の社長です。将校さん、一体何をしようとしてるです?何故私たちみたいな流通会社に製薬会社が関わってるですか?」
私は少し語気を強めに将校さんに詰め寄った。
「神和住製薬とは利害の一致から声をかけてもらったんだ。私は今この先の時代の事を考え福祉の方にも力を入れようと考えている。
ニヒル、今の時代は伸び続ける時代だ。若者は必死に働きこの国を常に変え続けている。しかし、時代が流れていけば、今のこの時代を作る若者も年老いて、身体はいつか言う事を聞かなくなる。先の時代を作ってもその時代で健康に生きられないのは辛いと思わないか?私はそう考えてた時に、神和住製薬のあの男とたまたま出会ってな。彼もまたこの先の時代を考え動いていた。そこで意気投合したと言うわけだ」
「ほんで、その神和住の誘いでこのパーティに俺たちが呼ばれたってわけ」
「うわ、隆二どこから来るですか?」
突然隆二が将校さんの脇からぬっと出てきた。
「ん?隆二、もしかしてこの事知ってたの?」
善之介も少し不機嫌そうに隆二に尋ねた。
「俺もついこの前知ったんだよ。一応言うとだな、ガイアグループってのは日本ではまだ知名度無いけどよ、世界から見たらとんでもなくでっかい巨大財閥なんだ。ライバル企業にその事知られたら流石にまずいって思ってな」
「あぁ、それでトップシークレット扱いにして参加者のお前たちにもガイアの事は伝えていなかったんだ。すまん」
将校さんは頭を下げた。こればかりは責めるも何も無いな。確かに運が巡り合ったにしてはちょっと人一人で抱え込むには大きすぎる。だからといって周りを巻き込み過ぎるのはチャンスを棒に振る可能性がある。
にしても、神和住にガイア。そんな超巨大企業と業務提携とはな。帰ったら佐藤と田中になんて説明しようか・・・
「ところで、将校さん。結局ガイアグループってのはどんな企業なんです?」
納得はしたが、ガイアがそもそもなんの企業なのかわからん。
「その事がお前を呼んだ一番の理由なんだ。ガイアは衛府郎が信頼する企業で、あいつと同じく製薬もやれば自動車、船舶、航空業界への参入などと言った文字通りの財閥だ。しかしな、衛府郎からもそう言う企業としか聞いてない。
あいつ曰く、ガイアも我々と同じく未来を見据える存在と言ってるが、私自身まだガイアの方のトップとは会ったことがない。私は直接相手を見なければどうにもな」
「ん?将校さん、ではあの男は?えっと、シャンプーみたいな名前の・・・」
ド忘れした・・・なんだっけ最初に名乗ってた。
「あの男は違う、言い換えるなら隆二と同じポジションだ。因みに名前はシェンリーだ」
そうでした。
「それでだ、私はこの業務提携の話を断るか否か、お前に決めて貰いたくて呼んだんだ」
「・・・はい?」
将校さん?今しれっと、私にとんでもない責任押し付けませんでした?
「お前は昔から人を見る目は確かだった。確かに今回のこのチャンスはもう二度と無いかも知れない。乗らなければ二度とこれ以上のチャンスは来ないだろう。しかし、私はどうにも疑り深いというかな。相手を心の底まで信用出来ん。衛府郎には悪いが、それが私なもんでな。衛府郎の言う未来を見据える存在は、果たして心の底から奴らは考えているのか。もし上っ面だけなら私はこの話は無かったことにしようと考えている。
ニヒル、隆二、善之介。お前たちを呼んだのは他でも無い、お前たちが私にとって最も信頼出来る部下で家族だからだ。だからお前たちに委ねたい、すまないな。私は意外と天邪鬼の言うか優柔不断と言うか、どうにも疑ってしまうんだ。申し訳ないが頼めるか?」
成る程、ずっと暫く悩んでたのか。久しぶりに会った時少しぎこちなさを感じたのはこれのせいってか。
だったら、やるしか無いでしょ。私たち家族がまた一つになる時だ。
「なら、代表と直接話してみますか?所長さん?」
その時だった聞いた事があるような声が聞こえた。
「その声・・・まさか」
将校さんが冷や汗をかき目を大きく見開いていた。
「お久しぶりですね所長さん。かれこれ20年振りになりますかね?」
そこにいるのは白髪の若い男だった。
「永零なのか?お前、あの時原爆で死んだと・・・」
永零って確か戦争の時広島にいたとされる将校さんの部下の名前が・・・でも、この名前もっと身近な気がする。何処かで聞いたんだよな。どこだ?
