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1945年 8月6日 大日本帝国

 創暦 ???年


 ペラリ・・・ペラリ。うん、このページだね。


 やぁや、来てくれたんだね。おや?今日は食べ物ご持参ですか?へぇ、おいしそ・・・後で一口貰っていいかな?ありがとう!!


 まぁ、そんな事よりも続きだね・・・時は1945年8月6日の広島。みんなが良く知る原爆投下の日だよ。その日の出来事は表の歴史には残っていない、とんでもない出来事があったんだ。


 ・


 ・


 ・


 1945年 夏 広島 指宿 永零。


 僕の提案した作戦が遂に認められた。正直言って時間がかかりすぎだ、もし先にアメリカが原子爆弾の開発を終わらせたとしたら、この作戦は泡となって消える。


 とは言っても仕方がないのかもね・・・ここ最近の大日本帝国軍は、ここ最近これと言った戦果を上げていない。それどころか敗走を余儀なくされている所も多い。


 正直に思うのは、今更この作戦を開始したところで勝つ見込みは無い事だ。もう遅いと僕は思う、今のこの国がやっている事はただの集団自殺に成り下がっている。これはもはや戦争とは呼べない。


 けど、原爆投下だけは阻止しなくちゃいけない。まだ世界はあの爆弾の危険性を何も分かってない。あれはただの爆弾って考えが根底から覆る兵器だ。威力は元よりその影響の持続性は計り知れない。


 あれは作ってはいけない兵器なんだ、仮に作られたとしても使わせてはいけない・・・


 所長はいつ帰って来るだろうか・・・あの日東京に行ったきりだ。その後は何度か電話でやり取りをしていて、今年の初めに戻ると連絡があったんだけどな・・・三月に襲った大空襲、それに巻き込まれていなければいいんだけど。


 『ジリリリリリリン!!』


 その時、突然電話が鳴った。


 「はい、指宿です」


 『俺だ、永零』


 「所長?今どこに?」


 『東京に大空襲が来てから中々電話に繋げられなくてな、今徒歩で広島に向かっている。ここは丁度、岡山だ』


 「と、徒歩!?なに、日本地図でも作ってるんですか!?」


 『色々あってな、それはそうと一つお願いだ。お前の家に住まわせてほしい奴がいる。三人の子供だ。あの空襲に巻き込まれたのを保護している。頼めるか?』


 三人?所長の家族は子供一人だ。それも子供だけ・・・


 「所長・・・まさか、空襲で・・・」


 『あぁ、女房も息子も死んだ・・・だからせめてこいつらだけでもと思ったんだ。俺らしくないかもしれないが、もうこれ以上死なせたくなくなってな。国の為に死ぬのは本望だ、それは変わらんが・・・子供までそれを言うのは間違いだと思っている。戦争に勝っても、その先に何もなければ意味がない』


 そうか、所長ももう気が付いている・・・この国は勝てないと。


 「わかりました、その子たちはうちで引き受けます。それより、例の荷物が届くのはいつ頃になりますか?」


 『あれが届くのは来月の七日だったな。八月七日だ』


 「分かりました、ありがとうございます」


 僕は受話器を置いた。来月の七日・・・何故呑気にそんな悠長な事を言っていられるんだ。これは下手をすれば国そのものが消えるかもしれないと言うのに・・・


 今は奴らに使わせない事だけを考えろ、原子爆弾の危険性は作っている連中も知っているはずだ。そしてその非人道性も・・・使う事になるのはきっと最後の手段になる時だ。今アメリカは優位、使う事はまずない・・・けど、可能性はある。


 こうなったら、僕で抑えるしかない。上の連中を待ってはいられない。まずは敵情を探り、通信を乗っ取る。


 僕が敵の情報を入手したのは、その数週間後、八月六日だった。作戦決行の前日の事だった。


 ・


 ・


 ・


 1945年 8月6日 午前8時

 

 「馬鹿な・・・」

  

 僕は研究所を飛び出した。僕は知ってしまった・・・奴らは落とす気だ!!


