第十六週:ボロキレとブラウス(火曜日)
西銀河帝国の帝都を示す 《ク=アン》とはそもそも、『クル河の北』と云う意味である。
帝国の史書によれば、大帝の先祖はケン=イェンの苗裔で、その中の一人タ=ヒは治水の術に優れ様々な惑星で治水事業を監督して来たのだが、その最後の仕事が、ここ惑星 《カ=ショウ》のクル河治水であったと云う。
そうして治水完了の後、余程この地が気に入ったのであろうタ=ヒは、時の天帝に謁見を許された際、クル河の地に自身の町を築くことを具申、了承されたと云うのである。
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「あの子?」と、シズカが訊き、
「間違いありません」と、手持ちの水晶板を彼女に見せながら男が答えた。「こちらが問題の店から送られて来た映像です」
そう言われてシズカは、その映像を一瞥した後、再び問題の少年の方へと目を遣った。
年の頃なら10~11才。青く広い空の下、クルの大河を背景に、タ=ヒ公園の展望台に立つその姿は、なかなかどうして様になっている。
――が、それでもやはり場違いなのは、その恐怖に怯えた目と、両の手に付いた血の跡であろう。
「顔は?」と、シズカが訊き、
「確かにアイツです」と、男は言ったが、
「あ、ごめん。そうじゃなくて」と、シズカに訂正された。「その……殺された方の」
「ああ、こちらです」と男は、水晶板の表面を数回叩いてから、再び彼女にそれを見せた。
「ふーん」と、今度はしっかり板を覗いてから、「あんま似てないね」と、彼女は返した。
「あ、それが」と、男。「父親と血は繋がっていないそうです」
「あ、なるほど」――やるだけやって逃げたパターンか。「これだから騎士ってヤツは」
「は?」と、男は訊き返し掛けたが、
「なんでもないよ」と、彼女に遮られた。「ひとりごとだよ」
(続く)