序章 1941年~1943年
私の書いている「平和を願いし者たちよ、この世界で闘う者たちよ!」の世界における全ての始まりの物語になります。ので、この作品単体で読むと良くわからないところが多いと思われます。
物語はある場所に一人の子がカラスちゃんと呼ばれる人物に会いに来ます。そしてカラスちゃんはその子に教えます。この世界の本当にあった裏の歴史を・・・そしてカラスちゃんは語り始めます。すべての始まりは、第二次世界大戦前に・・・
創暦 ???年
ふんふふ~ん・・・っと。あ、これだ。
あたしは一冊の本を手に取った。そしてその本を机の上に置く、読むにはこの顔に付けてるこのカラスのマスクが邪魔だなぁ。取っちゃえ、付けてたって意味ないし。
マスクを取ったあたしはオッドアイが特徴の誰もが振り向く超絶美少女。ってのは置いておいて・・・教えて欲しい?この世界の事、君たちがまだ見てない世界の事・・・いいよ、教えてあげる。魚肉ソーセージとワンカップでも飲みながら聞いてって。この世界の真実と謎を。
これは、平和を愛した人たちの物語。
そして、平和に支配される物語。
さぁ、一緒に見よ?とっても楽しくて美しくて、儚くて・・・そして残酷な物語。先の世界にはもうない無意味な物語を・・・
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1941年 大日本帝国 とある港
「おい!!早く乗るんだ!!」
ここで船に乗ろうとしているのはわたしの父でフランス人、この国には外交目的で来ていた。
しかし今、大東亜戦争と呼ばれる今のわたしには訳の分からない事が起きようとしてるらしい。
私たち家族は、この国を出ざるを得なくっていた。恐らく長い船旅になるだろう。
「あなた!!」
その父を呼び止めたのは私の母だ。母も同じく父と同じで外交目的でこの国にいた。両親はこの国をいつも素晴らしいと言っていた。技術力、国民性、どこを取っても大陸にはないなにか凄いものを感じると、語彙力の欠片も無い事を口癖のように言っていた。
かくいうわたしも、この国は嫌いじゃない。わたしの髪は金色だ。それでわたしを気味悪がるやつもいるが、話せない訳じゃない、友達もそれなりにいた。だからこそ理解できなかった。
戦争なんて言うどうでもいい事がわたしを巻き込んだ。その理由は幼いわたしには本当にどうでもいい事だ。大東亜共栄圏だのなんだの言ってるけど、ほんとどうでもいい。だけどわたしたち家族は敵国となるから、この国を出なければいけないんだってさ。
「びぃえええええええ!!!」
そして母の中で大声で泣いているのがウーネア、わたしの妹だ。まだ生まれて間もなく、言葉も話せたもんじゃない。わたしはこの子が生まれてからウーネアを少しだけ妬んだ。両親はウーネアの面倒を見るばかりでわたしを忘れてしまったかのように相手をしなくなった。
まぁ今思えば大人げないな。まだ歩く事すら出来ない子供を無視してわたしを見て欲しいだなんて、むしが良すぎる。
だからわたしは間違えたんだ・・・
「どうしたんだ!?」
「ニヒルが!!ニヒルがいないのよ!!」
わたしたち家族が乗る船。そこにわたしはいなかった。理由はただ単純でバカな事だ。ここにいる友人に最後の挨拶をしたかった。だからわたしは両親の目をすり抜けたんだ。
ただそれをやった結果、わたしだけが船に乗り損ねた。わたしは選択を間違えたんだ。
「ニヒル!!必ず!!必ず迎えに来るから!!お願い!!お願いだから!!生きてて!!」
わたしは港から海に飛び込まんとする両親を眺めていた。それを船員が必死に止めている。
悪いけど、わたしはこの時こう感じた。間違えて良かったんだと。わたしはここが好きだった、離れたくなかった。
「おい、おい!!ニヒル!?まさか、乗り遅れたのか・・・」
「だ、だったらよ父ちゃん!!こいつ、俺んちにいさせた方がいいんじゃねぇか!?」
わたしがしばらく港でぼーっとしていたらわたしの友達だった子の両親がわたしを見つけてくれた。港近くに住む漁師の一家だ。道山家、そしてそこの子は野球が好きな正にガキ大将の道山 隆二。正直頭は単純バカだが、面倒見はいい。
わたしはそこでしばらく世話になる事になった。