 浅はかだった・・・仮にも奴らは人間だと思おうとしていた僕が馬鹿だった!!ルーズベルトの死は知っていた。ただでさえ優柔不断のルーズベルトだ・・・それの死だ、そのせいで情勢がごたついたんだ。トルーマン・・・貴様、一体自分が何をしたのか・・・分かっているのか!?


 奴らの作戦は大量殺戮、しかもこの僕が情報を盗んだから手に入れた情報だ。つまり予告なしだ。奴らは死刑すら生ぬるい超大罪を犯そうとしている。奴らは何も知らない民間人を殺す気だ、世界に示す為に・・・これは、日本に向けた最終通告でもなんでもない。もう作戦は進行している・・・全てはアメリカが世界を支配する土台になる為にだ!!


 「お前たち!!」


 「お父さん・・・」

 「あなた?」


 「逃げろ!!」


 僕は血相を変えて妻と娘に叫んだが、首を傾げるだけだ。


 「説明は後だ!もうすぐここが空爆される!!出来る限り逃げるんだ!!」


 「お父さん、何を言って・・・」


 「いいから言う事を聞け!!あーだこーだを言うなぁ!!逃げろと言ってるのが分からんかぁ!!!」


 ここまで怒ったのは初めてだ。でも、怒らずにはいられない。もうあきらめていた、この国はもうじきに降伏宣言は出すと思っていた。なのに奴らは、開発したことも、最終通告もなく僕らを、家族を殺そうとしている。


 負けてはいけない理由が出来た。大量殺戮を正当化するだと?ふざけるのも大概にしろよ!!!


 「お父さん・・・」


 「なんだ!?」


 「あれ・・・」


 この瞬間に気が付いた・・・今日だ。作戦は今日行われる・・・





 「伏せろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 



 全身で叫んだ、その直後だ。空が光った。

 

 ふざけるな・・・ふざけるな・・・・・・ふざけるなよ・・・人間がぁぁぁぁぁ!!!


 ・


 ・


 ・


 1945年 8月6日 ニヒル アダムス 午前 8時10分


 「やぁっと着いた・・・ほら、見えるか?あそこが広島だ。ここは滅多に空襲を受けない。少しは安全だ、それにしても長かったな。ここに来るまで何か月もかかってしまった」


 わたしは今少し高い高台にいる。広島まではあと数十キロと言った所か。ここまでは徒歩で来た、と言うのもこの将校さんの発案で、手の届く限りは助けたいと言う事だ。


 埼玉を出てから、出来る限り空襲を受けにくいだろうと言う事で中山道を通り、ひたすら山越え川越え谷越え。そして困っている人を助けて・・・そうそう、道中に敵や熊などの襲撃を受けても良いように将校さんに軽く護身術や、刀の振り方などを教わった。


 そんなこんなでやっとここまでやって来た。


 「思いの外、あっという間ですね・・・この旅、思いの外楽しかったです。色んな所を巡って、色んな事を知ったです。将校さん、ありがとうです」


 わたしは将校さんに礼を言った。もしわたしがあのままあそこに残っていたら、何も変わらなかっただろう。たまたま将校さんがわたしを見つけなければあのまま、父と母が死んだことを受け入れられず、そのまま戦火に飛び込み死んでいただろう。その事にわたしは礼を言った。


 わたしは生きてみせる。そして、いつかこの国に思い出させる。いや、世界に思い知らせる。戦争は正義の皮を被った悪鬼だと。


 戦争が終わったとして、奴らはきっとこの戦争に意味を見出す。勝った奴が自らが正義だと述べる。負けた側の言葉に耳を傾けることも無く、必要な犠牲とかなんとかぬかすんだろうな。


 だからわたしはそれを正したい、これ以上の虐殺を止めさせたい。その為にわたしは生きる。生きて生き抜いて、いつかきっと・・・この無意味な争いを終わらせて見せる。


 「礼なんかいいさ、俺の気まぐれでお前たちを連れてきただけなんだからな。そろそろ行こう・・・ん?あれは・・・」


 将校さんは空を見た。わたしたちも見る、あれは・・・亜米利加の爆撃機。


 「こんなとこにも来るのかよ」


 隆二がそんな事をぼやいた。けど、なんだか変だぞ、数が少なすぎる。爆撃するには数が・・・


 「まさか・・・」


 突然、将校さんが冷や汗をかきだした。そして


 「伏せろ!!」

 

 将校さんはわたしたち三人をグイっとひっぱった。そのすぐ後だ、空が突然光った、そしてそのすぐ後に衝撃波がやって来てわたしたちはゴロゴロと後ろに転がった。


 「な、なんです・・・か」


 「空が光ったぞ・・・閃光弾とか言う奴なのか?」


 善之助はそう言うがそんな訳はない、この衝撃波。とんでもない爆弾だ。それが・・・爆発した?


