創暦前 百年 氷の魔王編 その2
「みんな、下がってて・・・ここは僕一人でやる」
永零は武器を構えて私たちに後ろに下がるように言った。
「ちょいちょい!いくら何でも一人じゃヤバいんじゃねぇか!?魔法をこんな風に使う奴だろ!?」
レイノルドが止めに入った。私も確かにこいつには永零に加勢した方が良いと思う。しかし・・・
「あの武器、ここは信じてみるしかないです。永零の力を・・・」
「そうよ」
相槌を打ったのは妹、ウーネアだ。
「この数か月間で、ものすっごい努力してようやく手にした力なのよあれ。お姉さまに名付けてもらったあの石の加工法、ようやく見つけたの。そしてその加工されて作られたあの剣はそんちょそこらの武器とは訳が違うのよ」
「うーん、おいらにはよく分からないや。武器でそんなに違うの~?普通に考えれば武器を新しくしても使い手が変わらないんじゃ、あんまり変わらない気がするけどねぇ」
飯綱の言う事も一理ある。永零が雑魚という訳ではないが雑魚が業物の武器を扱っても逆に駄目にする事もある。あれには何か秘密があるのか?
「まぁ見てなさい、あれの真価を知ってるのは私とディエゴとリリアだけだものね、ね、ディエゴ」
「あぁ・・・あれは、強い」
あれ、いつの間にこんなに話せるようになったんだ?ディエゴの奴。
「ふっ、その剣の力が俺をたぎらせるか、楽しみだぞ!!エイレイ!」
邪神が動く、永零はどう対処するつもりだ?邪神は自身の両手に氷でできた剣を呼び出し、一気に踏み込んだ。
対する永零は、構えたまま、見極めようとしている。
「この俺相手に様子見とは命取りだ!」
そして邪神はそのまま一気に剣で切り払った。早い、太刀筋が読めなかった・・・そしてあの剣の一撃はただの剣じゃない。振ったことで発生した冷気は前方数十メートルを凍りつかせた。
しかし、あの永零がこの程度ではやられはしない。
「たしかに、君相手に様子見は良くなかったね・・・今一瞬本気で防御に回らなきゃ、やられてたよ」
永零は無傷だ。
「咄嗟の判断でその武器に炎を纏い、全力で防いだか、いい判断だ。そしてその剣、ただの剣ではないな?その白い刀身、まさか白針の洞窟の鉱石を加工したみたいだな」
「あれ、もうバレちゃいましたか。なら、この武器の効果も既に読まれてるのかな!?」
今度は永零が仕掛ける。互いに剣同士がぶつかりあう。
「この俺ですら加工法は知らん。だからここで見させてもらうとしよう。さぁ、もっと熱く俺をたぎらせろ!俺の期待に応えて見せろ!」
「ならば!お望み通りにしてあげるよ!流血光刃!行くよ!!」
永零は剣に炎を纏った。武器に魔法を纏わせる。そんな方法は前からあった。鋼は魔法を通す、それを使った遠距離の魔法の応用も。
今更この程度で奴に何かできるのか?私がそう考えた時だった。永零は強く剣を握った。その次の瞬間、炎の勢いが桁外れなほどいきなり大きくなった。
「ふっ!!」
「あつっ!!なんですか!?突然、爆発的に威力が!?」
氷付いたこの空間を一気に熱波が襲った。そしてその炎の剣を振り抜いた永零の一撃は容易く邪神の剣を溶かし切った。
「氷の剣では武が悪かったんじゃないかな?天石の効果その一、この鉱石に魔法を流せば威力は軽い力でも効果は倍増する。それはもうみんな知ってる事実のはずだよね。でも、天石の効果そのニ。天石に僕たちの血を与えた場合。その威力は何十、何百倍にもなる」
熱波がやみ、私は顔を上げた。部屋の氷は全て溶け、なんなら部屋の温度がかなり高い。邪神はどうなった?
