創歴前 百年 十二月 1955年 6月 その3
ニヒル アダムス
私たちは沙羅曼蛇の国、入り口にやって来た。一日、私がここにいなかったのはたったそれだけだ。ここは私がいつも帰っていた場所。第二の故郷とも呼べる場所だった。
しかし、ここは私をまるで拒むかのように門を閉し、しんと静まりかえっている。
「ここは儂の国なのじゃがのぉ、なんじゃこの空気は。おら!ここ開けんか!」
サラマンダーは不貞腐れた顔で、門に向かって叫んだ。
『ガコンッ・・・ゴゴゴゴ』
サラマンダーの声に呼応するかのように門が突然少しだけ開いた。
そしてその中から一人の少年が出て来た。永零だ、永零は安定の笑顔を見せながらこちらに出てくる。
「ぉお?開けるんかい」
「勿論だよ、だってここは君の国じゃないか。王の帰りをもてなさない訳ないでしょ?でも僕は沙羅曼蛇との約束を守らなきゃ行けない。僕は君に全ての技術を授けなきゃいけないんだ。それが約束だったからね。けど、君はその約束を破棄しようとしてる。沙羅曼蛇の望んだ平和への技術を脅かすのなら僕は、君をこの先に進ませるわけにはいかなくなるね」
殺気・・・今までこいつとは真正面に立った事は無かった。全身の毛が逆立つ感覚、息がしづらい。永零という男はここまで内に怒りを秘めていたのか。
「儂との約束か、確かにの。儂はお前にその全てを捧げよと、あの男は言ったはずじゃ。しかし、為にならない技術を寄越せとは言わんかったぞ。お前のそれは儂の平和にはならぬ」
「っはは!面白い事を言うね、全てを手にしたいと願った僕の知る彼とは大違いだ・・・やはり君は、僕の知る沙羅曼蛇ではないんだね」
「そうじゃ!儂はサラマンダー!炎の精霊にしてこの国の王じゃ!そして、この儂の目的は平和を手に入れに来たのではない!友と共に平和を守りに来たのじゃ!指宿 永零!」
「平和を守るか・・・この世界はまだ平和じゃないのに、見損なったよサラマンダー。なら見せてあげるよ、真の平和の世界を、君たちにね。ウーネア!レイノルド!衛府郎!」
来る!
永零の後ろから三人が飛び出した。それと同時に私たちも飛び出した。
そしてそれぞれが対峙した。
私と飯綱、そして四精霊の目の前にはウーネアとレイノルドが、森羅の前には衛府郎が。
そしてディエゴの前には、永零が立ち塞がった。
「狙ったように揃ったな・・・これもあんたの到達点ってやつか?」
ディエゴが永零を睨む。
「さぁね。でも、君たちがこの組み合わせを望んだから、こうなったのは事実だよ。君も、わざと僕に向かって飛び出したでしょ?」
「まぁな・・・」
「さてと、舞台は揃ったみたいだね・・・だったら始めようか。どちらの平和が正しいのかの勝負、ルールは簡単。ニヒルさんなら分かるでしょ?僕らは互いに対等だ。だから、勝負の決着は意志の強さで決まる。負けると言うことは間違いだったと言う事だよ」
勝負とは、互いの意思を分かち合う事。一方的に奪う事じゃない。私はその一方的な世界を変える為にここに来た。
永零、お前の言ったそれは一方的な世界と何ら変わらないぞ。自身だけの都合の良い世界だ。負けは間違いという認識が間違いなんだ。勝者が敗者から学ぶ事、それが誰もなし得ない選択になるんだよ。お前はそれを忘れてしまったらしい。
だから私は今回だけは何がなんでも自分の意思を貫き守り通す。妹を踏み倒してでも!
