創暦前 百年 水の国 その2
創暦 ???年
さぁて水系和菓子、ついに第三弾!!今回はこちら!奈良、吉野の葛餅!!教えてもらいながら作ったんだよ?さぁ一緒に食べようじゃないか!賞味期限は十分!!
さ、その十分ほどで、今日のお話もしようか。水の国の王ウンディーネ。彼女は何故幼いながら王になったのか、そして何故あらゆるものを欲しがるのか、語ってあげよう。
・
・
・
創暦前 百年
「え、このお嬢ちゃんが王様だって?ぷぷ~、冗談止せって、いくらなんでもねぇわ!!」
レイノルドが口を抑えて笑いだした。
「何を!?きさま!もういっぺん言ってみろ!!」
「やれやれ・・・これは、失礼しましたです、ねっ!!!!!」
「ふぉごぉっ!?」
私はレイノルドに私の肘をみぞおちに喰らわせた。
(今度余計な事言うと口を縫い合わすぞ・・・)
「お、おぅ・・・もうしません・・・」
「ふぅ、さて王よ。聞かせて欲しいです。沙羅曼蛇曰く、水の国は他と比べ最も因縁が深く、常に対立していると聞いているです。意味の無いいがみ合い等はない。何かきっかけがあるはずです」
「・・・話しても無駄だ。だって、わらわは何もしてないもん。あいつが勝手にわらわの所有物を奪ったのだ」
「奪った?沙羅曼蛇は君にとって大切な何かを奪ったのか?」
森羅がウンディーネに質問を返した。
「そうだ、ここにある木や川、森は水の精であるわらわの物であるのに、奴は木を切り、それを燃やしたのだ。そしてわらわからこの森を徐々に徐々に奪っていくのだ。聞かせろ人間、沙羅曼蛇は何故わらわの森を燃やすのだ?水は濁り、燃やされなくとも木々が腐っておる。その理由があるのなら聞かせよ!」
そう言う事か・・・原因は、私たちだ・・・沙羅曼蛇は欲深いのはよく分かる。だが、その彼に文明を与えた。私たちの文明は犠牲の文明だ。楽な生活の代償は基本燃やす事。自動車は便利だがその為にガソリンを燃やす。ゴミは捨てた後焼却炉で燃やされる。私たちの生活のありとあらゆる便利は燃やすと言う事で手に入っている。
そして代わりに犠牲になるのが森などの、燃やされる側の存在だ。ウンディーネはひたすらにこの森を守ろうとしただけでは・・・
「そりゃきっと、沙羅曼蛇の街の奴らが楽に暮らしたいからだろうな~。ほら、あの街って結構鍛冶とか鉄鋼業が盛んっぽいじゃん?それ燃やすのにここから取ってるんだろ?見た感じここの木、薪にするのにマジでベストなコンディションじゃん。さっき拾ったこの木の枝だけどよ、これはいいわ~。燃やしたら分かるだろうけど、これ、煙もそこまで出ないだろうぜ?その上燃えやすく、燃焼時間も超長いと見た。こりゃちょっとやそっとじゃ手に入らない木だ。あ~、これでピザでも焼きてぇよ」
レイノルドは一体何が言いたいんだ?専門的な事過ぎて分からん。
「つまり・・・どゆことだ?」
ウンディーネも首を傾げている。
「え?だから、ここの木はめっちゃ材質がいいから沙羅曼蛇の国の方からわざわざ取りに来てんだろ?俺は良いと思うぜ?うん、この上質な木。これを使わない手はねぇよ。あの国の連中分かってんなぁ~」
『ゴッス・・・』
「いって!!」
私はもう一度レイノルドのわき腹に肘鉄を食らわせた。
「貴様は一体どっちの味方です、ウンディーネの希望はこれ以上木を切らず、森を汚すなですよ?それを本人の前で肯定するとはどういう事です?」
「いやだってよ、凄いには変わりねぇもん。大体俺、自分の思った事をついに口に出すタイプなもんでよ。お膳立ては女の子にのみ使うって決めてんの」
やれやれ・・・そこは私と同じか。こいつにとってここの伐採は別に間違っている事ではないと。と言うかレイノルドの奴、ウンディーネは女性扱いではないのか。