「確かに、今のは流石にこの俺も防御に回らなければやられていたかもな・・・」
奴もまだ無事か、自身の周囲に包み込むように氷の防御を敷いていた。
「天石を用いた戦い方、最初からあそこまで使いこなすとはな・・・」
沙羅曼蛇がつぶやいた。
「戦い方?あの石は硬すぎるとかじゃ無かったですか?何故あなたがまるで既に知ってるかのように?」
「理由ならば後で話す。今は奴の戦いに集中するのだ。儂も見ておる、今は奴の動きを見極める事に集中せよ」
沙羅曼蛇の言う通りだな。今は邪神に集中だ。
「僕の炎をその氷の盾で防いだのか、流石に凄い魔法の力だね。今の結構本気だったんだよ?」
「とは言ったものの、まだお前何か隠しているな?使ったらどうだ?次は今の炎でも切り裂けない氷を見せてやろう」
「今の言葉、そのまま返すよ。君もまた何か隠しているね?今度は全てを切り裂いてみせるよ」
二人は再び構えた、永零は出し惜しみする気はなさそうだ、次で決める気だ。
「さっきの炎、確かに威力はある。だがそれでもあれを更に何千倍にしても俺には及ばん、俺の氷は全てを凍結させる。もっとだ、俺をたぎらせるには・・・」
邪神も再び剣を作り出した。なんだ?あの氷、さっきとは何か違う・・・そう、なんだか青い。氷ってあんな色になるか?着色してる訳でもないだろうし・・・
「その氷、成程ね。じゃあ勝負と行こうかな!君の氷と僕の力!どっちがより威力が上なのか!?」
永零が仕掛けた。剣を鞘にしまい抜刀術を放つ気だ。永零の最高速度の抜刀、それに炎を追加して爆発力を応用する気なのか?
対する邪神は受けて立つ気だ。奴はあの氷に絶対的な自信があるみたいだ。
『はぁ!!』
互いの一撃がぶつかり合う。永零が剣を抜いた。なんだ・・・あれは、剣が輝いている?
その次の瞬間、互いの一撃がぶつかり閃光が飛び散った。
「これは」
「行けぇ!!」
しばらくの鍔迫り合いの末、永零の光り輝く刀身の剣は邪神の剣を押し切り、今度こそ剣ごと邪神を切り裂いた。
「ん、この感覚・・・」
倒した・・・いや、簡単過ぎる。今の戦い、確かに私の今までの予想は遥かに超えるような状態だったのは確かだ。そして、それを更に超えてきた永零の勝利には間違いない。
しかし、邪神がこの程度で死ぬ訳無いよな。どうなっている?
「成程な。どうりで弱いにも程がある訳だ・・・」
沙羅曼蛇が再び口を開いた。
「どういうことですか?」
「見てみよ、奴の亡骸であったものを」
私は沙羅曼蛇の指さす方を見た。永零が最後の一撃を放った場所だ。
「これは、氷の塊?」
「うむ、これは奴の能力の一つ、氷塊に自身の精神を投影する能力」
実態の作り出せる電話のようなものということか、一体どういう原理でやっているんだ・・・
それよりも、今の話を考えると奴はまだ。
「今の一撃、どうやらそれが天石第三の効果らしいな。その輝く刀身、超高熱の刃か。さしずめ、第八の魔法と言ったところか」
やはり、氷の塊が再び邪神を作り出した。
「今のだけでそこまで判断されるなんてね、流石にすごいね邪神さん。流血光刃、ネタをばらすと僕はこの世界全ての魔法が使える。そして天石に自身の血を与え更に全ての魔法を一気に放出する。通常ならそんな事をすれば武器の材質がもたない。けど完全物質のこれなら破損する事なく、その全ての魔法に耐えそれを纏う。『自らの血を喰らい光り輝く刃となる』これがこの武器、流血光刃だ」
そうか、この数ヶ月、これをずっと作っていたのか。完全物質、それを加工し武器に変える。それが永零の言っていた新たな到達点、そういう事なのか。
「ふはは!いいぞ、思った通りお前はこの俺をたぎらせてくれそうだ!お前ならば、この氷付いた俺の心を再び熱く燃えたぎらせてくれそうだ!決めた、これより氷の国は、沙羅曼蛇の国に対し、宣戦布告する!」
そう言い終えると邪神はその姿を消し、氷は無くなり溶けた。
「やはり、そう来たか・・・」
