創暦前 百年 沙羅曼蛇の国・水の国
創暦 ???年
今日あたしが頂くのは、今日話すお話にちなんで、岐阜県から『水まんじゅう』でも頂こうかしらね。冷えた水の中から取り出して、このお猪口に入ってるプルンプルンのこの見た目、正に夏を感じる逸品だよねぇ。
という訳で今日は異世界の物語その二、ニヒルちんたちは沙羅曼蛇と謁見を果たす。けど沙羅曼蛇にはある思惑があったの。
そしてその思惑を聞いたニヒルは沙羅曼蛇にある提案をする・・・
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創暦前 百年
「さてと、本題に入ろうかな。この先に沙羅曼蛇がいる、彼にはあまり失礼の無いようにね。結構気難しい所があるんだ、彼もずっと君たちが揃うのを待ってる。恐らく彼は僕らに何らかの指示を出すだろう。そして僕らはそれに答える、僕らの力で、まずはこの世界に平和をもたらそう・・・」
永零は私たちに真剣な眼差しを向ける。永零の考えている事は大体私と同じか。沙羅曼蛇はあくまでも利害の一致で互いに利用している間柄、双方それは承知している。
沙羅曼蛇は私たちにこの世界の情報、そして研究資料を与えた、ならば私たちがすべきことは、その実験で結果を与える事。そして沙羅曼蛇の望む実験結果と言うのは恐らくその力で他国を支配する事にある。
「やるですよ、それが私たちのすべき新たな第一歩です」
「みんないい覚悟の目をしてる、行くよ」
永零は沙羅曼蛇のいる部屋のドアを開けた。
「おぉ我が友永零よ、よく来た・・・その者らがそなたの探しし者か?」
あれが沙羅曼蛇・・・デカイ、とんでもなくデカイと感じていたウーネアよりも更に一回り大きい。そしてあの翼と長い爪の手と足と尾、そして全身が鱗のような皮膚・・・まるで西洋の話に聞くドラゴンとか言う奴だ。
「はい、長い年月の末、ようやく見つけ出しました。この者たちと僕が必ず、あなたに永遠の平和と安寧を、そして発展を約束いたします」
「ふっ・・・平和と安寧か、正直な所、儂はそう言ったものはまだ必要ないと考える。必要なのは今は力だ。我が国はそなたと儂の圧倒的な力で他国を支配すべきだ。その先にようやく平和と安寧が待っていると言うものよ・・・」
やれやれ・・・大体理解出来た、永零の言っていたこの世界の問題。こいつか・・・こいつの目からは激しい支配欲が見える。あの目は戦争の時何度も見た。力で何もかもねじ伏せ、弱き者から奪い取ろうとする奴の目だ。
しかし今はこいつに従わざるを得ないと言う事か、さっきまで大暴れしていた飯綱が怖がって私の後ろに隠れている。他のみんなもそうだ。あの男、沙羅曼蛇はきっと私たちよりも強い。それを理解している・・・レイノルドだけは例外だ、ボケ~っとしてやがる。
けどまぁ、何も言わないだけましか。下手な事言おうものなら私が口を封じてやる。
「そうですね、まず僕たちはそこからだ。沙羅曼蛇、僕らは技術でなく今度は更に力も手に入れた・・・僕とあなたが出会って百年、今こそ僕らの力を世界に向ける時では?」
「クックック・・・永零、回りくどく言わずともよい。他の国の事を見たいのだろう?これまでは他国にお主の存在を明かす事にデメリットを感じていた故、そなたにはこの国のみで研究をしてもらっていた。しかし、今我が国はそなたのおかげで圧倒的な軍事力を得た。最早怖いもの等ない・・・永零、そして他の者どもに命ずる。これより長年の宿敵水の国に宣戦布告し、水の国を手に入れよ。兵はそなたらが自由に使うがよい。だが気を付けるのだ、水の国の精鋭には儂と同じように魔法を駆使する特殊部隊がおる。さぁ行くのだ、我が忠実なる友よ!」
