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1945年 3月10日 大日本帝国

 創暦 ???年


 ひょっとっと・・・んしょっと。これこれ・・・ん?


 やぁやぁ、来てくれたんだね。続き、聞きに来たんでしょ?そうだ、コーヒーでも飲む?あたしは苦手だから安定にワンカップで行くけど。


 んしょっと、時は終戦間近の1945年。前に話した二人の物語、今日はニヒルちんの話をしよっか。


 ・


 ・


 ・


 1945年 ニヒル アダムス


 『ウー!ウー!ウー!』


 「また空襲警報ですか・・・」


 ここ最近、ほぼ毎日のようにこの警報の音を聞いている。


 「ほら、起きろニヒル」


 父がわたしを起こし、わたしは防空頭巾をかぶり防空壕へと避難した。


 ここへ来た最初の頃は周りのおばさんにネチネチ嫌味を言われたり、嫌がらせを受けたがその度に折れずにわたしは言い返した。最初は殴り返そうかと思っていたが、それじゃ意味がない。言葉を使う事に意味がある。おばさんに相撲を挑んでもこっちがただのいじめになってしまう。それこそ鬼畜の所業だ。


 その甲斐あって、最近ようやく嫌がらせは起きなくなった。まぁネチネチ言われるのはおばさんと言う生き物の性分だろう。それはもう仕方がない。ただ、理解されればいいんだ。


 いつかは分かる、言い続ければ。


 「うわ・・・今回は大分酷いな・・・」


 空襲警報が止み、父が先に外に出た。後に続いて私も出る、ここは田舎だから滅多な事が無い限り焼夷弾は落ちてこない。落ちてきてもこのわたしが主導で消化すれば一発程度は何とかなる。


 しかしあれは・・・わたしが見た景色はまるで沈む夕日を見るようだった。一面が山吹色で覆われ、子供ながらの感想だが、正直綺麗に見えた。


 しかしあれの中で多くの人が死んだ。亜米利加は一体こんな事をして何がしたいんだ?こんなだから鬼畜だの言われるんだ。


 「っ!!おい!!鬼畜共!!!そんな空からそんなもの落として恥ずかしくないですか!?降りてきて戦え!!臆病者どもが!!」


 わたしは飛び去る爆撃機とか言う奴に向かって叫んだ。


 ・


 ・


 それから数日が経った。


 「おめでとうございます!」


 「あぁ、そうか分かりました」


 その日父に配達員が何かを届けに来た。父はその人から何かを受け取っていた。あの顔を見て何となく理解出来た。赤紙だ・・・


 「なぁ父ちゃん・・・それ、赤紙・・・なんだろ?」


 隆二も同じように理解できている。


 「あぁ、どうしたものか・・・母さんは紡績工場。そして俺は出陣か・・・ふっざけんな!!!」


 父が珍しく怒りを露わにした。父が言ったように母はまだ若い事もあったから紡績工場で働いている。


 「落ち着いてお父さん!!家の事はわたしがなんとかするです!!」


 「そうだぜ父ちゃん!ニヒルの奴、焼夷弾も消したんだ!ニヒルと俺がいればどんな奴が来たって負けねぇ!!」


 「そうです!!それに加え家事洗濯も出来るですよ!!」


 わたしは隆二に続いた。


 「お前たち・・・」


 「だからお父さんはあの鬼畜共に教えてやるです!!我が大日本帝国は絶対に屈しないと!!ラジオで言ってた!もうすぐ勝てるんでしょ!?この空襲の連続はあいつ等の最後の悪足搔きだって!!つまり、もうちょっとだけ我慢すれば全部終わるって事です!それまでだったら我慢出来るです!!」


 「そうだな・・・ありがとう。おかげで勇気が持てたよ。必ず生きて帰るから、約束だ」


 父はわたしの頭を撫でてくれた。しかしその時見たその目は、まるでわたしを嫌悪しているかのような目だった。悲しそうで、凄い怒っている。その理由を知るのはほんの数日後だった。


 そして出陣の日、わたしたち家族は今できる精一杯のご馳走を用意して父を送り出した。


 ・


 ・


 1945年 3月10日


 またサイレン・・・なんだろう、もう慣れたはずなのに・・・妙に落ち着かない。父がいないせい?いや、それももう慣れた。


 防空壕に行かなきゃ、母は働き過ぎて腰を痛めている。わたしが運んで上げなければいけない。


 「お母さん!!早く行くよ!」


 わたしはいつものように防空頭巾をかぶり、防空壕へと向かった。


 「なんか・・違う」


 隆二が呟いた。

 

 「おい!!隆二!!ニヒル!!」


 そこに善之助もやって来た。どうしたんだろ?こんなところに・・・


 「家に焼夷弾が落ちたんだ!!手伝ってくれ!!逃げ遅れてる奴もいるんだ!」


 わたしはそれを聞き、すかさず善之助に向かおうとした。わたしは焼夷弾の火を消したんだ、また出来るはず。そう思い、駆けだそうとした時だった。


 母が凄い力でわたしを引っ張った。


 「あんたたちは先に入ってて!!」


 「ちょっとお母さん!?何を言ってるですか!?」

  

