創暦前 百年 氷の魔王編 その1
創暦 ???年
さてと、今から話すお話、異世界で起きる最初の大きな事件。氷の魔王たちと、永零たちとの戦いを話していくよ。一気に話していくから・・・ほら、今日はコース料理作っておいたよ。ほれ、オードブルの枝豆と・・・まぁいいや、いっぱい食べて。
さて今日は、夜まで語ってあげようじゃないか。女神と呼ばれるに至る彼女のお話を・・・
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創暦前 百年 九月 沙羅曼蛇の国 ニヒル アダムス
「ほぅ。で、ウンディーネは何て言ってたです?」
「触らぬ神に祟りなし、だそうだ。おいそれと警戒を強める行為は氷の国との緊張を下手に強めかねない。今はそのまま様子を見る」
私は街中を歩きながら森羅と隣国の情勢について話していた。氷の国、つまり邪神が収めると言う大国。北の大地を支配する者。
そいつが今何やら不穏な動きをしていると噂が広まっている。住民たちはその事の話題で持ちきりだ、ここの年寄り曰くあの地獄がまた来るのかと恐怖していた。そのせいか軽い噂だったのがこの緊張感だ。
邪神、相当かつてこの世界で何かやらかしたらしいな。永零は何か知っているのかと思ってるんだが、生憎まだあいつは籠って出てこない。仕方がないから私と森羅で情報を探っている。
「確か、沙羅曼蛇の話では邪神はかなりの戦闘狂だと言っていたな。ニヒル、お前はどう見る?何が故の行動と考える?」
「単純に考えれば私たちです。沙羅曼蛇は前に言ってたです、奴が今まで動かなかったのはつまらないから、満足できるものがいないからだと。しかし、今この世界に私たちが揃ったです。そして、私たちの行動もそれと同時に活発になり、外に出るようになったです。今までは永零は基本外に出ることなく、ここにいた。しかし外での研究をするようになった事で噂が広まって来た。そう考えるのが一番と考えるです」
「わたくしも同じ考えだ。邪神は我々に興味を示した。そう言う事だろう。出来る事ならば戦闘は回避したいものだな。もし、そのせいで邪神が攻めてきたとしたらそれはきっと我々のせいだ」
「ごもっとも、何か手を考えなければいけないですね」
「あぁ・・・ん?」
森羅が何かに気が付き立ち止まった。なにやら騒がしいな・・・
「おいこら!!待て!!誰か!そこのガキを捕まえてくれ!!」
パンを抱えて逃げる子供、フードを被っていてよく分からないな。
「ふん!俺様が捕まってたまるかってんだ!!それに腹減ってんだ一個くらいいいじゃねぇか!!」
「万引きですか・・・」
「みたいだな」
森羅はそう答えるとゆっくり歩いた。
「神破聖拳・・・衝勢」
「へっ!撒いてやって・・・んぎゃ!!」
子供は森羅が地面に放った神破聖拳で地面に穴が開き、思いっきりそこに引っかかって転んだ。
「ニヒル」
「はい」
私はすかさずその子供を拘束した。ん?何だこの子・・・
私はその子の素顔を見る為にフードを取った。爽やかな長い水色の髪の少年だ、ウンディーネよりかは少し大きいな。しかし、何だこの子の耳。狼のような、それよりも青色の長い体毛に覆われた耳。
「捕まえたです、動くなですよ」
「くっそ!!離せよ!!俺様は腹が減ってんだ!!一個くらいいいじゃんか!!このケチ野郎が!!」
「おい、君」
森羅が少年に声をかけた。
「あん?」
「このパン、一つ作るのにどれだけ時間がかかると思う?」
「は?」
「答えるんだ、君はこれを盗んでいい理由はあるのか?このパンはこの店の店主が朝早くから仕込んで焼き上げたもの、言わば労力の結晶そのものだ。君はそれを一個くらいと言った。ならばそこには理由があるはずだ。一個くらい良いと思える行動を君はしたんだろ?答えるんだ、君は何をしたからこのパンを盗んだ?」
「言わねーよおっさん!!いいからどけってんだ!!腹が減ってんじゃ俺様は行動できねぇの!!」
少年は暴れるが、完全に森羅は抑え込んでいる。しかし、あれはかなり関節をキメてるはずだが、よく悲鳴を上げずに暴れられるなあの子供・・・
「行動か・・・それはこの国への諜報活動の事か?」
「え・・・」
諜報?
「森羅?どういう事です?」
「ニヒル、みんなを呼べ。出来れば永零もだ。この子はこの国の子でもなければ水の国の子でもない」
「・・はぁ?何言ってんだよてめぇ」
嘘だ、これは私にも分かった。しかし、森羅は何故気が付いた?