「つまり、沙羅曼蛇の奴は自分たちが楽に暮らしたいが為にわらわの木を切っていると?」
「そ~だな。そう言う事になるか・・・って、え!?ちょ!!なんで泣いてんの!?」
突然ウンディーネはボロボロと泣き出した。
「だって・・・わらわのなのに・・・わらわのなのに!!」
「う~ん・・・ってかウンディーネちゃんよ。あんたはその事沙羅曼蛇の奴に言ったの~?ここはあんたの土地なんだろ?それを勝手に持って行くのは俺もどうかと思う。と言うか大体この森で木を切られてるのってもっと森の手前付近だったろ?あそこって沙羅曼蛇の国の領土の中じゃないのかよ?ってかここの国境どこよ?」
言われてみれば、ここの世界にはろくな地図がない。沙羅曼蛇の国の人たちは確かにこの森で木を切っていた。しかしそれはかなり手前でだ。ウンディーネにとってはこの森全てが自身の領土、沙羅曼蛇にとってはこの湖までが領土と思っているらしい。
「こっきょう?」
「知らないのかよ!領土だ領土!!ウンディーネちゃんが言う自分の領土はどこよ!」
「この森じゃ!」
「俺は湖からって聞いてるぜ?ウンディーネちゃん、もう一回確認な?お前は沙羅曼蛇の奴と、こういった話はしたのか?」
何となく見えてきたか、まさかレイノルドのおかげになるとは思わなかったが。
「・・・ない。あ奴はここは儂のものだと言い放ち、わらわを脅かすのだ。わらわは昔からこの地を守れと言われておるのに、あ奴・・・」
ウンディーネは泣き崩れた。
「・・・それは立派な覚悟だ。君はずっとその教えを守ろうとしていた。だから、沙羅曼蛇が森に手を出したら、それ相応の報いを手に入れようとしたのだな」
森羅がその様子を見て口を開いた。
「そうだ。あいつが奪うのなら、わらわは奪い返すしかないであろう」
「うむ、その気持ちは分からなくもない。しかし、それには意味がない。無意味で不条理な連鎖を産むのみ。その結果、君はより多くの森や川、湖を失う。そしてその先にあるものは何もない。何も手に入らない」
「何故そんな事が分かるのだ!?わらわは・・・」
森羅の顔を見たウンディーネは突然黙った。その目を見れば、誰だってわかる。
「何度も見てきたからだ。私利私欲の為に失われる命、大義を抱いて死んだ命、わたくしが奪った命は数知れない。しかし、その結果世界は何も得はしなかった。奪ったら奪われ、ただ無意味な命のやり取りが続くのみ。この世界は無意味にややこしい。単純であることに何重にも意味を重ねてしまい、本来の姿を見失う。ウンディーネ、誇りを捨てよ。そこに本当の答えがあるはずだ。何故奪われるのか、そこに理由を後付けするな。原因を探れ、そうすれば自ずと解決策は見えるはずだ」
森羅の言葉にウンディーネは頷いた。そして瞑想するかのように目を瞑った。
「・・・言い伝えだ、それはわらわに森を守れと告げた、広がりゆくこの森を守れと・・・あの時、この森はここまで大きくなかったのだ。この湖周辺のみに生い茂る、小さな森。しかし、森は大きく広がっていった。わらわはその大きくなりゆく森を守るべく動いていた。しかし、そこへ沙羅曼蛇が現れ、森を消していった・・・そうだ。わらわは森を大きくしたから・・・」
「それが原因だな。やはり、思い返せば理由なんて単純なものであろう。君は広がりゆく森を守っていた。沙羅曼蛇は大きくなりすぎる森を食い止めていた。それがいつしか領土の奪い合いとなり、やがて資源の争奪戦へと変わり果てた。ウンディーネよ、君のこの森を守りたい覚悟は素晴らしい。しかし、それにより別の誰かの自由が奪われる可能性がある事も忘れるな。森が広がれば森でないとこに住んでいた者たちの場所も奪われているのだ」
「そんな・・・」
「あ!だったらよ~!!これでいいじゃん!水の国は森を広げる。沙羅曼蛇の国は広がり過ぎた木を切る。簡単な貿易って感じよ」
