第十一週:預言とパンケーキ(金曜日)
※筆者注:
以下に引用する歌は、元々古代ヘレニアント語で歌われたものを筆者が銀河公用語に訳したものである。その為、語呂の悪さ、韻律の不自然さ、「え?なんでそんなきっもいセリフ吐けるんスか?」的フレーズも随所に見られるかと想うのだが…………まあ、その辺はご笑納頂ければ幸いである。
*
「ラブはトレランス~♪」
と歌いながら、ローベルト・モールトン教授は掛けていたサングラスを外し、周囲をキョロキョロと見まわし始めた。
すると、この教授の歌声に応えるように、通りの向う側から、
「ラブはカインドネース~♪」
と歌う甲高い男性の声が聞こえ、更にその後ろから、
パーパーパーー!!
と、ホテルのボーイの格好をした――と云うか実際にホテルのボーイなんだけど――三人組のホーンセクション (サックス・トランペット・トロンボーン)が飛び出して来て、二人の再会 (?)を盛り上げる。
互いを確認し合った教授と男性 (心は女性)は、通りに飛び出すと、走って来たエアカーの屋根に飛び乗り、両手を握り合うと、
「ラブは~~♪」と、見事なハーモニーを響かせつつ、
「ノンノン~、ノット・ジェラス~~♪」と、歌った。
それから、しばらくの間を置いて今度は、
ッパパ、ッパ。
ッパパ、ッパ。
と、二人が飛び乗ったエアカーがリズミカルなクラクションを鳴らし、周囲のエアカーもこれに合わせる。
「ホナー・ザ・トゥルース~~♪」と、教授がカメラ (?)の方に向き直って歌い、
「ハピネス・アンド・ラースト~~♪」と、例の男性 (心は女性)もカメラ (なんのだよ?)の方を向いて歌った。
「プロミスしてくれたユー~~♪」
「だからワンス・モア~~♪」
……ルーなんとかさんみたいだな。
「イエスタディ~~♪」
「ワンスモアをワンス・モア~~♪」
……これは大丈夫なの?
「ペテンを嫌い~~♪」と、教授が歌い、
「くだらない大人にはなりたくない~~♪」と、男性 (心は女性)が続け、
「けど~~♪」と、再び二人は見事なハーモニーを響かせた。
「夜の校舎窓ガラス割って歩いちゃダメ~~♪」
……次の日、みんな困るもんね。
「ラブはトレランス~~♪」
「ラブはカインドネス~~♪」
「ラブは~~♪」
「ノンノン、ノット・ジェラーース~~♪」
「そうさ~♪ 最後に愛はビクトリー~~♪」
…………なんなんだコレは???
*
「フェテスくん?」と、怪訝な声でモールトン教授が訊ねた。「――どうかしたのかね?」
すると問われたナビ=フェテス少年は、『あれ?終わった?』と云う表情になって、通りに向けていた顔を教授の方へと向け直した。
教授はもちろんサングラスを掛けたままだし、立ち上がってもいなければ通りに飛び出してもいない。
エアカーは無音で行き交い、ホテルのボーイは慌ただしく宿泊客の荷物を運んでいる。
ただ――、
「さっきの人がこっちを見てるよ」と、少年は言った。「――手でも振って上げたら?」
少年のそのセリフに教授が通りの向うに目を遣ると、先ほどの男性が、多分この先の花屋で買って来たのだろう、小さなエシックス・デイジーの花束を持ってこちらを見ている。
「“あの人”の話なら、いつでも出来るからさ――」と、少年は続け、教授に勇気を持つように言った。
「それに、“あの人”が本当に好きなのは、こう云うお話なんだよ」
(続く)