消えた後、最初に口にしたのは沙羅曼蛇だ。
「おいおい、やはりじゃねえよ!あいつが攻めてくるんだろ!?沙羅曼蛇!お前こうなるのが分かってたってのか!?奴の力、ど素人の俺でも分かる!圧倒的だ!あの分身みたいな奴の力であれだ!本物はもっとやばい!それ相手に永零が奥の手を出さざるを得なかった!って事は!俺たちに勝ち目はねぇって事だろ!」
そしてそれに反発するかのようにレイノルドが沙羅曼蛇に掴みかからん勢いで迫った。
私もそこには同意見だ。ここに来て数ヶ月、色んなのを見たがアレは異質過ぎることは簡単に分かる。今のも、永零が割と本気になっていた事も分かっている。それを分かっていながら沙羅曼蛇は何も対策しない気なのか?
「落ち着け、奴がいつか本格的に動くのはエイレイがこの世界に来た時から分かっていた事だ」
「分かってた?百年以上も前からか!?」
「うむ、エイレイよ。そしてお前達異世界の者よ、儂の真の目的をいう時が来たようだ。聞け、儂が今最も欲する物、そしてかつてよりずっと望んでいたもの、それは平和だ。しかし、シンの存在がそれを阻む。儂が何故これまで様々な国と対立してき原因は奴にあるのだ。
シン、奴は生まれ持って戦いの中で生きる言わば修羅。そこにしか生きる道を見いだせぬ。シンは常に戦いを求め、より強い者を探している。永零がこの世界にくる遥か昔、奴の存在は天災と思われ、この世界の者たちは奴を恐れ、祈る事しか出来なかった。
奴の強さにこの世界はひれ伏していったのだ。やがて戦う相手のいないシンは世界に絶望した。奴はその圧倒的強さで世界そのものを蹂躙し始めた。奴にとって世界そのものを壊すなど造作はない。
その奴に唯一対抗出来たのがこの儂と朱雀という者。しかし、儂ら二人で奴に挑んだとて、どの道世界は壊しかねなかった。
だから対抗策を考えたのだ、それが世界各地での小さないざこざをわざと起こす事。シンが求めるのは戦い。世界から争いが消えれば奴は世界を壊す。ならば、世界の各地で小さな争い事を起こし続ければ奴の興味を惹く事は出来る。
儂は、わざと水の国との境界をうやむやにさせ、世界各地の領土進行を企てた。そして、各国はシンだけでなくそこにも注力しなければならなくなる。やがて世界はシン一人よりも自国の事を優先するようになった。
世界の危機は免れたが、世界の脅威は別のものに変わっただけだ。そしてシン自身もこの時を境に行動を起こさなくなった。理由は単純、世界各地で起きる戦いの中から、自身を満たす存在が現れるのを待つ事にしたからだ。
結局、儂がした事は世界の脅威を更に増やす事をしただけだ。そんな中でエイレイ、お前がこの世界に現れた。新たな神が来た、住人たちからその噂を聞いた。
お前はこの世界に言葉を与え、技術を与えていった。儂はそれである可能性をお前に感じ、百年前お前を儂の元に呼んだ。そして逐一成果を報告するように言ったのはエイレイ、お前に賭ける事にしたからだ。
そしてお前が将来、シンを倒せる力となるのか。それを試す事にした」
沙羅曼蛇・・・百年以上前から邪神に対する対策を考えていたっていうのか。さっきシルフに言いかけた対策ってこの事だったのか。
「そう言う事だったんですか。すっかり騙されていましたよ。あなたが何故自国中心主義を行うのか、何故かこの国からはあまり奪わず他国からばかり奪おうとするのか、僕を試してたんですね。シンさんに対抗出来るのか見極めるために」
「そうだ、そしてそれだけではない。水の国に行く際、害獣にお前達を襲わせたのも儂だ。そして白針の洞窟の噂を流したのも儂なのだ」
まさかそこまで。
「ん?ちょっと、水の国に向かってる最中の奇襲の理由はまだ分かるわ。でもあの白針の洞窟の意味はどういう事よ?まさか私が引っこ抜けるのも分かってたの?」
ウーネアが沙羅曼蛇に疑問をぶつけている。それにしても、引っこ抜いたってどういう事だ?ウーネア、何をした?