なぁんでこういう時に限ってレイノルドはそう言う発言をするのか。貿易に関しては私も考えていた案だ。この話し合いの中で、原因は単純であることが分かったし、わだかまりが解決出来ればかなりの友好国になれる可能性はまだ十分にある。
「ぼうえきとな?それは何だ?」
「商売とあまり変わらない。向こうは君の広がる森の木を欲している。君はそれを提供し、向こうはそれを使う。そして向こうはこちらにその木を別の形にして返すと言う事だが・・・少し難しかったか?」
「む、わらわを馬鹿にするでない。ちゃんと理解できたわ!たしか、シンラとか言ったな!」
「済まない。しかしだ、それをやるにも君は一度誠意を見せなければならない。君も沙羅曼蛇から奪ったのは事実。その償いはしなければならん」
「償い・・・とな?」
「そうだ。人間はこれが出来ないから、無駄な争いが消えぬ。君がやるべきことはたった一つ、謝罪だ。君にそれは出来るか?」
ウンディーネはしばらく黙った。沙羅曼蛇に頭を下げる、なんだかんだそれは結構嫌らしい。私からしてみれば、かつてのアメリカ軍に首を垂れると同じだからな。相当きついな。
「わらわがあ奴に頭を下げるのか・・・わ、わかった。良いだろう・・・し、しかしだ!!気持ちの整理が出来るまでしばし待て!謝りには行ってやる!!代わりに三日間わらわと添い寝するのだ!!三日後!わらわが直々に出向いてやろう!!」
添い寝って・・・やはり子供じゃないか。
「承知した、貿易の件に関してはわたくしたちが沙羅曼蛇に掛け合おう。ニヒル、それで構わないか?」
「あぁ、とりあえずウンディーネ側の了承は得たです。後はそれに沙羅曼蛇がどう返事するかによる。そこは私たちの問題です」
ウンディーネのすべき事は謝罪、私たちは沙羅曼蛇と貿易の交渉。ここは私の出番になりそうだ。
「ん?ってかウンディーネちゃん、何で三日なん?」
レイノルドが首を傾げてウンディーネに質問した。
「丁度お主らが三人おるからだが?」
「うん?」
「分からぬか、一日づつ交代でそなたらは、わらわと添い寝するのだ。それが絶対条件だ、やらぬと言うのならばわらわは沙羅曼蛇の元には絶対に行かぬ」
「いいけど、なんで添い寝なんだ?」
ごもっともな意見だ。私たちが添い寝する事に何か意味があるのか?
「丁度、わらわの添い寝係が体調不良で倒れてしまったのだ。だから丁度いいお前たちに頼もうとしておるのだ。光栄に思うのだぞ、王直々の添い寝の誘いだ」
ウンディーネ、やはり結構な寂しがり屋。しかもここまで堂々と言い放つと言う事は、こいつにとって添い寝と言うのは当たり前のような感覚と言う事か。やはり子供じゃないか・・・
「わかった!んじゃ今夜は俺がやってやるよ!ピロートークなら得意なんだ!」
ピロートークとは一体何だ。だがまぁ、良いんじゃないか?別に。
「ピロー・・・何かよく分からんが、まあ良いだろう。今夜はお前だ・・・名は何だった?顔の濃い男よ」
「レイノルド ビル ルーカス。ビルでもレイノルドでもルーカスでもどれでも好きな呼び方でど~ぞ!」
「じゃあ貴様だな」
「ガクッ、でもまぁいいや。ところで、ニヒルちゃんたちはどこで寝ればいいんだ?」
そうだな、それは私も気になっていた。
「案ずるな、来客用の寝床ぐらいは用意してやる。二人はそこで寝るのだ」
「ふむ・・・予想通り、これで明日か明後日は俺はニヒルちゃんと一緒って事だ、イッシッシッシシシシ」
「何を言うておるのだ貴様?まぁ良い、行くぞ」
私には理解できたよ変態め。こいつ、私と一緒に一つ屋根の下で寝たいが為に先に名乗り出たと言う事か。美味しいおかずは最後に取っておくと・・・ん?だれが美味しいおかずだ!