「わたくしはここの数か月で水の国とは何度も往復した。だからここ近辺の地質もある程度理解している。君のその服に付いているこの砂。それはここら辺にはない、この崩れやすくサラサラな砂は・・・ニンフが収めると言われている『颯の国』国境沿いの砂漠地帯特有のものだ」
「なっ!?」
「それだけじゃない、君のそのフードの下の服。そんな風通しのいい生地はここでは作っていない。乾燥地帯に向いている。そのフード、誰かから剥ぎ取ったね?」
流石は森羅だな、洞察力はかなり高い。私も目標にしなければな。これほどまでに細かい所まで見えるようにならなければ、私の目標には到底届かない。あ、そうだ・・・みんなを。
「くっ・・・分かった、観念しましたよ。くそ、誰か呼んでくるっつったな。来たら目的教えてやる」
私はみんなを呼びに行こうとしたら、絶妙なタイミングで永零とディエゴ、リリアも出てきた。永零の手にはサーベルのような柄の剣を持っている、何だこれは?
「成程、どうやらこのタイミングで颯の国が動いたみたいだね。僕の名は指宿 永零、君は?」
「俺は・・・」
「あーっ!!?」
少年が名乗ろうとしたら、突然それを遮るような大声が響いた。この小さな女の子の声は・・・
「げっ・・・」
「シルフ!!あんたこんなとこで何してるの!?この状況・・・まさか、わらわのだーりんに何かしようとしたんじゃないでしょうね!?」
ウンディーネだ、どうやら知り合いだったらしいな。しかし・・・だーりんってなんだ?
「あ!?俺様はこいつなんかに用はねぇよ!!エイレイとか言う奴と沙羅曼蛇に用があんだ!!ってかこいつ何なんだよ!この俺様を抑え込むなんてよ!?」
「わたくしの名は神和住 森羅だ、この国で外交を主に任せられている」
「かみわ・・・なんだ?変な名前だな?」
「森羅はわらわの将来のだーりんなのだ、シルフ、お前もこの人への言葉使い気を付けるのだぞ!」
あぁ、だーりんって旦那って意味だな。森羅、ウンディーネに相当好かれているのはいいが・・・そこまで行くと犯罪だぞ?
「・・・」
私が森羅に目線を配ると森羅は、やれやれと言った感じで首を横に振った。おままごとに付き合っていると言ったようなものか。
「で、君の目的は僕だったね?要件は何かな?」
永零が話を進めてくれた。
「あぁ、お前がエイレイか。俺の主、ニンフからの伝言だ。俺ら颯の国はお前たち沙羅曼蛇の国と同盟を組みたいとの事だ。今まで色々あったが二国間和平協定が行われた事で、戦力差は確実。新たに戦争を始める前に先に全面降伏するってよ」
随分と馬鹿正直にはっきりと言うな。わたしはこういう風に一番の目的を言ってくれる方が好きだが、こういうのは大抵何かしらの回りくどい建前の物語があるはずだがな。
と言う事は、真の目的はそこには無いのかもな・・・
「うん、分かったよ。でもそれの話は僕じゃなくて沙羅曼蛇じゃないのかな?なんで僕に?」
「噂だよ、俺たちの国では沙羅曼蛇に変わりエイレイという男がこの国を実質支配しているってな。他の国もみんなそう思ってる、でなければあの強欲頑固じじいが、和平なんて進めるわけがないってな」
「成程、シルフ君。君の目的はよく分かった。僕としてもそれはこれ以上ない申し入れだよ。でも、少し勘違いしないで欲しいな。僕は沙羅曼蛇に変わってこの国を支配してる訳じゃない。今も変わらず彼が支配しているよ。そして沙羅曼蛇も君が思うほどの欲に囚われている男じゃない、百年以上彼を傍で見てきて思う事があるんだ。彼が欲深いのは、この国のみんなの幸せを願っているからだってね。この国を豊かにする為に彼は、自ら恐れられる立場となっていた。それが全て正しいとは思わないけど、彼は決して自分の為だけに欲深くなっている訳じゃない。それを分かって欲しい」
永零の言葉、確かにそう思えるところもあるな。最初見た時はかなりヤバい奴だと感じていたが、ここに来て数か月。少しづつ印象が変わってきている。奴は力の誇示はするものの、それを国民に向けたりは決してしない。
「へぇ、あのジジイにそんな面があんのか・・・だったら、単刀直入に言うしかねぇかな。エイレイ、俺たち颯の国が同盟を組みたい本当の理由を伝える。それは沙羅曼蛇の奴にも聞いて欲しいんだ」
シルフ、目つきが変わったな。今のは永零を試していたとでも言うのか?永零を通じ、沙羅曼蛇の本心を探ったのか。
「何か訳ありって感じだね・・・なら行こうか。森羅さん、ニヒルさん。とりあえず転移者全員を沙羅曼蛇の元に集めてくれるかい?どうも、次の到達点が近づいてるみたいだ」
到達点?一体どういう意味だ?まぁ永零の事だ。何かしら察してるのかもな。
「了解です。あ・・・レイノルドの奴もですか?」
「君が彼を苦手にしてるのは分かるけど、事態が事態だからね。それに、この件は彼にとっても意味があるんじゃないかって思ってるんだ。嫌かもしれないけど、頼める?」
「仕事なんてのは嫌でもやらなければならない、それは世界で生きる上で重要です」
「そう、じゃあ任せたよニヒルさん」
私はレイノルドと飯綱を、森羅はクラークとパヴァロフを呼び、沙羅曼蛇のいる玉座に向かった。
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沙羅曼蛇の国 玉座
「颯の国の使者、シルフか・・・この者らも集め一体何用だ?」
「相変わらず上からだな・・・まぁ今はそんな事どうでもいいや。あんたらに伝えたいことがあって俺はここに来た。氷の国、邪神が動く。狙いはこの国だ。あいつ、シンは沙羅曼蛇の国が最近やたらと力を付けている事に目を付けたんだ。沙羅曼蛇、あんたなら分かるだろ?あいつの性格を」
「ふん・・・やはり動いて来るか。相変わらずの戦闘狂、しばしなりを潜めておったと思えば、あ奴め・・・」
「そこでだ、もしあいつが動くってのであれば颯の国も巻き込まれかねない。だから俺たちはお前らに同盟を結びたいと思ってここに来た。沙羅曼蛇、ウンディーネ、そして俺たちの主ニンフならば、いくら相手があいつでも勝てるかもしれない」
成程、それでシルフはこの国と同盟を組もうと言い出したのか・・・だが、これで沙羅曼蛇は納得するか?
