第十週:マントとエプロン(木曜日)
「ちょっと!こら!扉を開けなさいよ!!」と、赤毛のストーン女史は言い、
「グオオオン、グオオオン」と、言われたタイムボックスは答えた。
「博士を助けに行かなきゃダメでしょ? アレでもあなたの所有者よ」
「グオオーーン、グオオーーン」
「まあ!工場長に言い付けるわよ!!」
「グオン!グオオン!!」
「赤毛で悪かったわね!!」と、タイムボックスの余りの口の悪さにストーン女史が床に落ちていた58S片口スパナを手にした瞬間、
「ウワア、ナニヤッテンダ」と、今日もブヨブヨ・フワフワの不定形生物Mr.Bが倉庫から飛び出して来て、すんでのところで彼女を止めた。「機械ニ怒ッテモ仕方ナイダロ」
「そうは言うけど、コイツがさあ――」
「マッタク…………アレ?博士ハ?」
「だから、コイツが吐き出したのよ」
*
「それは、その男の子が悪いわね」と、シャーリーから渡された冷凍ペイエ緑豆の袋を頭頂部に押し当てながら博士が言った。「――要は、離れたくなかっただけなんでしょ?」
そうヨレヨレのランニングに使い古したショートパンツに白ジャージ姿の女性――なんでこんなはしたない格好で空を飛んで来たのかしら?――に言われて少女は、自分でも気付いていなかった自身の気持ちに気付けたのだろうか、その人形のような小さく白い顔を赤く染めると、
「別に、私は、そんな――」と呟き、不意に涙を流し始めた。
すると困ったのは、自分で言っておきながらこんな状況への免疫が全くない博士である。
彼女の師匠であれば相手の肩をポンポン。と叩くくらいのことはするのであろうが、彼女にはまだそんな技術はない。と、その時、
トントン。
と療養室の扉を叩く音がした。「シャーリー……入っていいか?」
(続く)