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数年後。わたしたち家族は疎開する事になった。父は船を手放す事を嫌がったが、母の一声に最後は折れた。
いい感じの田舎だ。ここには他の友達も来ると言っていた。恵まれているな・・・
「お、おいお前!!その髪色・・・この鬼畜米兵め!この俺が成敗してやる!!」
ただ、嫌になるのはこれだ・・・こいつはここの子供だろうか。やれやれこのわたしを・・・
「あ、やっべ。おい、今すぐ謝れって!!」
隆二は止めようとしてくれたが、止めなくて結構だ。大丈夫、分からせればいいんだから・・・
「はぁ!?ふんごぉ!?」
「おい貴様・・・このわたしがあのクソ汚い米兵だと言ったですか?」
「あ、当たり前だろ・・・そんな面しやがって・・・薄汚いのは・・・てめぇだ!!」
へぇ、わたしは結構体力に自信があって、結構な力で脅したんだけどな。流石は日本男児、こういう頑固な部分も割と気に入ってる。けどな、どっちが真の大日本帝国人か・・・思い知れ。
「ほぉ・・・上等じゃ貴様!!わたしと相撲で勝負するですかコラ!!」
「は・・・良いだろうよ!!受けて立ってやるよ!!この亜米利加野郎!!」
「あちゃ~・・・ま~た始めちゃったよ。ニヒル~。行司やろうか?」
隆二が行司をやる。因みにこの数年で、力関係は覆っていた。今やわたしがガキ大将だ。と言うのもまぁ、わたしが結構喧嘩っ早い性格のせいなのだが。
だが、わたしを分からせられる一番手っ取り早いのは相撲だ。相撲はとはすばらしい競技だ。己の魂と魂のぶつかり合い、土俵際の駆け引き。そして己を極める為に作り上げたあの肉体。どれをとっても相撲はこの世界のどの競技よりもすっばらっしいい!!
見せてやる。この私の・・・大和魂を!!
「はっけよーい・・・のこったぁ!!」
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結果はわたしの圧勝だ。わたしは服を整え、この男は大の字で横になってる。
「お、俺が・・・相撲で負けるなんて・・・」
「だから言ったです。分かったですか?それに一つ・・・わたしは亜米利加じゃない、仏蘭西だ。まぁそんなものどうでもいいですが、どうにも亜米利加と同じにされるのがどうにも腹立たしぃぃぃぃ!!!」
「あのー、落ち着いて?」
どうにも私は金髪がすなわちアメリカ人と言うのがむかっ腹が立ってしょうがない。ラジオで聞く鬼畜の所業をする輩と同じに思われたくはない。わたしは・・・日本人だからな。
「おっと・・・済まない、ところで、わたしのことは理解できたですか?」
「あ、あぁ・・・さっきは悪かった。あの相撲、凄かったな。特に土俵際まで追い込んだと思ったのに一気に押し返された!あれ、どうやるんだ!?」
「それは秘密です。わたしの必殺技ですから、それよりもやはり相撲は素晴らしいと思いませんか?勝負を通して分かり合える。はぁ、わたしも男の日本男児に生まれたかったですよ。そしていつか横綱になってみんなを盛り上げるのです!!」
己の意志を貫くのならば勝負で勝って示せ、そして相手に分からせろ。これはわたしの持論だ。
「はぁ~、また相撲語り始めたよ。とりあえず、ニヒルの奴は日本人である事に相当誇りを持ってる。そこは分かってやってくれ。あいつは決して鬼畜ではねぇよ」
「みたいだな。見事だった・・・俺は狭山だ。狭山 善之助」
「っ!?しまったぁ!!!」
わたしは唐突に思い出してしまった。
「お、おい!?どうした!?」
「この・・・わたしとしたことが・・・なんたること、日本人たるもの先に名乗るのが礼儀なのに。それを飛ばしてしまったぁぁぁぁっ!!ふんがぁぁぁぁぁぁ!!」
わたしは地面に頭を叩きつけた。情けない、このような失態をしてしまうとは・・・
「お、ぉ大落ち着け!!な!?と言うか、名前・・・何て言うんだ!?」
「あぁ!!わたしの名は道山一家末子にして、これよりここの子供たちの大将になる者!!ニヒル アダムスだ!!」
そうだった。わたしの名、まだ言っていなかった。わたしの名はニヒル アダムス。この名にこだわりがある訳じゃないが、そうやって生まれて育ってきたから今更変えるのが面倒なだけだ。