「一つ!!!お言葉よろしいですか!!?」
私は沙羅曼蛇に向かって叫んだ。ウーネアたちが目を丸くして私を見ている。
「お、お姉さま・・・永零の言っていた事」
「勿論覚えてるですよ。しかし、これだけは譲れないです。そしてこれは私自身の問題」
「確かそなたは、ニヒル アダムスとか言ったな。申してみよ」
「ふぅ・・・私は正直に申し上げますと宣戦布告に反対します」
「い!?お姉さま!?」
「んお?」
「・・・」
「ふっ・・・」
みんなが色んな反応を示した。
「ほう、何故だ?」
「戦争には意味がない、私が戦争で学んだ唯一の答えがそれです。沙羅曼蛇、あなたは水の国を手に入れたい。そう言ったですね?」
「そうだ、あの国は長年の宿敵。今こそその因縁に決着を付ける」
「承知です。沙羅曼蛇と水の国にはただならぬ因縁があった。と言う事ですね・・・私がすべき事は、和平交渉をすべきと考えるです。相手に私たちの意志を伝え、向こうの意志を聞く。その上で交渉する。言葉無き争いは争いに非ず、私が必ず水の国を言葉で屈服させて見せるです。無駄に血を流させるのはいくらあなたの命令でも従えませんです」
永零は機嫌を損ねるなと言ったが、こればかりは譲れない。空気を読んで何も言えないのだけは勘弁だ。私は必ず言い切る。例えそれがどんな結果になっても後悔はしたくないから。
「ニヒルよ、つまり貴様は血を一滴も流すことなく水の国を手に入れられると申すか?」
「そうです。もし失敗すればどうぞ煮るなり焼くなりお好きに。しかし、私は必ず和平交渉を成功させて見せるです。出来ないと言う事は、私には世界を変える覚悟も器も無いと言う事ですから。試させてください。私の怒りは、本当に世界を変える程の覚悟を持っているのかを」
平和を願い闘う・・・永零はここに集った者たちは皆その感情を持っているからこそここにいると言った。私はどうだ?本当はただ怒り任せにここに来ただけなのではないか?
確かめなければならない。あの戦争で感じたあの屈辱を、そして決めた覚悟が本当に私にあるのかどうかを・・・世界を変えるのは今までのルールでは駄目だ。そこを変えなくてはいけない、血を流さない言葉のみの戦争・・・私はそれに勝つ!!
「・・・非常に面白い。お前は勝利の先に支配すると言うこの世界の理に異議を申すか。良いだろう、血の無き戦争、お前に任せよう。ニヒル アダムス・・・しかし、そこに協力するからには保険が必用だ。仮に失敗した場合水の国に全ての手札を見せてはならん。そうだな・・・その狐と黒髪の堀深い奴、お主ら三人で行くのだ」
「ふぇ!?」
「んお!?」
何でよりによってレイノルドを指名するかな・・・せめてあの森羅とか言う奴の方が話が分かりやすそうなんだが・・・
「良いでしょう・・・レイノルド、ついて来るですよね?確かお前、どこまでもついて行くとかぬかしていたですよね?命の保証は全くしませんがついて来るですか?いいんですよ?怖いですものね、別に私一人でも構いませんし」
「ぐ・・・ぬぬぬ、なっめんなよ~!俺だってなぁ!やるときゃやるんだ!!こっわいけどさぁ!!女の子一人危険な目に合わせる訳には行かないぜ!!」
レイノルドは勝手に盛り上がったな。
「そうか分かったです。じゃあ私は飯綱を守る事に専念するので、道中先に行っててください。飯綱、私から離れるなですよ」
「ん・・・」
私は飯綱を抱っこした・・・こうしてみると、狐って・・・可愛いものだな。飯綱自身も私を認めたのかひょこっと足を私に乗せた。
「お~い俺の覚悟は~?」
「あ~良いんじゃないんですか?言ったからにはちゃんと守るですよ?もし私を盾にするとか敵前逃亡する様な素振りをみせたら・・・必ず殺す」
