第十三週:恋人とJJJ(木曜日)
「はい。じゃあ、ベケット・ディルウードね」
と、その植物を袋に入れながらエスラグ食品専門店『サミュルウェル』の女主人は言った。
「分かってると想うけど、乾くとすぐに香りがしなくなるから今日中に使うんだよ」
すると、この忠告を受けた緑の髪の女性――マキ=ラハリは、
「分かってますよ、おばさん」と言って微笑んだ。「いっつもヤハビに言われてますから」
「『七龍珠』だろ?ヤハビちゃんの得意だ」
「“とにかく栄養を!”ってうるさくて」
「良い旦那……パートナーって言うんだっけ?知らないけど。良い子だよね」
と、そう言ってから女主人は、すっかり大きくなったラハリのお腹を見て、
「あとどれくらい?」と、訊いた。
「予定だと、あと2ヶ月です」
「男の子? 女の子?」
「まだ確認してないんです。ヤハビがそう云うの嫌がって」
「はあ、あの子らしい――ちょっと触らして貰っても良いかい?」
そう言うと女主人は、ゴドピ族特有のその長い腕をレジの向うから伸ばして来たのだが、これに応えてラハリは、
「構いませんけど――」と、その大きくなったお腹を彼女の方に向けつつ、「触っただけじゃどっちか分かりませんよ?」と言った。
「この前は集中が足りなかったんだよ」
「この前は結局“分からない”って言って、その前は“男の子だ!”、その前は“女の子に違いない!”って――」
「しー!静かに!」そう言って女将は目を閉じると、「ウチの種族の得意技なんだよ」と、右手の指先に神経を集中させながら続けた。「これまでが調子悪かっただけ」
「……どうですか?」
「うーーん…………ダメだ。やっぱりよく分かんないや」
(続く)