ただ、これもまた間違ってたんだろうな・・・この時名乗ったわたしの名、それがこの先何百年と続く勝負の引き金になるとは、微塵もこの時は考えたことも無かった。
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1943年 広島
「おとうさん!!」
僕の娘、琴音が僕の名を呼んだ。大分喋れるようになってきたんだ・・・嬉しいな。
僕の名は指宿 永零、大日本帝国陸軍に所属している。髪の色は生まれつき白く、目も赤い。『アルビノ』と言うものらしい。
僕はこの広島に家族と共に疎開し、ここで敵国の情報を探る仕事を主にしている。噂では思いの外戦闘地域で苦戦している所も多いらしい。それもそのはずだ、僕は戦争が始まる前にはアメリカにいた事がある。そこで少しだけアメリカの戦力を見た。戦力差があるのは重々承知だ。
しかし、僕はその程度でこの国が負けるとは思えない。アメリカ軍は数はあるがそれを完全に生かし切れていない。かなり大雑把だ、だからそこはとんでもない弱点になる。隙を突き、少数で迅速に、そして相手の力を利用する事が出来れば、この戦争は容易に勝利できる。
この戦争は絶対に勝たなければいけない。敵はアメリカだけじゃない、この国を奴隷にしようと企む全ての国に。
日本と言う国は、世界から見たその位置関係は大陸に近い島国で、資源もありその加工技術も持っている。かつて誰かが言った黄金の国は伊達に嘘ではないんだ。この国を取られれば、そこはより大きな力を得てこの国の全てを奪われる。やがて世界の支配者になるだろう・・・
お前たちは何故この戦争が始まったのか理解しているのか?全て自分が蒔いた種なんだ。だから僕たちも種を蒔いた。この国を、家族を・・・守る為に。奪わせはしない、僕が必ずこの国を勝利に導き・・・平和を創り上げるんだ。
「琴音、お父さん。そろそろ行くよ、お母さんと一緒にお留守番、頼んだよ?」
「うん!!」
「永零さん」
羽佐間が僕を呼んだ、僕の女房だ。しっかり者で、近所の評判も良い、僕の自慢の嫁だ。
「どうかした?」
「お弁当、忘れていますよ」
「あ、ごめん。ありがとう、じゃあ行ってくるよ。一刻も早くこの戦争を終わらせにね。あ、そうだここだけの話、もう少しでアメリカ軍の使う暗号の解読が出来るんだ。出来たらもう勝ったも同然だ、作戦を先読みして攻撃できる。これ以上無駄に死人を出す必要は無い。鬼畜なんてと言ってるけどあの人たちにも言葉はあり、日本人でも学べば理解できる。話し合う事は出来るんだ・・・そして、どちらが正しいか・・・証明して見せる」
「はい、わたくしもそう願っております。ですが・・・わがままを言うのであれば、もうこれ以上空に飛ぶあの音は、聞きたくありません」
僕と羽佐間は空を見上げた。あれは僕らの国の戦闘機、零戦・・・珍しいな。ここで見るなんて。
「一刻も早く、あれが飛ぶ必要のない世界を創って見せるよ。だから今は我慢してね、じゃぁ行ってきます」
僕は羽佐間の額に口付けした。
「おう、永零来たか。どうだ?進捗状況は?」
ここは研究所、僕はここで活動している。
「昨晩のうちに自宅で調べておきましたよ所長。彼らの使う暗号は読み解きました」
「そうか!!やはりお前は素晴らしいな!一晩で見つけるとは!!ここの部下と来たら役に立たん。うだうだ言って一向に進まんのだ。最前線にでも送り込もうか?全く・・・」
所長は少し苛立っていたようだ。僕が徹夜しておいた甲斐があったな、所長は厳しいから、すぐに鞭をどこからともなく出してくるんだ。
自慢じゃないけど、僕がその都度成果を出すから何とかなってる感じだ。だから僕は特別に自宅に帰る許可を得ている。
「それよりも、所長・・・一つだけ。アメリカ軍の動向で気になる事があるのです」
「何だ?言ってみろ」
「アトミックボムを知っていますか?」
「あとみっく?米語か?」
「はい、訳せば原子爆弾。簡単に言えばウランやプルトニウムと呼ばれる元素に中性子をぶつけてその原子核を分裂させる。その分裂の連鎖で途轍もない威力を発揮する爆弾です、元々はドイツが開発を進めていた・・・」
「・・・大体わかった。で?その凄い爆弾がどうしたんだ?」
これは分かってない、説明が難しすぎたのかな。でもまぁいい、そこは重要じゃない。