 「あなたたちじゃ足手まといです!!子供は早く防空壕に隠れてなさい!!」


 普段おしとやかな母が、この時だけは声を荒げた。そしてわたしたち三人を無理やり防空壕に押しこんだ。


 その直後だった、『ひゅるるるる~』と言う変な音が聞こえてきた、そして目の前で何かが爆ぜた。そこからの記憶がない。


 気が付いたのは翌朝だった。防空壕の入り口には何かがあって通れなくなっていた。


 「おい!善之助!!ニヒル起きたぞ!!」


 「ニヒル!!大丈夫か!?」


 「うん・・・いった!!」


 大丈夫だと思ってたけど、怪我をしたみたいだ・・・あれ?何かを忘れているような・・・


 「ニヒル!!起きたならこれどかすの手伝ってくれ!!」


 「は、はいです!!」


 『せーの!!」


 この時わたしは、こんなものどかさなければ良かったと思った。


 「なに・・・これ・・・」


 そこから見た景色は、煙と炎。まるで火で海が作られたような景色だった。


 「なぁ、ニヒル・・・これ」


 隆二がわたしに何かを手渡した。これは・・・母が着ていた着物の、切れ端?端っこが血で汚れている・・・


 わたしは何故か振り返った。そして現実を知った。防空壕を塞いでいたのは戦闘機、零式艦上戦闘機。それが家に落ちてきてたんだ。


 そしてその零戦の下に血だまりがあった。


 「え・・・え?」


 わたしは言葉を失っていたが、頭だけは働いた。何が起きたのか分析できた・・・母は、この堕ちてきた戦闘機に潰されたんだ。しかも、プロペラで切り刻まれ、機体にすりつぶされた。だから母の遺体は欠片も残っていない。


 「かあ・・・ちゃん?」


 隆二は固まって動けなくなっていた。わたしはふらふらと零戦の操縦席を見た。


 「は?      お父さん?」


 そこに乗っていたのは父だった。おかしい、父はそんな零戦に乗れるような人物じゃない。神風特攻隊なんて憧れの的だ。


 これは夢だ、疲れているんだきっと。だって有り得ない。死ぬにしたって、敵軍の攻撃を喰らったならまだわかるよ。でも、自国の戦闘機がわたしの家に突っ込んで母がそれに潰されて、しかもそれを操縦していたのが父だなんて。そんな馬鹿な話はないよ。あ、そうか・・・お父さんが戦争を終わらせて帰って来るんだ。神様はいたずら好きなんだ、だからこんな夢を見せてるんだ。


 わたしは半笑いでその光景を眺めた。


 『パァン!!』


 頬に強烈な痛みが走った。善之助が叩いたんだ。

 

 「ニヒル・・・俺の事、ちょっと殴って。全力で」


 「は?何言ってるですか?」


 「いいから!!早くしてくれ!!多分これは夢だ!!嫌な夢だから醒めたいんだよ!!」


 わたしは善之助を殴った。わたしの拳も痛い・・・そして全身に激痛が走った。


 「いったたた!!!」


 「おい!!ニヒル!!」


 「あ、ごめんです隆二・・・おかしいです、何で、目が覚めないですか?」


 「俺も思うよ・・・でも、これさ・・・現実・・・だよな。だって痛いもん。気持ち悪いもん、吐きたいもん」


 「嘘・・・流石に有り得ないです・・・」


 流石にわたしもこの時に現実を意識させられた。


 「父ちゃんと母ちゃんは・・・死んだんだ。こんな、クソしょうもない事故で!!」


 隆二が叫んだ。わたしは理解した、いや、逆に理解が出来なくなった。戦争は勝負と同じだと思っていた。けどそうじゃない、こんなものは戦争とは呼ばない。ただの虐殺だ。しかも、殺したのは亜米利加でもなんでもない。わたしたちがやったんだ・・・勝手に父が母を殺したんだ。


 「ねぇ隆二。この戦争・・・戦況は有利でもうすぐ終わるってラジオで言ってたよね」


 「あぁ・・・」


 「多分、嘘だ・・・有り得ないです。戦争に有利なら・・・こんな景色は起こらないはずです。大体・・・国家総動員なんて、考えれば分かるです。単純になにもかもが少ないだけです。一方亜米利加はどうです?毎日のように空襲。数もある、武器もある。どうやらこの国は、いつの間にか堕落していたらしいです。嘘をついてわたしたちを騙して・・・許さない。何が・・・神風特攻隊だ。何が天皇陛下万歳だ・・・」


 「おい!!それ以上言うな!!」


 隆二がわたしを止めようとするが、わたしは叫ばずにはいられなかった。


 「何が零戦だ!!ずっと勝てると信じて我慢した!!国の為に命を捧げるのは本望だった!!けど!!お前たちは勝手な都合で父も母も、嫌みたらしいおばさんも殺した!!お前たちは一体全体何がしたかったですか!?こんなやり方で!!正義が貫けるとでも思ったですか!?」


