創歴前 百年 氷の魔王編 終
シンは遂に地面に伏せた。
「身体が、言う事を聞かない・・・」
「そりゃそうです。お前の身体は今二つに分かれたです。立つのはもう無理だ」
私は刀を納めた。
「そうか。ニヒル アダムス。俺に止めを刺せ」
「はぁ・・・お前の本心はもう分かってるです。ずっとゾロアスを探していたのは、ゾロアスは自身止める唯一の存在だったからでしょ?お前は自分を殺してくれる存在が欲しかった、しかし生憎です。私はお前を殺すつもりは無い。その身体でも何とか生きてる。これからは、その身体で生きることの大切さを実感するが良いですよ。私は何度も見てきた、戦う以上に生きるのは大変なんだと。しかし、必死に生きるからその中で大切なものが見えてくるはずです。
私には、お前が生きる為に大切な事はわからないけど、いつかは気づけるはずです。戦う事以外の生き方と言うものが。
でも、お前ももう分かってるのか、さっき言ってたですよね。人は傷付けずには生きられないと、私もそれは同意見です、生きるとは戦う事と同じ。シン、私はこう思うですよ。別に闘争なんかしなくても、ただ必死に生きればそれはそれで血がたぎるものです。
シン、お前は生きろ。それがこれまでこの世界に与えた傷への贖罪です」
「・・・ははは、つくづくお前はゾロアスに似ている。言葉は無くとも奴は俺を理解していた。その上で俺を否定し続けた。
成程な、やっとわかった。何故奴が俺を殺さなかったか。ゾロアス、お前は俺に生きる事を願っていたのか、生き方を教えたかったのか。
ニヒル アダムス。言葉とは凄いものだな、あの時あの時代に言葉があれば俺は、もう少し違う生き方が出来たかもしれん。お前がこの世界に最初からいたのなら、ゾロアスを超える本当の神に・・・」
「それは違うですよ、ここに最初から私がいたら私はまた全く別の生き方をしてきたです。世界が地獄なのは最初からのこと、人生は地獄の連続です。私たちが何をしようと過去の後悔は変えられない。けど、未来は生き方次第で変えられる。そう私は信じてるです」
「人は幸福を願う。天国の道を生きたいと願うもの。心の平穏、平和。そこを求めて人は無限に戦い続ける。矛盾した世界だ・・・しかし、その未来も全て同じになると言うのには、まだ早いのか。未来は変わる、この矛盾の世界もお前ならもしかしたら・・・
ニヒル アダムス、一つ言っておく事がある。俺が何故お前たちの存在を知り、戦争を仕掛けたのか。俺にお前たちの情報を与えた者がいる。つまり、お前たちの中の裏切り者だ」
「裏切り者・・・それはユルグと言う名前の少年では?」
永零はもう気がついていたのかそこの疑問に、確かにシンは私たちのことを知り過ぎていた。でもユルグは確か、永零が連れてきた仲間の一人じゃ・・・
「いや、そいつはお前が差し向けた者だろう?俺を探る為にな。エイレイ、もう一人いるのだ。そしてもう一人が重要だ、ユルグはそいつと繋がっている。蛇の仮面を被った男。奴の真意は分からんが、あの目、俺よりお前たちよりも重く鋭い目をしていたあの男の目的は、おそらくエイレイの真逆だ」
「蛇の仮面・・・」
永零が初めて汗を流した。今までは全部分かっているかのように振る舞っていた永零だが、その男の存在を聞いた瞬間、眉間に皺を寄せていた。
「俺が言えるのはここまでだ。さて、氷の国は敗北した。全面降伏するとしよう・・・俺は世界から消えるとする。もう俺が世界を蹂躙することは無いだろう」
そう言うとシンは、冷気を纏い消えた。
「あの状態で逃げる力を残していたか・・・」
「いや、私が奴に逃げる力だけは残していただけです。まぁ、本来なら奴にこれまでの罪を償わせるべきですが、結局は罪なんて何しても許されるものじゃ無い。もう彼は世界に手は出さない、彼の償いは今はそれで十分です」
氷から脱出してきた沙羅曼蛇に対して私はこう答えた。
「本当に良いのだな、わらわも納得いかんが、ここはお主を信じよう、ニヒル。さてとシルフ、手伝ってくれるか?皆を助けるのがまず先決であろう。そして、父も」