「随分と手前勝手な申し出ではないか。自国が巻き込まれる懸念から今までの事を無くそうと言うか。笑止、シルフ。貴様は儂を何と考えておる?都合の良い時に守ってくれる盾になるとでも思うたか?」
ごもっともだな。ウンディーネの時は彼女と沙羅曼蛇との互いの謝罪で何とかなったが、今回のはただ虫が良い話だ。
「盾になってくれるなんて思っちゃいないさ。一緒に戦おうぜ、って話なんだからよ。俺たち颯の国も全力で協力してくつもりだ」
「協力か、それが虫が良いと言うておるのだ。貴様ら颯の国には誇りがないのか?シンは恐ろしいと、手は出さなければ良いとその考えが甘いのだ。何故常に国への危険があるにも関わらずそれに対抗する事をしなかった?」
「奴は強い奴に惹かれる、だからおいそれと表には出せねぇんだよ」
「本当にそうか?確かに儂にも分からぬ秘策が貴様らにはあるやもしれん。だが、それはシンに対抗できる程ではないと、そう判断してるのではないか?だから体のいい協力と言う言葉でそれを悟られまいとしているのではないか?」
「・・・じゃあよ、お前はどうなんだよ!?確かに噂だとここのこいつらは強いって聞いたぜ!?でも、それで本当に奴に対抗出来んのか!?」
「それは・・・」
「それが本当かは、ここで見てみれば分かるはずだ」
沙羅曼蛇が何か言いかけた途端、突然別の誰かが横やりを入れた、何だこの感じは・・・冷たく、しかし、落ち着いたこの声。
「て、てめぇは!?」
シルフが叫んだ瞬間、玉座の間が一気に凍り付いた。そして地面から氷の柱が生えそしてそれは人の形になった。腰程まで長く、少し棘のある真っ青な髪。そして、これでもかと言うほどの冷たい目。
「こんな無礼な挨拶で済まない、俺が邪神。まぁ、軽くシンと呼んでくれればいい」
「どうやって・・・なんで」
シルフは明らかに動揺している。
「なんではないだろう、元々お前が持ちかけた話だ。沙羅曼蛇、お前の意見も分かるがここはシルフの言う事を聞いてあげたらどうだ?俺の目的はあくまでもお前たちだ。しかし、俺が動けば隣国であるこの弱小国を巻き添えで潰しかねない。俺は強い奴が好きだ、弱小なこいつらでもお前たちと手を組んだのならば少しは張り合いが出てくるかもしれないだろ?それに、弱い奴の中にはごく稀に強い心を持った奴が現れる。それが出てくる前に消してしまうのは可哀そうとは思わんか?」
「シン、貴様は逆に思い上がりが過ぎるぞ・・・その自信過剰がいつしか自らを滅ぼす」
「それはどうかな?だから俺はここにいる。俺が思い上がりかは、こいつらに聞けば分かる事だろ?沙羅曼蛇、お前も見てみたいだろ?エイレイ、この男の力を・・・」
邪神は永零の方を見た。そして永零もじっと邪神を見つめている。
「・・・分かった、見せてあげるよ。これが僕が至るべき新たな到達点」
永零はサーベルを抜いた。白い刀身・・・あれって、前に見たあの石で出来てるのか?
「その剣は・・・」
沙羅曼蛇が目を見開いて驚いている、彼も見るのは初めてなのか・・・
「流血光刃。僕の新しい力にして、君に至る為に到達した力だ」
永零はサーベルを邪神に向けて構えた。
「くくっ・・・いいぞ、この当たる殺気ただ者ではないな。怒りと覚悟、さぁ俺を満たせ、この氷を熱く溶かすほどのワクワクを俺に当ててみろ!!」