 「ニヒル・・・」


 善之助はただ立っているだけだ。


 「勝負とは!!己が貫きたい信念を守る為にするもの!!信念を失くしたお前たちはもう負けてしまえぇぇっ!!」


 わたしは焼け野原に向かって叫んだ。この戦争、勝とうと思えば勝てた。けど、お前たちは意志を見失い。間違えた。そして結局、亜米利加にただ遊ばれただけだ。


 この惨状だ、多分別の場所ではきっともっと酷い結果の予想がつくさ・・・


 わたしたちは全てを失った。家も、家族も、だけど零にはならない・・・なってやるものか。この国が負けるのはもう仕方がない。けど、ここにいるわたしを・・・わたしたちを負かしたと思うなよ。


 「隆二、善之助・・・なんでこんな事になったですか?」


 「俺が・・・お前を呼びに来たから・・・」


 善之助が震えた声で呟こうとした。


 「否!!これはなるべくしてなった!!いいですか!?お父さんもお母さんも死んだのも!!全部!!わたしたちが招いた結果です!!全員が悪いだけです!!」


 わたしは善之助に向かって叫んだ、この惨状は誰のせいでもない。わたしたち全員が悪い。意志を届けられなかった、そしていつしか意志を見失った。だから弱くなった。だから勝てないんだ。


 「・・・そうだな、だから負けた。多分わが国はきっと近いうちに降伏する。夏ぐらいかな・・・その間にも、もっと多くの人が死ぬだろう。けどなニヒル・・・お前はそれで負けを認める事はしねぇだろ?」


 隆二がわたしにそう問いかけた。


 「よく分かってるですね・・・この国が負けようとも、わたしたちは負けない。いつか昇りつめて、この国の意志を思い出させるです。隆二、善之助。一緒に行くですよ。一緒に生きて、思い知らせるです」


 「おーい!!誰かいるか!?声が聞こえたぞ!?誰かいたら返事をしろ!!」


 誰かが呼ぶ声がした。見渡すと誰かがやって来る、あれは将校?軍刀を腰に差している、軍服の男だ。


 「ここにいるです!!」


 わたしはその人を呼んだ。


 「ん?貴様・・・その顔は、仏蘭西人か?」


 あれ?勘違いしない・・・


 「仏蘭西の血は流れていますが!!日本人です!!」


 「・・・ここにいる生き残りは?」


 「皆、死にました!!生き残ったのはわたしたち三人だけです!!」


 「その目つき・・・お前、名は何という?」


 何故今そんな事を聞くのか・・・意味が分からない。


 「ニヒル アダムス。こいつがわたしの兄 道山 隆二、そしてそいつが友人の狭山 善之助」


 「ニヒル、隆二、善之助か。俺に付いてこい!!」


 「え?あの・・・将校さん、どうして・・・普通聞かないですか?わたしの事」


 「聞く必要はない、その目を見れば十分だ。俺は似た目をした奴を知っている。怒りと覚悟を持った目をした奴だ。そいつは生まれつき髪が白い、金髪程度で俺は動じん。それよりも、今は生き抜くことを考えろ。これ以上、子供を犠牲にはさせん・・・ここ関東はどこもかしこも危険だ、俺は広島に向かっている、あそこならまだ安全だろう。お前らも一緒に来い、永零の奴なら匿ってもらえるだろう・・・」


 将校の目が少し潤んでいた。同じだ・・・恐らくこの将校も、何かを失った・・・しかし、それを決して表には出そうとしていない。


 「分かったです。行くですよ、二人とも!」


 「あぁ」

 「わかった」


 わたしたち三人は将校と一緒に広島へと向かう事になった。


 この将校との出会い、そして広島で出会う事になるある男、そして終わりを迎える戦争。これがわたしの物語の始まりだ。


 ・


 ・


 ・


 創暦 ???年


 これがニヒル アダムスの始まり。激しい怒りと、悲しみを胸に彼女は立ち上がる。そうそう、この後ニヒルちんは将校と一緒に広島に向かうのは良いんだけどさ、鉄道網は軍事輸送が最優先でとても乗れたものじゃなくて、それでもって彼は格好将校と言えども、そこまで階級が高い訳じゃないのよ。階級は少尉。


 結局なんだかんだ人助けとかしながら広島まで歩いて行ったんだってさ。それで広島着いたのがもう夏真っ盛り、なんでそんなに時間がかかったのかはまた今度。


 あ、そうそう!!ニヒルちんさ、旅の道中に将校さんにせがんで剣術を教えてもらってたらしいよ。あんな事あったのに元気だよねぇ・・・


 さてと、次は日本人なら誰もが知っている、1945年8月6日の広島。あの日に起きた真実を教えてあげるよ。またおいで・・・

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