第十三週:恋人とJJJ(金曜日)
「ですから、それは運転の仕方を間違えたんですよ」
と、小脇に『サルでも分かる異類婚』と云う分厚い書物を抱えて博士が言った。
「“この子”が勝手にブレーキを掛けたりするワケはないんですから」
すると、いつもブヨブヨご機嫌なMr.Bも今回ばかりは不思議で仕方ないと云う表情 (表情?)を見せながら、
「ダケド実際ニ停マッタママナンダゼ」と返した。「イイカラさっさト戻ロウゼ」
「戻るのは戻りますけど」と、歩度を速めながら博士。「本当にアナタは何も触ってないのね?」
「イイ加減、信ジロヨ」と、Mr.B。
「うぇざーぼーるノ件ガアッタカラ、あんたノ許可ナク機械ハ触ラナイヨウニシテンダ」
まあ確かに、ここ最近“この子”の様子がおかしいのは確かだ。
この間も部屋着姿の博士をカーッとしてペッと吐き出したし、ストーン女史とは言い争いのケンカもしている。
一度工場長に相談してみたら、
「ウェザーボールの一件で調子が狂ってんだろ? レンチで一発殴りゃあ直るさ」
みたいなガテン系丸出しの回答が返って来たのでそのまま様子を見ているのだが――、
と、そんなことを考えながら博士はコントロールルームの方に向かっていたのだが、しばらくすると、そのコントロールルームの中から
「痛い!」とか
「きゃあ!」とか
「なんで服を脱がすのよ!」とか
「博士ーー早く戻って来て下さいよーー」とかの、このお話の作者もなんだか気の毒になってしまうような泣き声が聞こえて来たところで博士が、
「やっぱり反抗期かしら?」と、言った。
*
クワヮヮワォン。
と、博士のグレープフルーツスプーンが奇妙な音を発し、計器類に不審な点がないかを調べ出した。
タイムボックスに服を剥かれたストーン女史は、そのままでは業務に支障を来たすし見た目にも美しくないので、予備の制服に着替えるためボックス内の婦人用クローゼットの方へ移動中であるが、そんな若い女性の着替えシーンにかまけていられる紙数はないのでそちらは省略する。
――なんで睨むんだよ?
*
「何カ分カッタカ」と、Mr.Bが訊き、
「えーっとですねえ――」と、博士が答えた。「“何もかも正常”ってことが分かりました」
「ナンダソリャ?」
「だってそうなんですもん」
「勝手ニ止マル乗リ物ガ正常?」
「どの装置もどのプログラムも正常です」
「目的地到着前ニ勝手ニ止マッタンダゼ?」
「確かに本部には着いてませんけど――」と、ここまで言って博士は何かを想い付いたのか、
「外は見ましたか?」と、訊いた。
「もにたー越シニ見タケド、真ッ暗ダッタ」
「ひょっとしたら、ここが目的地なのかも」
(続く)