第十一週:預言とパンケーキ(水曜日)
「それでは、その彼は、どのような言葉で君に語り掛けるのかね?」と、ローベルト・モールトン教授は訊いた。
が、これに対したナビ=フェテス少年は、生クリームまみれの顔を少し傾げて、「“彼”?」と、逆に教授に訊き返した。
「“彼”ではないのかね?」と、教授は更に訊き返そうとしたのだが、そこでピロンッ。と、彼のサングラス型携帯デバイスが鳴り、この質問は尻切れトンボとなってしまった。
「さっきの人だよ」と、フェテス少年が言い、
「さっきの人?」と、教授が訊いた。
「先生、気に入られたみたいだね」
「なんの話だね――」
と、少年の発言を怪訝に想いつつ教授が携帯デバイスのメッセージボックスを見ると、確かにそこには、先ほど彼にウインクを投げて寄こした男性 (心は女性)の顔写真付きメッセージが入っていた。
驚いた教授は少年に「これは――」と言い掛けたのだが、そこで言葉を切ると、少し考えた後「これは、どっちだね?」と、訊いた。
そこで少年は、タピオカミルクティーパンケーキと一緒に頼んだカシス味のカルピスをズズズズズズィ。と飲み干しながら「どっちでもないよ」と、目をパチクリさせつつ答えた
――どうでも良いけど、その組み合わせは美味しいの?
「このお店のこんな特等席に僕らが座っているってことは、僕か先生のどちらかがこのお店の常連ってことでしょ?」と、フェテス少年。「でも、こんなヨレヨレの服を着てる11才の男の子がこんなお洒落なカフェの常連なハズがない――常連は先生だよね?」
「ああ、まあ、そうだな……」と、教授。
「で、ここのカフェは真向いのホテルの系列だから、自然と先生がホテルの常連だってことも分かる――で、さっきの人もそう考えた」
「……なるほど」
「で、先生にウインクをしてから暫くしてホテルに入って行くのが見えたし、そこのボーイのお兄さんと握手しているのも見えた」
「握手?」
「ほら、あの人」と、カルピスのストローで向かいのホテルを指しながら少年。「5プラン札を見てるでしょ?握手した時に貰ったんだよ――で、先生の連絡先を教えた」
「あー」と、得心が入った表情の教授――確かに、宿帳にはこのデバイスのアドレスも載っているハズだ。「素晴らしい推理だ」
「初歩的なことだよ、モールトン先生」と、少年は言うと、「それよりもさ、メッセージの中身が知りたいな」と、嬉しそうに笑った。
「中身?」と、少年に悟られないよう問題のメッセージを開きながら教授。「君にはまだ早いし――相手は男の人だよ」
が、しかし、そのメッセージの内容に教授の顔も自然とニヤケて行ってしまう。
「男の人でも女の人でも――」と、また少年が笑った。「良い人なら良いんじゃない?」
(続く)
 