「あぁ、けど父ちゃんはいい。多分、邪神を追った筈だ。俺は知ってるんだ、父ちゃんはかつて誓った。例えどんな事になろうとも、風と空気の精霊ニンフは邪神を決して裏切らないと。父ちゃんは最初から邪神の本心が分かってたんだ。きっとニヒル、お前以上に邪神を理解してるのは父ちゃんだ。だから、父ちゃんも行かせてやってくれないか?それが父ちゃんが国以上に護ると誓った覚悟なんだ。それに、この戦争の前に父ちゃんは言ってた。もし、父ちゃんがいなくなるようなことがあれば、颯の国は俺に任せるって。俺は引き継ぐぜ、颯の国を」
成程、確かにニンフとの戦いの時に感じていた。ニンフは邪神の側に常にいた。とっくに気付いていたんだろうな。邪神の望みに、しかしニンフでは邪神を満足させられることが出来なかった。だから何としても、息子を利用してまでもニンフは邪神を満足させられる存在を探していた。
「そうだね、彼には彼の生き方がある。そこも一つの到達点という事か。シルフさん、覚悟は出来てるの?」
「無論だぜ、エイレイ。これからは俺が国の代表だ。そんでもって颯の国は沙羅曼蛇の国及び水の国に無条件降伏する」
「そう、わかった。覚悟は決まってるみたいだ。沙羅曼蛇さん、良いですよね?」
「うむ、我ら沙羅曼蛇の国は颯の国の全面降伏を受け入れよう。そして、颯の国及び氷の国にはある協定の締結を言い渡す。これより颯の国、氷の国は沙羅曼蛇の国同盟国となり、ここに四国間和平協定を締結する!」
こうして氷の魔王こと、邪神との戦いは終結した。私の知る限り、彼はもう歴史に出る事はなかった。
颯の国と氷の国との同盟も成立した。後は帰るだけだ。
「にしても、最後のリリアちゃんのアレ、なんなんだ?なんであいつ、ニヒルちゃんをリリアちゃんに見間違えたんだ?」
そう言えばレイノルドは知らなかったな。
「私も聞いてないわよ」
「わたくしもだ、永零、お前が情報を伏せたのか?」
森羅がおそらく事情を知っているであろう永零に問い詰めた。
「うん、リリアさんには少しみんなとは違う力があってね、その正体を探るまでは伏せておこうと思ったんだ。きっかけは、ニヒルさんがディエゴさんとこの戦争の前に手合わせした時だった、その時リリアさんは少し眠っていたんだ。しかし突然、二人に寝ている筈のリリアさんが現れた。けど、触っても触ってもリリアさんはいない。言うなればリリアさんの能力は夢を現実に見せると言ったほうがいいのかな」
「そうですね。どう言う訳かわたくしは寝てるつもりはなかったのですが、あの時わたくしは寝ていて・・・」
「あれ?リリアちゃんこんな流暢に喋れたっけ?」
「それも、あの夢を見てから突然普通に文字も読めるようになって、言葉もすんなりと言えるようになったんです」
一体何がリリアにこの力を目覚めさせたのかは見当もつかないが、兎に角リリアは夢を支配する力を手にしたんだ。
「ふむ・・・」
「ん?沙羅曼蛇さん、どうしたですか?」
「ん?いや、先程シンの言っていた事がよぎってな、まさか何か関係があるのかと思ったのだ」
あれか、蛇の仮面を付けた男とか言う。
「大丈夫だろ、永零の言うユルグは俺はしらねぇけど、俺たちが募ったのは考えは違えど、皆同じ意志を持ってるからだろ?真逆の意志を持つ奴は俺たちにはいねぇよ」
「そうよ、あーやって私たちを混乱させる為にやっただけよ。沙羅曼蛇さんも、今は無事に戦いが終わったことを喜びましょうよ」
レイノルドとウーネアは最早考えたく無いって感じだな。私もそうだ、出来れば今は帰ってぐっすり寝たい。
こうして私たちは沙羅曼蛇の国に帰ってきた。
しかし、事件はこの夜に起こっていた。私は知る由もなかった。沙羅曼蛇は既に仮面の男に到達していたこと、永零にも分からなかった答えを知ったこと。
そして、その答えは夜が明ける前に闇に葬られた事。
沙羅曼蛇の国 沙羅曼蛇
ニンフ、シン・・・それからユルグと仮面の男、戦争。永零の能力と、目覚めたリリアの能力。そしてニヒルの無血開城の力。
引っかかる、全てがうまく行き過ぎている。まるで一つの目的に向かって強制的に動かされているようだ。
この力は永零が持っている力・・・奴は到達点を設定する事で、望む未来に行き着かせる力。奴が未来を見ているような素振りを見せるのはこの能力のおかげだ。
しかし、彼の筋書きに今回の件はなかった筈だ。戦争は彼が最も嫌うことの一つ。つまり、永零の到達する力を妨げる力を持つ者がいる。
そもそもあの力とは何なのか、偶発的に生まれる力なのかそれとも、神から授かりし力か・・・或いは悪魔の囁きか。ユルグは何を知っている?