「あの原爆の地獄から辛うじて生き残ったんだ。ごめんねずっと連絡出来なくて、その後僕は海外に飛んでたんだ」
「そうだったのか。にしてもお前、全然老けないな、と言うか若返ったか?」
確かに、永零の年齢は考えるとしたら普通に考えて将校さんの少し下。つまり、四十代は超えてなければおかしい。
「そうかな。所長さんの方こそあまり変わってないように見えますよ?」
「冗談はよせ。それよりも、ガイアとはお前が作ってたのか?」
「厳密に言うとちょっと違うんですけどね、でも今の代表は僕って事になってます」
この男が、ガイアの代表。将校さんの顔、確かに旧友との再会を喜んでいるのはわかる。けどそれ以上に社長としての将校さんはこの男を警戒しているように見える。
「・・・ニヒル、すまないがここは二人と話せるか?積もる話もある」
成る程、分かりましたよ。私は少し待ちます。
「どうぞ、私はここで待ってるです」
「頼んだ」
将校さんは永零と共にどこかへ向かった。
「・・・隆二、盗み聞きは良くないですよ?」
私はこっそりついて行こうとした隆二を止めた。
「悪いけど、俺綺麗事は嫌いなんでね。あわよくば将校さんも出し抜くのが俺の生き方よ。個人的にも興味あるし」
「はぁ、やれやれ。知ってるです?知りすぎは身を滅ぼすんだそうです」
「大丈夫、俺。そう言う匂いには敏感だからよ。んじゃ」
隆二も行ったか・・・後の事は知らないぞ。
1965年 4月 将校
「さて、そろそろお前の目的を聞かせて貰おうか?永零」
「この一連の出来事。うまく出来すぎてるのは僕のせいだ!って言いたいんでしょ?所長さん。確かに僕が介入して君たちの会社がここに来るように仕向けたのは僕だよ。でも、僕としてはどうしてもあなたたちの力が必要なんだ。所長さん、それに隆二さんもですよね。この国の裏ルートを取り仕切ってるのは」
「・・・そこまで調べが付いてるのか」
「そうですね。けど、その事はニヒルさんや善之介さんには伝えてはいない。違います?」
「相変わらずだがまわりくどいな貴様は。お前の求めてる答えを言ってやろう。ニヒルにこれ以上この世の裏側を見せたくない、それに尽きる」
「やっぱり・・・ニヒルさんにはあくまで平和に暮らして欲しいと?」
「そうだ」
「それを彼女は本当に望んでますか?」
「あいつなら余計に首を突っ込む。あいつは私以上に理不尽を嫌っている。けど世界の真実は未だ理不尽の蔓延る世界だ。だからせめて、あいつの見る世界だけでも変えたい。そう願ってる」
「そうですか、なら尚更あなたの協力は必要になってくる。僕らガイアグループとそして神和住の最終目的はこの世のルールの破壊。その理不尽からの脱却を目指しているんです。所長さん、理不尽に奪われる命がなくなる方法。あるとしたら何が思い付きます?」
「・・・死ななければ良い、死人に口なしと言うものだ・・・ん?まさか、お前の今の研究は何をしてる?」
「ガイアの財力と神和住の日本での技術力。そしてコネのおかげで不老不死の力はもう目の前に来てるんです」
「まさか、本気なのか?」
「僕のこの若い身体がその答えですよ。なんなら今ここで僕に包丁を刺してみます?」
「その顔は本気で言ってるんだな・・・しかし尚更分からない。その力があるなら何故すぐに使わない?何故我らと提携したいと申し出た?」