 わたしは立ち上がった。そして、目を疑う光景を見た。きのこのような雲・・・なのか?それが空に向かって伸びていた。


 「なんなんだよ・・・あれはよぉ!!」


 隆二は叫んだ。


 「馬鹿な・・・有り得ない、早すぎるぞ・・・それに、ここに落としたと言うのか?永零の話では、残虐過ぎる為に使うのはまずあり得ないと・・・なのに・・・使った?」


 将校さんがブツブツ言っている。


 「将校さん、何か知ってるですか?」


 「・・・あぁ・・・ふぅ、落ち着け。分析しろ・・・ニヒル、いいか?あれは原子爆弾だ。アメリカが開発していた最強の兵器だ。あれは通常の爆弾とは訳が違う。簡単に言えばとにかくヤバい爆弾と言う事だけだ・・・ともかく、ここも危険だった。あれでは永零も・・・とりあえず逃げるぞ」


 将校さんはわたしたち三人の手を引いて逆方向に歩き出した。


 「え!?ちょっと!!将校さん!!助けに行かなきゃ!!まだ生きてる人がいるはずだろ!!ずっとそうしてきたじゃないか!!今になって見捨てるのかよ!!」


 隆二が将校さんの手を振りほどいた。わたしも隆二と同意見だ、陰に隠れてた人ならまだ助けられるかもしれない。


 「駄目だ、永零から聞いた話だ。あれはただの爆弾じゃないと言っただろ。あれは更に放射能とか言うのをまき散らすらしい。永零は細かく説明していたからよく分からなかったが、恐らく毒のようなものだ。超威力の爆弾で建物や人間を溶かして吹っ飛ばし、その後仮に生き残ってもその毒で殺される。しかもその毒は何十年もここの地に残る。もうここには住めないと言う事だ・・・」


 わたしはその話を聞いて唖然とした。そんな馬鹿なものを使ったのか、普通に考えておかしいだろ。どっかの島に落とすのならまだ分かった。でも、人口密集地でしかも軍事関係でもない場所にそれを使ったって言うのか、亜米利加は・・・


 「って事は永零さんは・・・」


 「あぁ、恐らく家族もろとも死んだだろうな善之助、分かったか?これが戦争だ。畜生・・・畜生・・・」


 将校さんは自分の手を血が出るまで握った、助けたくても助けられない。安心なんてもうここにない・・・


 「分かったです。みんな、行くですよ・・・とりあえず・・・島根の方を目指すです。今までみたいに、助けられる人を助けるんです。そこからは山陰を通って、そこからはまた考えるです。とにかく、まずは行くです。その・・・ほうしゃのう?とか言う毒も、もしかしたらここに来るかもしれないですからね!」


 今度はわたしがみんなの手を引っ張った。正直、このほうが良いとわたしは思っている。あそこに行きたくないのと、今まで見たいに旅をしながらの方がいいと思った。またいつかアレが落ちてくるかもしれないから。


 「分かった。じゃあ行こう・・・目指すは山陰だ」


 わたしたちはまた旅を始めた。戦争が終わった事を知ったのは九月、中国山地を抜け出雲に差し掛かった時の事だった。


 ・


 ・


 ・


 ??? 指宿 永零


 「起きろ・・・」


 ん・・・なんだ・・・何も見えない。僕は死んだのか?空が光ってそれから・・・くそ、思い出せない・・・真っ白だ・・・


 「今がそのすぐ後だ・・・永零」


 声が聞こえた、なんなんだ・・・僕はこの声を知っているような・・・懐かしいような声だ。この心の底に踏み込んでくるようなこの声は、どこで・・・


 「どういう意味?ここはどこでお前は誰だ?僕はどうなった?」


 「質問が多いな、少しは自分で考えろ・・・」


 僕はその声の言う通り考えた、あの光は恐らく原爆。そうだ、僕は死んだのか・・・ここは死後の世界・・・


 「惜しい、半分正解だ・・・」

 

 なに、こいつ・・・僕も心が読めるのか?


