創歴前 百年 セカンダビリティ編 その3
創歴前 百年 沙羅曼蛇の国 指宿 永零
さて、羽を伸ばすのはここまでにしよう。邪神のおかげで大分遅れたけど、そろそろ僕の目的と課題に本腰を入れてかなきゃね。
まずは仮面の男についておさらいと考察をしよう。
僕が考えるに仮面の男の正体はもう分かっている。レイノルド ビル ルーカス。彼の可能性が極端に高い。
しかし、今僕が見ている彼はどう考えても違う。多重人格なのだろうか、にしても今まで彼を観察してもそんな片鱗は無かった。
僕はあえて彼にも真実を伝えている。それによりどう動くのか、そこが重要だからだ。しかし彼はそこでは動かない。彼は本当にニヒルさんの役に立つのなら本望と言っている感じだった、
クラークとユルグ、そしてリリアさんの情報も当てはめてみる。そこから何が見える?考えろ僕。
セカンダビリティ。何故リリアさんにだけ、そして何故僕にも教えたのか。僕はまだ完全では無い、という事は、彼もまだ完全では無い?仮面の男は僕の能力を狙っていると言うことか?
では何故沙羅曼蛇を消したのか、考えれるとしたら、彼は到達したから。そして仮面の男は僕の到達点を阻む。沙羅曼蛇、君は何を知った?あの子に何かあると言うのか?
答えは、到達すべき場所を探せ。あるはずだ、僕が望む真実がどこかに隠されている筈なんだ。
レイノルドの名前を知ったきっかけは、クラークの情報。しかし、当の本人とは偶然の出会い。そして僕の予想を大きくズレた感じだった。
それから、ユルグと出会う。ユルグは神の一族、そして僕もその神の転生者。そこで神と言う概念を僕は知った。それで僕の神は・・・
少しずつ読めて来た。僕の能力と相反する存在。僕が神を意識出来るのならば君は逆なんだ。常に内側から僕を見てた。全ての行動は彼自身であり、そうでもない。内側から操っている。これは君からの勝負って事で良いのかな?同じ土俵に立って、そこからって感じだね。
良いよ、受けて立つ。僕は神じゃない。指宿 永零だ、僕の目指す到達点を君は見るが良い。
では最後の疑問、ニヒル アダムスについてだ。彼女は僕とは違う特別な何かがある気がしてならない。
確かに僕の目指す到達点が彼女を探したのは事実。でも僕は彼女に全てを伝えきれていない。これは不安なのだろうか。彼女には何とも言えない違和感を感じるんだ。彼女は言うなればもう一人の僕のような感じだ。
レイノルドが僕と真逆なら、ニヒルは僕と同じ存在。そして彼女のセカンダビリティ、あれは僕と同じようにこの世界での覚醒が彼女に力を与えたのか。はたまた仮面の男がリリアさんと同じように与えたのか。
前者だ。根拠はない、しかし妙に納得する僕がいる。レイノルドは何かを知っているから、彼女に近づこうとしているんだろうか。
だとしたら、分けた方がいいね。
「ねえ、提案があるんだけどさ」
僕はみんなを呼び止めた。
「なんです?」
「セカンダビリティの修行の件だよ、仮面の男が絡んでいるって事も考えると一緒に修行するのは少し危険だと思ってね」