「いや、そこまでは予測出来なかった。おそらくそれは偶然であろう。しかし、その偶然は吉へと運を運んだようだ。儂がその噂を流した真の理由はお前達があの石の秘密に気が付き、加工法を身につけ更にはそれを自在に操れるのかを見極めるためだ。天石、あの物質は大いなる力を与えると言われている。今のままではいくら儂が認めようとも、エイレイ、お前達は邪神に勝てぬ。いくら束になってもな。しかし、その武器を真の意味で扱えるのならば可能性は見えて来る」
永零は流血光刃を眺めた。しばらくして口を開く。
「あなたの話はわかりました。ですが、一つだけ分からない事があります。あなたは加工法を知っていたのなら何故あなたはそれをしなかったんですか?あなたがこれを持てばもしかしたらシンさんにも対抗出来るのでは?」
「それの加工には最低三人はいる、しかも儂と同じ位の力を持った者がな。しかしながらこの世界にはそれを加工出来るほどの魔力を持った者は儂と朱雀。そしてシンくらいなのだ。そして、武器があるとしても儂は炎しか扱えぬ。第八の魔法は使えぬのだ。だから待っておった。しかしエイレイ、お前のその武器はまだ本当の完全物質には至っておらん」
「え?」
反応したのは私だ。あの威力、どう考えてもあれ以上があるとは思えなかった。
しかし、永零はじっと沙羅曼蛇を見ている。という事は薄々感じていたのか。あの武器に更に上の段階がある事を。しかし、何故それを沙羅曼蛇が知っている?
「エイレイ、お前の一番秀でた能力はその分析力と判断力。だからいつかはこの境地に至れるだろうと踏んでいたが、時間がなくなってきたようだ。これは、儂と朱雀、そして今はなき友が共に作った最高傑作。名は『和一文字』お前ならば、これを完璧に扱えるはずだ」
沙羅曼蛇が懐から取り出したのは日本刀?いや、反りのない直刀。忍者刀に近い武器だ。
「天石をこんな綺麗に加工できるなんて・・・そしてこれは、この流血光刃よりも更に硬い」
永零は刀を受け取り、刃を指でなぞった。
「分かる、この刃を通じて・・・凄まじい魔法を常に流し続けて休む間もなく鍛え上げたんだ。そうしなければ完全物質にはならない」
「エイレイよ、そして異世界の革命家たちよ、この儂から頼みがある。天石の戦いを極めるのだ。そして奴を、邪神を倒すために力を貸してくれ」
沙羅曼蛇が、私たちに頭を下げた。平和を願い、そして戦ってきた。
ずっと私は彼も戦争というものの愚かさを知らない奴と思い込んでいたけど、違うんだ。沙羅曼蛇は戦争の醜さ愚かさを知っていた上で、自らがその戦争の恐怖になる事でこの国の平和を実現させて来たんだ。
自らを犠牲に、そして他国を犠牲にして。変えなければいけない。私がこの手で・・・
犠牲の上に成り立つ平和、それが今の私たちの世界。力の無い者だけが損をする。正義感が強い程そいつは英雄にはなれず、逆に憎しみを振り撒く。
私が・・・変える!!
「分かったです。永零、沙羅曼蛇。お願いがあるです。その刀の加工法を私に教えろです」