「お姉さま・・・」
私はウーネアを睨んだ。
「何してるですか?構えるですよウーネア、レイノルド。私はここの研究を阻止しに来た。あんたは止めてほしくないのだろ?不老不死を、成し遂げたいんだろ?なら構えるです!」
「分かってるわ、だから分からないのよ。不老不死は絶対に必要な技術なの!それを止める理由が分からないのよ!」
「知りたかったら、私に勝つだけですよ。リリアの記憶が無いからというのもあるかもですが、ウーネアはきっとそれでも私を止めると言う筈です」
「記憶?」
「簡単な話、知りたかったら私を倒せ。それだけですよ。私は今お前にあの記憶は見せない。それでも、私に勝ったのなら私は最後の手段として見せるだけ。ウーネア、お前の意志は決して間違ってるとは思わない。だから全力でぶつかってくるですよ。私も、全力で応えるから。レイノルド!お前もな!」
「分かったわ」
「・・・はぁ、嫌だけど、やってやるよ!昔のニヒルちゃんを!取り戻してやる!」
「良いですよ!来い!」
私は二人に立ち向かった。
神和住 森羅
「よもや、あなたがここまで不遜な存在だとは思いませんでしたよ、森羅」
「不遜を言うならお前もだ、衛府郎。世界を変えたい、そう願う事は悪ではない。しかし、そこに近い力を手にし、振りかざすその今の様は不遜そのものだ。力に呑まれるな、神破聖拳はおろか、武道を進む者にとっての基礎中の基礎だ」
半端な力は身を滅ぼすとよく言うが、逆に完璧な力なら良いのか、答えはいいえだ。世の中に完璧な力などありはしない。
人間は完璧でないから考え、行動する。存在しない完璧を求めて。衛府郎、お前の目指す不老不死は完璧と言う。ならそこに生きる価値はあるのか?ない、成長を止める到達点。そこには、わたくしの目指す変わりゆく世界は無い。
「前にも申し上げたと思いますが、不老不死の世界は最早天国となる。呪いも気にする必要はない。わたくしは、この呪われた因果を断つ。あなたはその世界を成長の無い世界と言いますが、それは間違い。成長はもう必要ないと世界は言っているのに、我々はそれに気が付いていないだけだ。間違っているのはあなただ、これ以上の成長は身を滅ぼす。あなたがやろうとしてる事は、助けられる大勢の命を弄ぶ事。神破聖拳の伝承者として、世を乱すお前を見過ごすわけには行かない」
衛府郎は構えた、腕を上げたのは見れば分かる。そして、衛府郎はこの研究に全てを捧げたいと願っている事も。しかし、わたくしはそれを認めるわけにはいかない。いずれ世界が滅びるとしても、わたくしは歩み続ける存在でいたいのだ。わがままかもしれないが、成長の無い世界はわたくしは見たくはない。
「良いだろ、なら受けてたとう。神破聖拳伝承者として、お前を潰す」
ディエゴ アンダーソン
「随分と余裕そうだな永零、俺たちの裏切り、これもお前の到達点に含まれてたって言うのか?」
「そんな事はないよ、僕らは同じ平和を目指した存在じゃないか。本来いがみ合う必要はないよ、でも、考え方の違いで敵対するなら、僕は君たちに教えるだけさ、真の平和の姿をね」
永零は構える様子もなく、優しく笑い俺に語りかける。
「真の平和か、そこにリリアはいるか?俺たちの為に命を懸けたあいつの意志は生きているのか?」
「命を懸けるか。確かにその心は尊重すべきものだと思うよ、とても大切な事だ・・・かつての世界ならね。僕の目指す世界は、命を懸けると言う概念そのものが必要としなくなる世界。
僕の中にいる神という存在は、かつて世界の概念を作ったとされている。その結果世界は君も知るように、幻想の勝者と現実の敗者しか存在しない世界になった。だから僕は壊すのさ、概念を壊して世界を新たに作り替える。神ではない、僕たち人間の手でね」
永零の言葉に意志の強さが滲み出ている。それが奴の怒り、そして意志か。
「人間?お前のやろうとしてる事は神と変わらないな、一人の意志が全てを決める。それを神と言わずなんて言うんだ?」
「僕は世界にきっかけを作るだけだよ。でも確かに、僕のやろうとしてる事は神と同じかもね。けどね、僕と奴では決定的に違う事がある。奴は人間の不安定さを利用し、その中から神になりうる器を探そうとしていた。人間が欲深く愚かなのは全部神が仕組んだ事なんだ。僕の目指す世界は違う。絶対的な神なんか必要ないのさ。僕ら人間、その全てが神と同じ存在になるのだから。全てが正しい選択をする世界、二度と間違えない世界。それが僕の世界だ」
そして意志の先の心も分かった。永零、お前は人間に絶望している。人間を、俺たちを最初から信用なんかしていなかった。俺たちは道具、それがお前の示した答えだ。
「永零、世の中って言うのは大概思い通りには行かない。お前の目指す理想も、俺の目指す理想も、ニヒルや森羅、ウーネア、レイノルド、パヴァロフ、その他大勢。それぞれにお前と同じように理想とする世界がある。俺たちが争うのはその理想を奪われるからだ。理想を奪って奪われて、その中で別の道を見つける。そして別の理想を作る。永零、人間の成長は真の到達点と呼べる段階からしたら、まだほんの数パーセントしかない。まだ未来は分からない、だから俺はお前と戦い、その中から新たな答えを見つけ出す」
俺は背負ったフランベルジュを取り出し、地面に突き刺した。
「分からないね、間違えない世界に僕は変えたい。間違えて得る答えには犠牲が必ずつく。犠牲の上で成り立つ平和は、その時点で平和を名乗る資格はないんだよ。ディエゴ、僕の行う到達点では僕は良くても他を犠牲にする。僕の力も完璧じゃない、到達する代わりに誰かが損をする。リリアの死も僕のせいだ、僕の到達点が彼女を殺した。だから僕は誰も犠牲にさせない世界を作る。百年前にそう誓った、大切な者を誰一人死なせはしない・・・」
永零も構えた、変わった構えだ。刀を顔の横に、切先を相手に向けている。時折手合わせする事があったが、こんな構えはした事がなかった。
「霞構えだよ」
「っ!!」
「何を驚いてるの?僕は君のように記憶を見なくてもその目から何を言いたいのかすぐにわかる。この構えは防御が強い構えでね、特に君の戦い方にはもってこいなのさ。さぁおいで・・・」
今は迷うなよ。必ず勝ち、永零の理想を消し飛ばす!