「ニヒル・・・少し良いか?」
私が勝手に自分にツッコミを入れていたら、森羅が私に話しかけてきた。
「何です?」
「さっき言っていた事が引っかかってな。ウンディーネは、確か添い寝係が必要だと言っていた。しかし、その添い寝係は体調不良。何か妙な胸騒ぎがした気がしてな・・・」
ふむ・・・そこは流石に考えすぎだろう。添い寝係がウンディーネによって何かしら体調不良にならざるを得ない状況にされたかもしれないと。ただ一緒に寝るだけだ、問題はないだろう。
そして私たちはウンディーネにつられるがまま、村に着いた。
「・・・普通に、村です」
案内されたのは普通に村、湖の畔の漁村って感じだ。ウンディーネはここに住んでいるのか?
「お主らはここの宿に泊まるがよい、さて貴様。貴様はこっちだ」
「へ?ってぎゃああああ!!」
レイノルドはウンディーネに蹴飛ばされて湖に落ちた。
「な、何すんでい!!」
「何を言うておるのだ、わらわの家はここだと言うたであろう。早う潜れ。まさか貴様泳げぬのか?仕方がない。引きずってやる、案ずるな下には空気がある。その程度ぐらいは息止められるであろう?」
「がぼぼぼぼぼぼ・・・」
レイノルドがウンディーネに引きずられ沈んでいく・・・やはりこの湖そのものが奴の家、いや、城なのか。
「ぷるぅはあああ!!!」
「あ、出てきたです」
レイノルドが凄い顔で水面から顔を出した。
「何を逃げ出すのだ!!早う来んかい!!このわらわの手助けを無下にしおって!!」
「俺!泳げないの!!カナヅチなんだよ!!前言撤回!!ニヒルちゃん!おたすけぇぇぇ!!」
相変わらずピーピーと甲高い声で叫ぶなこいつ・・・
「男に二言は無いとよく言う。そして私もそれを常に意識している。貴様は男なら度胸を見せるです」
「ぎゃぼぼぼぼ・・・・ぼ?」
ん?
「あれ、なんか・・・苦しくないんだけど。え、なにこれ。水の中でも苦しくならないんだけど?」
レイノルドが普通に顔を水面から出した。今度は慌ててない・・・水の中で苦しくならない?どういう事だ?
「何だ貴様、水の中で息が出来るのか。ならば最初から言え。水の中で呼吸が出来るのに泳げぬとは、とんだ間抜けだこと」
「うん、俺もなんかすげぇってなってる・・・でもね、泳げないの変わらないから勝手に沈んでくの。だからウンディーネちゃん。手、引っ張ってくれぼぼぼぼ・・・・」
水面の下でレイノルドがウンディーネの小さな手で引っ張られて水中へと消えていった。
「マンモーニ・・・」
やれやれ・・・やはり情けない奴だ。大人が子供に泳ぎを教わるとは・・・
「森羅さん、我々もそろそろ宿に泊まるですよ」
「そうだな」
私たちは宿に向かった。特にこれと言った会話はしていない。そして次の日になった。
「・・・・・・」
レイノルドが打ち上がっていた。何かぶつぶつ言ってる。
「何があったです?」
「何があったじゃないよ!!!殺されるかと思ったわ!!寝相が悪いのなんの!!抱きつかれて絞殺されかけたんだよ!?」
あ、思いのほか元気そうだ。成程、普段の添い寝係が体調不良の理由はこれか・・・
「何を着様、貴様が寝かしつけるお話に訳の分からない話をするからではないか。おかげで寝つきが悪かったわ。そこに謝りはせぬぞ」
「一体どんな話をしたんだ?レイノルド・・・」
森羅が恐る恐るレイノルドに尋ねた。
「え?そりゃもう、一応ウンディーネちゃんも女の子じゃん?男と女がベッドでする会話つったら事後のお話に決まってんじゃ~ん」
『ゴッス!!』
私の拳骨が炸裂した、そして森羅も死んだ目でレイノルドを見下している。
「ピロートークってそう言う意味でですか。貴様、いっぺん死んだらどうです?」
「え!?どうして!?」
「同感だ、わたくしは自分の事を器用な人間とは思ってはいないが、女性に対する配慮位は出来ていると自負している。レイノルド、お前はもう少し配慮を覚えたらどうだ?」
