第十六週:ボロキレとブラウス(月曜日)
「帝都に行く?」と、右のほっぺに 《ブレケレン名物サッタ・ゼンザイ》の甘~く煮込んだ豆を付けたシャ=エリシャが訊き、
「雨期が明けたら来いってさ」と、『やっぱオモチはマルモチだよね』と想いながらナビ=フェテス少年は答えた。「その頃、モールトン先生も新婚旅行?から戻るらしいよ」
「あー、じゃあ、調査とか解剖とかされんだ」
「解剖……はされないと想うけど、ああ、それで実際、先生に『一人旅初めてなんですけど』って言ったら、『寂しいようならお友だちも連れておいで』って言ってくれたんだけど――良かったらエリシャも行かない?」
とフェテスが訊いて来たのでエリシャは、この提案にもう少しでオモチを喉に詰まらせるところであったものの、どうにかこうにかそれを飲み込むと、
「良いの?!」と、口内で噛み砕かれたアズキの欠片を飛ばしながら……汚いなあ。
「旅費も先生が出してくれるそうだし」と、顔を拭きつつフェテス。「実際僕も一人だと怖――解剖されそうな時に助けてくれる人が必要だし。エリシャなら助けてくれるだろ?」
「もちろんよ! 帝都って美味しいものたくさんあるのよ?!」
「じゃ、おじさんとおばさんに話しておいて」
「了解! 帝都かあー、超楽しみじゃん!!」
*
『この帝都は腐っている』
そうロクショア・シズカは想った。
いや、もちろん、ランベルト大帝の治世に文句があるわけではない。オートマータとの大戦以降大掛かりな戦争は起きていないし、東側の皇帝との仲も良好で、南北銀河の有力者たちとのバランスもよく取られている。
『治世安楽』と、後世の史家が書き残したとしても、なんら異議を唱えるつもりはない。
が、それでも、光あるところ闇があるのがこの世の常と云うものでもあろう。
(続く)