「成る程です。しかし、そうなるとただでさえよくわからないセカンダビリティです。どう修行つけると?」
ニヒルからの質問、これに対する答えはもうある。見えている到達点に誘導するだけだ。僕らはこの力を御する術を手にする。その到達点、
「今、この場所にはウンディーネさん、シルフさんに加え、サラマンダーさんとノームさんもいる。俗に言う四精霊が集結しているんだ。君は彼らと共に、その内側に秘める力を引き出すんだ。恐らくそれが最も効率の良い修行になると思うよ、みんなも構わないかい?」
僕は四精霊たちに同意を求めた。
「良いぞ!!これからこの者と修行するのだな!儂もやる!」
サラマンダーは元気に返事した。
「ぼ、僕は構いませんよ・・・どうせ、僕の国は放置しても問題ない・・・」
聞き取りづらいけど、僕は耳がいいから、ノームも良し。
「わらわも構わぬ、しかしだーりんとはしばしの別れと言うのだな?」
「そうだね、でも修行以外でだったら大丈夫だよ」
「別によい、わらわももっと己を磨かねばと思っておったところだ。と言う訳だ。駄犬よ、お主もわらわに付き合え」
「え!?」
「え?じゃない、文句は言わせぬぞ?」
シルフが嫌そうにしてるけど、まぁなんだかんだ全員良しだね。
「あ、永零。一つだけお願いがあるです」
「ん?」
「飯綱、この子だけは連れて行っても構わないですか?」
ニヒルさんは飯綱を抱え上げた。飯綱はスヤスヤと眠っている。神の子か・・・
「むしろ連れて行った方が良いかもね。この子、一番君に懐いてるみたいだしそれに、この子の真の力を引き出せるのは多分君だ」
飯綱は神としてはまだ不十分、つまり僕と同じような存在だ。今は無くなってしまったと言う神の力、それが目覚めれば、向こうの世界の謎の方も何か分かるかも知れない。僕の中の神の、本当の心をね。
「むにゃ〜」
「じゃ、ニヒルさん。ついて来てくれる?とっておきの修行場所がある。そこなら誰にも見られない。それに遠いからね」
「良いですけど、永零はどうするです?それにリリアさんも、そもそも四精霊をここからしばらく離すのは流石に不味いのでは?」
「そこは問題無い、僕はここに残るからね。ここには森羅も残る。僕の方は信頼できる仲間、クラークとパヴァロフと一緒にセカンダビリティの修行をするよ。リリアさんに関しては、やっぱり君しかいないよね。ディエゴさん?」
僕はぼーっとしていたディエゴを呼んだ。
「あ?あ、あぁ」
「君たちに関しては僕は手を出さない。修行以外はいいけど、修行の場所と結果は誰にも教えてはいけないよ。とりあえず、リリアさんの能力が完璧になるまではね」
この二人に関しては僕が介入すべきじゃ無い。リリアさんの永遠の目標となるのはディエゴしかいないんだ。そしてディエゴは最もリリアさんを知っている。この二人ならば確実に到達する筈。
「じゃ、行くよ」
「お姉さまー!お元気でー!おろろぉ、しばらくお姉さまに会えないのは寂しいわ」
「俺も強くなってみせっから!今度会った時は何がなんでも振り向かせて見せるぜ!」
あの二人は何でか、修行の旅を見送りに来た感じになってる。人の話聞いてた?
