第一週:白い袖と金色の冠(月曜日)
三世大帝はペイエ (今のディアン=スウ星・ペイエ県)のフェンジャン、チョアン=リーの人で、姓はランベルト氏、字はプラキディウス、名はフラウスであった。
ここで一応、うるさ型の読者のために弁解しておくと、正当な史書であれば本来、皇帝の名は諱まれるべき対象なので「フラウス」の名は伏せるべきところであろうが、本書の性質上――本書は史書ではない――「フラウス」と云う名はそのまま使用させて頂く。
更に言うと――ただの歴史小説にここまでの弁解が必要かどうかは分からないが――西銀河の旧習である「テ=ディアン」を「字 (あざな)」と訳すことに異論を唱えたい方もおられるかも知れない――私の恩師にも一人いる――が、しかし、ここは双方に共通する『本来の名を他者から隠す』と云うその役割に着目し、「字 (あざな)」と訳させて頂くものであり、この旨ご海容頂ければ幸いである。
また、話のついでに「プラキディウス」についても少し述べておくと、これは字 (あざな)と云うよりは、古代西銀河で「末の弟」を意味した「プラクトジウス」が変化して伝えられたもの……と考えるのが自然であろう。
と云うのも、彼の生まれた4228年と云えば、例の 《時主》族の内戦が激烈さを増した年であり、その影響が銀河中の言葉や文化の至るところに見られた年だからでもある。
……まあもっとも、その殆んどが前述の字 (あざな)のようなものばかりで、彼らの惑星『シュールー』の消滅に比べれば微細極まりないことがらばかりではあるのだが。
しかしこの内戦も…………と、いけない。すぐに話が横道に逸れてしまうのが私の悪い癖だ。三世大帝の出自を説明しようとしているところであった。先を急ごう。
つまり、三世大帝の父はコンスタンティウス四世であり、母はその第三夫人ファウスティナであった…………と、されている。
(続く)