第十週:マントとエプロン(土曜日)
えーっと、なになに?“空を飛ぶには技術と云うか秘訣があります。”――本当だ。確かに『空を飛ぶには』って項目がありますね。
「だろ?だから、それを読めばまた飛べるんじゃないかな?」
でもこれ、『銀河相乗り指南書』ですよ?
「いや、それがどんな本か知らないけどさ、試す分には良いだろ?オレ、本気で困ってるんだぜ?」
いや、まあ、そうなんでしょうけど……うーん?
「だーかーらー、ダメモトで良いからさ、ちょっとやるだけやってみたいんだって!手伝ってくれよーー」
……手伝うってなんですか?
「オレは飛ぶ方に専念するからさ、アンタに横で読んで貰いたいんだよ、やり方を」
ああ、ま、それ位なら全然良いですけど、
「よし。じゃあ、えーっと、あの机の上で良いかな、立って飛ぶから読んでくれよ」
はあ……えーっと、“空を飛ぶには技術と云うか秘訣があります。”
「うん。それはさっき聞いた。次、次――」
はいはい。……“その秘訣とは、高いところから飛んで、落ち損なうことです。”
「…………うん?……ま、まあ、そうかな」
“天気の良い日を選んで試しましょう。”
「お、今日なんかはお誂え向きだな」
“先ず必要なことは、全体重を掛けて飛び出す勇気と、痛さを怖れて尻込みしない意志力。この二つだけである。”
「うん。確かにそうだ。痛みを怖れていては何も出来ないからな」
“次に大事なことは、ここが一番難しいのだが『落ち損なう』と云う点である。”
「……そこの『落ち損なう』ってのがよく分んねえけどな。ま、次。次を読んでくれ」
“『落ち損なう』のは、あくまでも偶然でなければならず、皆これを勘違いしている。”
(続く)