リリアの能力もこれに近い、答えはどこにある、可能性があるのは誰だ。永零、森羅、ウーネア、ディエゴ、リリア、飯綱、ニヒル、パヴァロフ、衛府郎、レイノルド。誰がユルグと繋がっている。
思い返せ・・・ユルグは神の一族の末裔とされているらしい、そして奴の目的は純粋に死にたく無い。だから新たな神となろうとする永零の元に向かった。
これが変だ、そもそもの永零の目指す世界に神は関係ないはず。永零はあくまで自分の意思で世界を変えようとしている。神になりたいわけでも、神を淘汰する気もない。ユルグを唆す悪魔は誰だ?
・・・可能性は・・・
行くか
「ぐがー・・・」
儂の目の前で寝ている男、レイノルド ビル ルーカス、こいつだけが妙に引っかかる。
自称料理人と名乗るこの男、こいつだけは永零の集める者の中にはいなかった。巻き込まれる形でこの世界に来た。
引っかかるのはそれだけでは無い、此奴の覚悟。それが全く分からん。
永零は二度と戦争する必要のない世界を、ニヒルは誰もが声を届けられる世界を、他の者もそれに匹敵する程の覚悟を持っている。その覚悟がこの世界での覚醒に繋がった。
しかし、此奴は何だ?料理人としての覚悟と自らは語ったが、此奴の覚醒のきっかけは恐らくそれではない。気がつかぬ間に覚醒など、儂の知る限りあり得ぬのだ。
此奴の目は嘘は語っておらぬ、しかし行動は嘘をついておるのだ。悪いが、確かめさせてもらう。
儂は拳に炎の力を集中させた。
「お主のその本性、この炎で確かめる。貴様は一体何者だ?」
『ガシッ』
「っ!?」
「おっとっと、流石は思慮深い沙羅曼蛇さんだ。良いタイミングだ、こいつが寝ているこの時を狙うのはな」
一瞬だった、今のは単純な早技、この儂すらも超える素早さで奴は儂の腕を押さえ込んだ。
「貴様、誰なのだ?」
「今はまだ良いじゃないか。あんたもまだ死にたくないだろ?にしても永零もあんたも、疑り深いんだから。今はあんたらの敵じゃないってのはわかって欲しいんだけどなぁ」
「今はか、では後には敵と言う事だな。言え、貴様の目的は?」
「ったく、知りたがりは時に身を滅ぼすよ?ま、答えるか。永零が神の力に目覚めてるのはお前も知ってんだよな。
俺の目的はその神の抹殺、でも今奴を殺す事は出来ない。永零も完全に力に目覚めた訳じゃないからな。
俺は言うなら神を知ってる者。俺も奴と同じように何度も転生しずっと奴を探してたのさ。ま、俺は神と違って転生者としての自覚が無くてもその力を与えられる。レイノルドにニヒルを少し濃く映し、追いかけさせたんだよ。ニヒルは丁度永零が探す存在にピッタリ当てはまる存在だからな。奴をマークしておけばいずれ永零が接触するのは分かっていた。
レイノルドは良いくらいのお調子者で女好きだ。ニヒルを追いかけてきたって言い訳を作れば、永零をある程度騙せると思ったんだけどな、どうにも永零は俺を信用はしてくれなかったみたいだ」
「ふむ、今のを踏まえると貴様はレイノルドとは別の存在。そして貴様の目的は永零の力の完全解放、そしてその上で奴を殺す。そう言う事だな?」
「お、簡単にまとめてくれたね。そ、そこが重要なのさ」
「いや、分からんな。何故永零の完全な力の解放が必要なのか」
「奴は永遠に転生を繰り返してきた、中途半端に殺せばまたゼロからやり直しだ。だから完全に目覚める必要があるのさ。今まで殺せなかったのは、歴史上神を認識出来た存在がいないから。殺すに必要な条件は神の完全復活。それしかねぇのよ」
レイノルドは力強く、拳を握った。
「成る程、よほど奴を憎んでいると見える。しかしだ、儂は永零の作る世界を見てみたいのだ。儂は貴様と永零、いや神との間に何があったのかは知らぬ。しかし、今ここにいる永零は神ではない。奴は神としてではなく人として世界を変えようとしている。儂はその世界の先に今までにはなかった希望があると信じている」
「永零は永零、神は神ってか。残念だけどそうはいかねぇもんさ。俺の意思はレイノルドとシンクロしてる、今でこそ俺はレイノルドの意識がない時にしか表に出れないが、こいつがこの世界に居続ければやがてレイノルドは俺の意識と同調する。
永零も同じさ、今は奴は人間として生きているつもりだろうが、奴が完全にこの世界で力を付け、より力を完璧にした時、奴は奴でなくなる。神の意識を自身の意志と代わっていくのさ」
この目、何という哀しい目をしているのだこの男は。此奴は神を憎むというより、憐んでいる。そして今の言葉、この世界に居続けると神に呑まれる。この世界と彼らに結びつきがあると言うのか?
