第十一週:預言とパンケーキ(月曜日)
さて。
この広い広い宇宙には時々未来を予知出来る種族が生まれたり滅んだりしているそうなのだが、その予知出来る範囲・未来にもどうやらピンからキリまでがあるようだ。
そう。
それは例えば、デルタ宇宙域の放浪民 《見主》族などは、この宇宙が終焉を迎えるその時までに起きるありとあらゆる事象を予知しまくっているそうなのだが、『どんなに詳しく予知してもどうせ誰も信じてくれない』と云う未来さえも予知しまくっているために、彼らが予知した未来と云うのは種族以外門外不出とされていたりするらしい。
で、
またそれは例えば、北銀河の北東角に位置する惑星 《ヘイレ=カサ》の住人 《ノスサンドラ》族などは、その予知出来る未来は僅か一日、しかも『三光年先にあるスーパーのお惣菜コーナーでお買い得になるのはどの商品か?』と云う、あまりにも限定的且つそこのお店のオーナーに聞いた方が早いような予知しか出来なかったりするらしい。
えーっと。
つまり、これら両極端な例を上げて私が何を言いたいのかと云うと、
『どんなに正確な未来予知も、みんなが知りたい内容じゃないとあんま意味ないよね』
と云うことなのだが、これが『予言』『預言』ともなると話は更にこんがらがってくる。
*
「えー、ではフェテス君――次にあの角を曲がって来るのは男の人かね?女の人かね?」と、ローベルト・モールトン教授は訊き、
「見た目は男の人、心は女の人」と、昨日11才になったばかりの少年ナビ=フェテスは答えた。「しかも最近、恋人と別れたみたい」
するとモールトン教授は、「ふむ……」と、小さく頷き、昔ながらの紙のノートにその少年の言葉を走り書きすると、「それは君の判断かね?それとも――?」と、続けた。
するとフェテス少年は、こんな時でないと食べさせて貰えないアイスと生クリームがたーっぷり乗ったタピオカミルクティーパンケーキを口いっぱいに頬張りながら、
「もちろん僕の判断だよ」と言った。「こんなことであの人は何も言わないよ――」
「“あの人”――」と、少年が当り前のように口に出したこの言葉に、教授は暫しの間ペンを持つ手を停めたのだが、その折りも折り、問題の角から一人の男性が出て来たので、先ほどノートに書き込んだ『見た目は男の人』と云う文字の上に小さなチェックマークを付け、それから少年に「心の方はどう判断すれば良いのかね?」と、小さな声で訊ねた。
すると少年は、年相応に意地悪そうな顔になると、「もう少しで分かるよ――」と言って、口元の生クリームをペロッと舐めた。
「それはどう云う――」と教授は訊こうとしたが、それとほぼ同じタイミングで、問題の男性がオープンカフェのテーブルに座る彼にウインクを投げて寄こしたので、その質問はそのまま省略されることになった。
(続く)




