無題
流れ落ちる滝のように彼女は堕ちていた。
彼女は救いの手を全て振り払った。
誰も彼女のことを見てはいなかった。
彼女も、誰のことも見ていなかった。
彼女は笑顔の練習をしていた。
彼女は吐いた。
この世の全てから抗うように藻掻いた。
彼女には、大地震も大噴火も地球の終わりも興味が無かった。
彼女は生きた。
ただ生んだ人間への義理のために生きた。
でももう雇い主もいない。
彼女は走った。
手が震えた。足が震えた。目眩がして倒れそうになった。
それでも走った。
彼女は外に出た。
風は泥臭い臭いがした。
頭と腹の中がめちゃくちゃだった。
彼女の口から笑いが零れた。
あは、は、ははは、と笑いながら堕ちていく彼女は、既にこの世のものではなかった。
彼女は死んだ。重罪と共に。