「僕が以前、アメリカにいた時には仕組みは聞いていました。しかし、まだ理論上で完成はしていなかった。この爆弾の威力はこれまでの常識を遥かに超える。その熱は人体を軽く溶かし、その衝撃波だけで街が簡単に消し飛ぶ。それが完成間近に迫っていると言う事です」
「・・・それがどうした?まさか貴様、わが国がその程度の爆弾に勝てないとでもいうつもりか!?」
「正直に申し上げますと、はい。もしこれが完成させられた場合。一発でも落とされれば・・・この戦争に我が国は負ける」
「っ!!貴様!!この大日本帝国を愚弄するか!?」
所長は頭が固い、口で言っても大体は分かってはくれない。だけどここは事実を言おう。
「いえ、僕が言いたいのはそんな事ではありません。確かに先ほど言ったことは事実です。だから僕が考えたのは敵国に原子爆弾を使わせないと言う事です。現状、完成したとしてもどうやってここまで持って来るのか、保管はどうするのか。そこに行き付くはずです。隙を突かれて自国内で爆破されでもしたら、当のアメリカ自体が窮地に立つ。要するに揺動です。アメリカに原子爆弾を使わせないためには、まず第一アメリカはこの国はまだ原子爆弾を知らないと言う事が大前提にあると言う事です。しかし僕はそれを知り、既に完成間近まで来ている事を知っている。そこが重要です。アメリカに嘘の暗号を送る、そしてアメリカは知る。自国内に工作員がいると言う事に、それだけでアメリカは原子爆弾を使えなくなる。原子爆弾とはそれ程の物なんですよ」
「つまり・・・どういう事だ?」
ここも僕が説明するの?
「ここから言うのは、僕の考えたアメリカ侵攻の手順です。昨年、わが国はアメリカ本土襲撃に成功しました。その一件は、アメリカ人の恐怖を煽った。その恐怖からルーズベルトは我らを迫害し、我らに似た人種を徹底的に排除しました。その恐怖感情を利用します、あの本土進攻では爆撃をしたものの、上陸は果たしていません。そこに理由を与えます。暗号でやり取りし、本土に工作員を紛れ込ませたと言う事にします。そして彼らは日本人を知らない、アメリカ人にとって日本人は一種の妖怪に見えているみたいですからね、さらに暗号でその工作員は米軍兵士を洗脳したという情報を出します。そしてその兵士は原子爆弾の開発に携わっていると。こうなれば混乱は間違いない、アメリカは原子爆弾の開発を一時中断せざるを得なくなる。そこに必ず隙は生まれる、そこで一気に侵攻をすべきだと僕は考えます」
「成程・・・お前の意見は分かったが、そんな作戦を行う決定権は俺には無い。しかもこんなへんぴな所にいる奴の発案だ。しかし、掛け合ってみる価値はあるかもしれんな。東京に伝達するのは俺がやろう、電話は使わない。直接持っていく、その方が良さそうだ」
「はい、電話は信用できません。任せてもいいでしょうか所長?」
「疑り深いな・・・必ず届けるさ。上の連中も、お前の功績は知ってるはずだ。言ってなかったが昨年の本土襲撃、実はあれ、お前の一声を採用したから成功したって言われているんだ。今度も上手く行く、なんならそれで一気に戦争は終わると俺は感じた。全ては平和の為に・・・行ってくる。ここはお前に任せるぞ、所長代理」
「任せて下さい」
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創暦 ???年
どうだった?時代は第二次世界大戦まっしぐら、一人の少女と一人の男のお話、全く違うように思えるでしょ?
そうだよ、この時はこの二人・・・なぁんにも関係ないもの。でもね、二人の物語の起点はここなのは同じ。
やがて二人の行き付く、運命の歯車はどういう訳か絡み合っていくの。
おっと・・・それはまだ言うべき事じゃないね。
次はこれだね・・・終戦の年、1945年。ここからが本当のスタートだよ。平和を願いし者たち・・・そのお話をしてあげるね。
あ・・・そうそう、ニヒルちんと同じ事するとこだったよぉ。まだ自己紹介、してなかったね。あたしはそうだねぇ・・・やっぱカラスちゃんが合ってるかなぁ?うん、あたしはカラスちゃん。これからよろしくね。
これから色んな事を教えてあげるから、また来てよ。今度はコーヒーでも用意して待ってるからさ、あ、そうだ、コーヒーって砂糖どれだけ入れる?やっぱ・・・アメリカちっくに大量にいっとく?