森羅が最早、言い聞かせるようにレイノルドに言う。そしてその目線は最早レイノルドを見ていない。相当呆れてるな。
「配慮!?めっちゃくちゃやってんじゃん!!」
「はいはい、貴様はここでおやすみです。二度と部屋から出るなです。森羅、済まないがこいつ見張っていてくれ。今夜は私が行くです」
「了解、彼はこの村でも何しでかすかわからん。注意してみておこう」
「え!?今夜は野郎と寝るの!?」
「そうです、いいですか?絶対に大人しくしてるですよ!!」
レイノルドは宿屋に封じ込めた。
「昨夜はすまなかった。奴を行かせるべきではなかったですね。謝りますです」
「うむ、一人づつと言ったわらわにも責任はある。お前たちに怒りはせぬ、今夜はそなたが添い寝してくれるのか?」
「はい、あまり童話は知らなですが、頼みますです」
ウンディーネ、思っていたより懐が広いな、もし私がレイノルドと一緒に・・・想像したくない、多分結末は私が凶器を持って血だらけになるぐらいに怒り狂うだろうな。
「良いぞ、そこはまぁ仕方がないというものだ。ニヒルとやらよ、わらわの城を案内してやる。ついてこれるか?」
「私は奴と違って泳げるので、大丈夫です。まぁ、流石に速く泳げるかは置いておいてですが」
「良いぞ、ならば来るのだ」
今度は私が湖に飛び込んだ。本当だ、確かに苦しくならない。息が出来ると言うより、息をする必要性を感じないと言ったふうだ。不思議な感覚だ。
そして湖の中、色んな魚が泳いでいるな。そしてその下の方に岩を削ったような城がある。
「あそこがわらわの城だ」
泳ぐのはやはり早いな、よく見るとウンディーネの手足には少しヒレのようなものがあるのか。
「ここに住んでるですか?一人で?」
「そうだ。召使いはおるが家族と言うものは生まれつき記憶におらぬ。ただ昔からわらわは水の精とあがめられ、わらわはそれに答えてきたのだ」
「もう一つ質問よろしいです?召使いと言うのは?」
「そこにいるであろう?その魚たちだ」
これか・・・にしても、見たことが無い魚だ。隊長は数メートルもある。海豚・・・ではないな。向こうの世界では発見されていない新種と言った所か。泳ぎ方にも知能の高さを感じる。
魚は私に向かって挨拶をするようなしぐさをして去っていった。
「さぁ、着いたぞ。ここが我が城だ」
かなり広い、それが第一印象だ。そして水中で不慣れなせいで見て回るのに一日かかった。疲れる・・・
「そしてここがわらわの寝室だ」
自慢げに見せた部屋だが、割と質素。にしてもこのベッド、どういった材質で出来ているんだ?水中なのに、ふかふかとした触感がする。そして触り心地もサラッとしていて気持ちがいい。
「ニヒルよ、何か寝る前にお話を聞かせよ」
「そうですね・・・そうだ、私の国に古くから伝わる童話を話そう。むかーしむかしある所におじいさんとおばあさんがいました、おじいさんは山に草刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上の方から大きな桃がどんぶらこ・・・・」
桃太郎だ、せいぜい私が話せるのはその程度だ。ウンディーネもそれなりに興味を示してくれたおかげで、割とすぐに寝付いてくれた。そして寝た後私の腕にそっと抱きついてきた。まるで、何かにすがりたいと言っているみたいだ。
本当はきっと、ウンディーネは両親を求めているんだ。この子にはただ純粋な欲望があるだけだ、それはきっと愛情だろう。その愛情への欲求が、あのわがままに繋がっている。可愛いものだ、私のいたあの世界に比べたら。
そうだ、ウンディーネには何が正しくて、何が間違っているのかをしっかりと見定める事が出来ている。そしてそれを認める、自分の意志ををしっかりと持っているんだ。謝る覚悟、そこまで大きな覚悟では無いのに、なぜ我々は無駄な誇りとかが邪魔をするのだろうか。