「いっ゛!?」
「嫌だったら常に私の、そうですね・・・数メートル前に立って盾の役割をするですよ、レイノルド ビル ルーカス」
「しれっと近づくなって言ってない?それ・・・でも、なんだか君のそう言うところが良い」
やれやれ・・・
「話は済んだな・・・出立の時刻は明日の朝、本日中に支度を済ませておくのだ」
沙羅曼蛇との対談が終わり、明日の朝、私と飯綱、そしてこのレイノルドが水の国に向かう事になった。
「お姉さま、良かったの?別に普通に指示を聞いて後は私たちのやりたいようにやれば良かったんじゃ」
「私は、そう言うのが許せないタチですから・・・それに、これは私自身への試練。永零、良いですね。私は、私自身を見極めたい」
「分かった。でも、くれぐれも無理しないでね。僕だって他の国の事はほとんど知らないんだ。かなり危険かも知れないけど、僕は君を信じよう。あ、そうだ。これを君に」
永零は私に何かを渡した・・・
「これは・・・日本軍の軍刀」
「僕がかつて軍にいた時に持っていたものだよ。拵はもう百年以上前のままだけど刀身は打ち直してある。抜いてみてみれば分かるよ」
私は少しだけ刀を抜いた、鏡のように反射する刀身にこの綺麗な刃紋の形・・・かなりの業物だ。
「これは一体・・・」
「あくまでもこの国と、そして異世界の国代表として行くんだ。だからちゃんとした格好じゃないとダメじゃないかなと思って。それと、道中の時の為の護身用に。でも、君はそれを対談の時には絶対に抜いてはいけない。それが抜かれる時は交渉が失敗した時だからね」
「胸に刻んでおこう」
私は刀を腰に差した。永零の言う通り、私はこの刀を抜いてはいけない。何があろうとも、私は言葉で勝って見せる。言葉に力がある事を証明する・・・
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次の日
「よ~し!!楽しい楽しいデートの時間だ~!!ニッヒルちゃ~ん!」
「お前、いつから待ってたですか?」
一応言っておこう、出立時間は朝七時。私は基本三十分前行動を基本にしている故に今は六時半、レイノルドは一体いつからいるんだ?
「そりゃも~昨日から待ってたに決まってんじゃ~ん。楽しみ過ぎて寝てられないよ~」
「あっそ。それより静かにしてもらえるですか?飯綱がまだ寝てるです」
「zzzzz」
飯綱は私の腕の中で丸くなって寝ている。昨日暴れたから疲れているのだろう。
「はいはい。ってか真面目な話だと怖くて眠れなかったんだよ。ニヒルちゃんは昨日寝れた?俺もうわっけ分かんなくてさ、何でみんな普通に順応してんだ?って、無理やり合わせて乗り切ったけど、異世界だとか魔法だとか、強引について行くしかなくってよ。昨日はごめんなニヒルちゃん、俺あんたの言う通りマンモーニだから、正直誰でも良かったんだ。俺の事見捨てないでくれる人が欲しかったんだよ・・・」
やれやれ・・・気苦労が絶えないな。私とてついて行くのが精いっぱいなんだ。でも、こいつはただ空気読めない奴では無かったんだな。会えて空気を読まなかったと言う事か。
「だから私たちに声かけたですか」
「そ、日本には珍しい金髪がいたから思わずな・・・構って欲しかっただけだけど、ついて行ったらこの状況よ。ニヒルちゃんはどうしてここの世界に来ようって思ったの?」