「あ、あのさ?僕、別に分かれて修行するとは言ったけど、会えないとは言ってないよ?修行の中身は見せないってだけで終われば普通にしてて良いんだけど?」
『そうなの!?』
そうしなきゃ、君の行動を把握出来ないでしょ?僕は僕の修行をしつつ君を見てるから。
「そう言うことです、まぁ私としては泊まりがけで修行したいとこですが、飯綱もいる、国のトップもずっとは開けられないですからね。ま、少しだけでもレイノルドのうるさいのを聞かなくなると言うのならこんな嬉しい事は無いですね」
「俺、そこまで嫌われてんの!?」
相変わらずのニヒルさんのレイノルド対する反応だ。ほんと、こうして見るとただの女垂らしにしか見えないんだけどね。
「じゃ、行くですか」
「そうだね、ついて来て」
僕はニヒルさんたちを、研究室へと連れてきた。『アナザーワールド』のある部屋だ
「クラーク!空間転送の準備をお願い!パヴァロフ!座標は大陸のど真ん中付近!静安の森に」
僕は仲間に指示を出した。この異世界間転移装置はこの世界限定なら通常よりも少ないリスクで瞬間移動が可能だ。それを使いあそこに行く。
「ちょっとくすぐったいよ、我慢してね」
僕らは静安の森と呼ばれる場所に飛んだ。
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「ふあっ!?」
「あ、起きちゃったですか?」
今の衝撃でスヤスヤ寝ていた飯綱が目を覚ました。
「んお?サラマンダーは?みんなどこ?」
「儂はここぞ!」
「おー!で、ここどこなの?」
サラマンダーが飯綱に飛びついた。飯綱はのんびりと抱き抱えられるだけだ。
「僕が説明しよう、飯綱さん。ここは静安の森と呼ばれる沙羅曼蛇の国から数千キロ離れた森の中だよ。ここはどこの国にも所属しない場所でね、人はほとんどここには来ない。と言うか、来れないって言った方がいいかな?」
「ふーん、なんだかこの森故郷の稲荷山を思い出すなぁ。父ちゃんと母ちゃんどうしてるかなぁ?」
「君の両親は元気にしてるよ。でも、今彼らは力を失ってる。飯綱さん、君は両親の事は好きかい?」
「ん?大好きだよぉ?」
「なら、頑張らないとね。今は難しいかもしれないけど、先に言っておくよ飯綱さん、君はまだ神の領域に来ていない。だからこれからが一番重要になるんだ、この世界の強さはきっといつか、君の両親を助けられる筈だ。力を付けて、君が両親を守るんだ」
「ん?イマイチよく分かんないけどよぅ、おいらが頑張れば父ちゃんと母ちゃんは幸せになれるかもって事だよね?だったらやるさね!」
この子にも頑張ってもらわないといけない。両親には悪いとは思ってるけど、僕が望むのはかつて神だった存在の救済もある。
稲荷、つまりユルグが恐れていたのは僕が新たに世界を創る事で起こりうる、神の淘汰という現象。世界には彼ら以外のかつて神だった存在がかなりいる。
今僕がやろうとしているのは、再び神を作ろうとしているのとほぼ同じなんだ。けど、僕は神なんてものになる気はないし、誰にもそんな存在にはさせない。
僕は僕なりの救済を、かつての神が普通に生きられる世界も、僕の望む世界にはある。だからこその飯綱なんだ。
この子の成長は神としてではなく、この世界に生きるものとしてその力を手にする。それが僕らの目指す世界の一歩にも繋がるんだ。
「ありがとう、じゃあついて来て。修行の地はここにある」
僕は近くの川沿いを登っていった。そして滝が見えてくる。
「この滝、実は裏側が洞窟になっててね。かなり広いんだ。セカンダビリティの修行はここがうってつけだと思うよ」
「へぇ、これも到達点というやつが見つけたですか?」
「そんなとこかな?ともかく修行には良いと思わないかい?」
「秘密基地みたいでこういうのは私好きですよ。隆二たちにも見せてやりたいとこです」
ニヒルさんは結構少年っぽいところがある。珍しく表情が嬉しそうだ。
「俺様やだよ、こんなとこ入りたくねぇ!」
「文句言うで無い」
「だって濡れるじゃん」
外ではシルフが入るのは嫌がっている。仕方ない。
「ほらシルフさん。こっちからなら、濡れずに入れますよ?」
僕は魔法で地形を少しいじり、カムフラージュした入口を作った。
「お、サンキュー!お、中はそんなにジメジメしてねぇのな。これなら俺様もやってやれるぜ」
とりあえず、これでニヒルさんは隠した。僕が思うに彼女のセカンダビリティは、僕や、ましてや仮面の男のものよりも強力。
この勝負、彼女をどう守り抜くのかが決め手になる。
だから、その為にもディエゴ、君はなんとしてもその手でリリアさんを守り抜くんだ。
僕が必ず、彼女を死の運命から救って見せるから。