「この世界はそう簡単にも行かなさそうだからね。そもそもこの技術を何故日本の政府にではなく企業に渡したのかは、僕は政府という存在を信じてないからね。所長さん、あなたはこの不老不死を軽く見過ぎだよ。この技術がこの世界で与える影響を考えてご覧?」
「・・・成程、政府に渡さない理由は見えた。核が通用しなくなる技術の存在は、核抑止論を根本的に覆す。そしてそれは新たな戦争を産むと言う事か」
「そう言う事、それでは結局誰かが犠牲になる。だから一企業として僕はこの力を使う。そして僕の最終目的は全人類の一斉不老不死化。全人類に一気に平等に力を送る。それを言い換えればテロとも言えるかもね。だからこそ僕は今凄い慎重になってるんだ。所長さん、あなたは僕を信じますか?」
会話のやりとり、そして曇りなき瞳。こいつは昔からとんでもない事を実際にやり遂げる。かつての戦争もほんの少し時間が有ればもしかしたら勝っていたかも知れないと今でも思う程だ。
「聞いたか?隆二、どうやらこう言う事らしい」
「あいよ将校さん」
着いてきていた隆二を私は呼んだ。
「やっぱりいたんだね。実にあなたらしいや。僕と言えども簡単には信用しない。良い心がけだよ」
「昔からお前の異常さは感じていたからな。正直に言えば昔からお前は凄いと感じていたが、それが少し恐怖にもなっていた」
「あはは、僕って結構嫌われ者なのね。ならいっその事アイドルでも目指してみようかな?」
「あいどる?なんだそれは・・・」
「うーん、言い換えるなら皆んなに好かれる存在かな?そういえばまだこの言葉なんてこの時代には浸透してないのか」
「何を言ってるんだ?訳がわからんぞ?」
「僕にはまだ秘密がいっぱいって事だよ。それでもあなたは僕を信じてくれますか?」
「・・・どうだろうな、まだ様子見としか言えない。そもそもガイアとの業務提携はあまり乗り気では無かったからな。いくら巨大とは言え腹の底を見せ合えないのはどうにもな。その為にニヒルたちを呼んでいるんだ」
「そうですか、良いですよそれで。確かにいきなり提携しようと言われても分からないですものね。でもね所長さん。人なんて心の底から相手を理解するのは不可能なんですよ。それがどんなに信用できる存在だとしてもね・・・だったら今はこれをあなた達にガイアグループの友情の証として差し上げます。ガイアグループの技術の結晶とでも言いましょうかね。名前は『異世輝國』と言う日本刀です」
永零は一振りの刀を私に渡した。かなりの業物だな。しかし、この刀身の材質はなんだ?鋼より軽くそして頑丈だ。こんな物資は見たことが無い。
「ん?これ、ニヒルの指輪の石と色が似てんな」
隆二が刀の刀身を指摘した。ニヒルの指輪?そこまではしっかりとみていなかったな。確かに良い指輪をしてるとは思っていたが・・・
「あぁ、ニヒルさん。ウーネアさんの指輪付けて来てるんですね。これはその石と同じ、加工が非常に難しい特殊な鉱石で出来てるんですよ。そしてこの刀の最たる所は・・・ん?」
永零が突然顔色を変えた。
「伏せて!」
そして永零は凄まじい速さで私と隆二を抱えて地面に伏せさせた。その時だった。いきなり爆発が起こった。この耳鳴り、爆弾か?
「な、何が起こったんだ一体よ?」
「この感じ、まさかこんなタイミングで特異点が来るなんてね・・・流石に予想できなかったよ」
『我らはアンダーエデン、世界を変える者』