「私はただ変えたいだけです。戦争は終わり世界に平和は訪れた、世間はそう言うです。日本も敗戦国でありながら驚異的な速度で復興を遂げていると言っているですが、結局それもただ世論にアピールする為にアメリカがやっている事に過ぎないです。世界の根本は幾度の戦争を以てしても何も変わらない、自己満足の勝者と、徹底的な敗者。世界にあるのはその二つのみです。どこも、誰も、心に思っている事を口にせず、ただ一方的に決めつけ物理力や権力に訴える。人間には言葉と言うものがあると言うのに、誰もその力を理解せず使おうとしない。だから私はここに来た」
私は別にこんな事レイノルドに話すつもりはなかったが、何となく話してしまった。
「んお・・・」
そんな話をしていたら飯綱は目を覚ました。
「あ、起きちゃったですか」
「うん」
「そろそろ出発です、行く準備、出来てるですか?」
「おいらはもう大丈夫さね、ふぁ~・・・」
飯綱は大きくあくびをしたら私の方にぴょんと乗った。そんなに重くないな、これでも十キロ近くはあると思っていたんだが・・・
「やぁ、もうみんな来てたんだね」
「お姉さま、私が寝てる間にもう出かけちゃうんだもの、起こしてよね。おかげで寝ぐせが凄い事になっちゃったんだから」
そして永零やウーネアもやって来て、他の者たちもやって来た。そして見物人に加えそして沙羅曼蛇もここへと到着した。昨日と変わらず玉座をこの城壁前の門まで持って来る始末だ。
「準備は出来ておろうな・・・」
「十年前から既に」
「ならば行くのだ、そして血を流さない勝利とやらを、この儂に捧げて見せるのだ・・・開門せよ!!これより水の国との会談を行う為に三人の勇者が向かう!!そして無血なる完全勝利を!!我が手に!!」
やれやれ、沙羅曼蛇は割と士気向上させるような言葉を使うのが上手いらしい。ここの住民はわりと沙羅曼蛇を恐れているが今はみんな手を大きく上げて私たちを見送っている。奴とて百年以上ただ王を務めた訳ではないと言う事か。この歓声がその証拠だ。
私は用意された馬にまたがり、城門を出た。一面に広がる草原。そして奥に見えるのは巨大な山脈、私が出た門はケンソウ口と呼ばれるあの山に向かう為の門らしい。
そして目的地はそっちではなく北、山脈に沿って北へと向かう。その先が水の国らしい。そこで私は交渉でこの戦争に勝つ。
「なぁニヒルちゃん!!」
「何です!?舌噛みますですよ!?」
「大丈夫!!俺!農家生まれで馬の扱いはちっちゃい頃からやってんだ!!ニヒルちゃんも馬の扱い大分うまいけどさ!!どこで習ったの!?」
「戦時中!!人助けしていた時に世話になった牧場の主からです!!」
木曽路を行く道中にあった牧場で数週間世話になった、私は妙に馬の扱いが上手く、牧場主も驚いていた。隆二や善之助はてんで駄目だったがな。何となく、馬の気持ちを察せれた。
今のこの馬も、私と気が合いそうだから選んだんだ。にしても逆に驚いたのはレイノルドの方も大分出来ると言うか、動きが染みついた動きだ。なんかちょっぴり腹が立った・・・
「へぇ!!凄いな!数週間でそこまで操れるのってそうはいないんだぜ!?」
「お褒めの言葉どうもです!!」
私たちはそんな事を言い合いながら水の国へと向かった。
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創暦 ???年
こうしてニヒル アダムス、レイノルド ビル ルーカス、そして狐の飯綱の三人?は、水の国へと向かいました。
あ、そうそう。ニヒルちんの送り出しの時、ディエゴはあそこでもいつものように新聞を漁ってたんだよ。それで安定に独学で日本語を勉強してるみたい。んでもって、その知識をリリアにも教えてるんだってさ。妹思いだねぇ・・・
さて、水の国へと向かう三人だけど、そこで思わぬ事件が発生する。そこへある人物がやって来るんだ。じゃあ、続きはまた今度。ニヒル アダムスの珍道中を教えてあげる。