 「あぁ、読める。俺はお前だからな・・・ここは死と生の狭間と言った所だ。けど、ここはある場所へと続いている。ここを通した先には別の世界が存在している。お前はその世界に一瞬だけ触れた。だからまだ死んではいない」


 「僕は・・・死んでない?」


 「そうだ。お前が触れた世界には、お前の知らない全てがある。ありとあらゆる可能性が存在している。そしてお前はその世界に激しい怒りをぶつけ、返って来た。可能性を一つの結果に到達させてな。世界はお前の怒りに呼応し、お前は新たに肉体を作り出した」


 僕は手を見た、どこにもけがをしていない・・・別の世界に触れたおかげで僕は生き返った。


 「そうなったのは・・・僕だけなのか?」


 「そうだ、お前は特殊な存在だ。お前があの時死ぬ一瞬に俺を認識した。そして、誰にも成し得なかった到達点を見つけ出して実行した。お前は俺をあの一瞬、完全に支配したんだ。だからお前はこの世界に飛び、生きている」


 「お前は、何が言いたいんだ?僕に生き返れと言いたいのか?」


 「決めるのはお前だ、お前が決断すればいい。どの到達点に至りたいのかをな。お前は俺なんだからな・・・お前の望む先に進めばいい」


 そうか・・・僕はこの瞬間に完全に理解出来た、こいつを、僕のすべきことを冷静になって理解出来た。だったら決まってるじゃないか・・・


 「だったら、使わせてもらうよ・・・君の力を・・・」


 「あぁ、使ってくれ。今の俺にはどうする事も出来ないからな、そして見せてみろ。お前の望む未来を。その到達点を・・・」


 僕は気が付くと自宅にいた。いや、これが自宅と言えるのか?目の前には影がある。僕はこの時妙に冷静だった。この影の正体は僕の娘だ、この世に残ったのは・・・この影だけだ。


 プッツンすると思っていた。いや、正直に言うと胸が張り裂けそうだ。怒りで我を見失いそうだ。でも僕はその怒りの向けるべき方向を理解し観ていた。だから勝手に体が動く、何を次にどうすればいいのかが分かる。もう二度と、お前たちの好きにはさせないよ・・・


 そして僕は理解した。アメリカは次もやる、一発では終わらない。


 「いいよ、もう一回落としなよ。君らは日本がどれだけ遅れているのか理解できていない、この現状が首都に知れ渡るのには数日はかかる。アメリカはきっとまだ諦めていないという理由でもう一発を落とす。次は小倉か長崎・・・恐らく小倉は不可能だ。この風の感じ、小倉の方は雲が出るね。やるなら長崎になる・・・御免ね、今の僕では止められないけど、君らの死は無駄にはさせない。僕はもう一度あの世界に触れる。そして見つけ出す。救われる方法を・・・琴音、羽佐間。お父さん、頑張るから。どれだけ時間がかるか分からないけど、僕がきっと助けて見せるよ・・・だから僕は行くよ、長崎に」


 僕はそのままこの地を後にし、この地獄をひたすら進み長崎へと向かった。


 ・


 ・


 ・


 創暦???年  


 こうして異世界への扉が開かれたんだよ。これがファーストコンタクト、永零はこの世界に触れ、そして彼を認識した。


 それで次の原爆投下で永零は、もう一度世界に触れる事になる、でも今度は一時的じゃない。完全にその世界に行く事になる、その話は次にしよっか。


 おっと、言い忘れてた。これは蛇足だけどね、将校さんの名前、あの人名前があったんだけど東京大空襲の時にもう名乗らないって決めたんだって。だからニヒルちんからもずっと将校さんって言われてるんだよ。


 さ、次もまたおいで。今度は8月9日、いや・・・創暦前の出来事だよ。

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