「それでも儂は、人間の欲望が作り上げる未来を信じる。欲望を糧とした平和の道、それはかなり難しく、儂にも分からぬ荊の道だ。しかしそこに彼らの、人間の強さが出てくる。
儂は王、しかし神ではない。儂は種族、力は違えどこの世界で暮らす人間と同じだ。だからこそ、儂は貴様を止めねばならぬのだ、神を名乗りし人間よ」
儂はいつでも動けるように構えた。
「神を名乗りし人間か、ブーメランだな。神も同じ事を言っていたっけ。神は絶対の存在、間違えるなんて事はねぇんだ。けど、奴は人間を信じる道を、あえて間違える道を選んだ。だからこんな世界になってんのさ。あいつが人間を信じ愛したから・・・世界はどっちも醜く進んでいる。
沙羅曼蛇、一つ未来を教えてやる。人間が共に目的に達する目前、そこには必ず亀裂が生まれるんだぜ。そして・・・」
「んっ!?」
何だ、今のは赤い閃光が走った・・・その瞬間から身体が動かなくなった。これは、身体がバラバラになっているのか。
死、儂は奴に成す術なく完全に敗北した。神を名乗りし者、流石だ。
「亀裂は絶対に崩壊する、世界はそう出来てんの。分かるか?人間は矛盾した生き物なんだ。平和を、安心を求める傍ら、争いを求めてる。神は矛盾するように人間を作ったんだ。だから絶対に不可能なのさ、例えどれだけ意志を統一しても、必ず誰かに綻びが生じる。
何故神が人間を作ったのか分かるか?それは人間と言う不安定な存在から、その中でその矛盾を超え神となれる器を探す為だ。そう、人間は集まって力を出すと言うがそうじゃねぇ。その集合体を動かせる存在を作るために出来たんだ。しかしもうその必要は無い。神の唯一の失敗は俺が正す。だから安心して滅んでくれ」
レイノルドは儂に優しく微笑んだ。まるでこれが救いだと言うかのように。
「ふっ、わかっておらぬのは貴様の方だ。たしかに彼らは、そして我々は多くの戦いに身を置くことになるだろう。今は仲間でも、いつかは亀裂が入り崩壊するかもしれぬ。しかし彼女らは決して諦めはせぬ。どれだけ時間が掛かろうと、どれだけ時代が進むことになろうとも、崩壊して崩れた瓦礫はやがて再び道を築き上げる。
人間は誰か一人の力では不可能な事も大勢集まれば成し得ることが出来る、それは貴様も言ったこと。神はこれを信じていたのでは無いか?神はあの者らに一つの希望を見出した。神には出せぬ答えをあの者らなら出せる。それを信じ待っていたと、儂はそう思っている。レイノルドよ、貴様が人間を嫌うのは構わん。しかし、人間の可能性を否定するのにはまだ早いだろう」
「知ったような事を、俺は何度も見た。お前以上にな・・・あの世で見てろ。人間の進む愚かな道の終着点を」
儂はこの時、身体が、意識が滅ぶのを感じた。死ぬ感覚。命が奴に奪われる感覚。そして浮かぶのは後悔、死にたくない。そう思うのは生命の本能というものだろう。
この死、受け入れなければならない。しかし、何か、一つでも何かを残さなければ。奴に気付かれず、そして彼らに伝えるのだ。儂の意志を、人間の欲望を、執着心を。
儂の望んだ世界を、彼らに・・・
「さようなら沙羅曼蛇。後は俺がみんなを神から救ってあげるから、お前は向こうで待ってな・・・っ、時間切れか。
流石に長く出過ぎた。ま、沙羅曼蛇相手だから割と本気で行かなきゃヤバかったもんな。こりゃしばらく出れねぇかも。
まぁ良いや。永零、見ものだな。今のお前の能力は絶対じゃない。お前は知ることになるだろうよ、絶望ってのをな。世界はそう簡単にお前の思うようにはいかないんだよ」
そして、奴も倒れた。