そしてその誇りは嘘をつき、言葉だけが暴走しだす・・・
「ん・・・どうしたのだ?怖い顔をして・・・」
「あ、済まないです。起こしてしまったですね。大丈夫です、今は私もゆっくりと寝るとするですよ」
今は寝よう、まずはこの世界を変える事を考えるんだ。沙羅曼蛇もきっと話せば分かる。あいつもなんだかんだ話を聞かない奴ではないからな。
・
・
翌日。私は地上に帰って来た。
「ニヒルちゃ~ん!!今日こそ俺と一緒に寝よ~ぜ~!!」
「阿呆、貴様と寝るくらいなら野宿を選ぶわ!」
「そうだな、貴様はやっぱ駄目だ。貴様今夜は野宿せよ。宿をニヒルに渡すのだ!」
「あれ・・・なんか俺の時より、めっちゃ懐いてない?ウンディーネちゃん・・・」
「貴様がウンディーネに変な事を言ったのが原因だろうが、お前は外、私は中です。まぁ、せいぜい廊下ですね」
「ニヒル優しいな!わらわなら出来る限り近づきたくないと思うのに」
まぁ、状況次第では外に放り投げるがな。
「今夜はわたくしが添い寝すればいいのか?」
「そうだシンラ。お前にも早速わらわの城を案内してやる。ついて来るのだ」
森羅は湖の中に入っていった。まぁこいつは大丈夫だろう。ぎこちないが、そこまで子供の相手が下手ではなかったからな。
「さてと、私はここの村を見て回るとするですか。あ、レイノルドはついて来なくていいですからね。宿の留守番頼んだですよ」
私は村を見て回った。ふむ、まだ物々交換で通貨と言うものはここにはまだないんだな。ん?いい匂い、これはウナギだ。こういうのもいるんだな・・・と言うか、蒲焼きとかあるんだな。
「お、姉ちゃん、確かウンディーネ様のお客だったな!これ食って行きなせぇ!」
私はウナギを貰った。うむ、香ばしく脂も良い感じで乗っていて、身もふわふわだ。これはいいウナギだ。それに・・・米文化までもあるのか、雰囲気は中世と言うのに。
私は思いの外村を堪能して帰って来た。意外といい人が多いな、客人はあまり歓迎されないと思っていたがここの住民はそう言うのはあまり意識しないみたいだ。やれやれ・・・つくづく向こうの世界が馬鹿らしく感じる。
私は宿に帰って、次の日になった。因みにレイノルドは大人しく廊下で寝てもらった。
・
・
次の日
「・・・」
「な、何があったですか・・・」
「俺からも言うぜ・・・一体何があったんだ?」
そこには森羅の肩に満面の笑みで抱きついているウンディーネの姿があった。
「わたくしは・・・普通に、童話を教えてあげただけだが・・・それが気に入ったらしく・・・」
「はぁ~・・・わらわはあなたに一生ついて行きます」
これはもはや懐いているというより、惚れてる感じにまでなってるじゃないか・・・
「森羅・・・一体何の話をしたですか?」
「グリム童話の白雪姫と言う作品だが・・・」
グリム童話を知らん。と言うかなんだ?そのふわっとした名前は・・・
「シンラ!沙羅曼蛇の国に行くには数日はかかるであろう!?その間もお主に添い寝係を命ずる!!そして何か他の物語も聞かせるのだ!!」
「うむ・・・そうだな、赤ずきんと言う物語もあるな・・・」
うん・・・凄く女の子向けと言うか、名前で負けた気がするのは気のせいか?桃太郎だってかっこいいんだが・・・白雪姫・・・作品名だけで心を鷲掴みにされるな。
「良いぞ!良いぞ!!では早速出発だ!!」
こうして私はウンディーネと共に、沙羅曼蛇の国を再び目指した。
・
・
・
創暦 ???年
ウンディーネちゃん、結構ロマンチストでね~、元々森羅の事が気になってたみたいだけど、その彼が白雪姫のお話をするもんだから、ウンディーネちゃんのハートが射貫かれちゃったのよね。
因みにあたしが好きな物語は・・・ホホホ、これはする必要の無い話だったわね。
次の話は、沙羅曼蛇の国に戻るニヒル一行。そしてウンディーネと沙羅曼蛇は対談を果たすんだけど・・・そこは次のお楽しみに・・・




