第九週:翻訳技術と覇王別姫(土曜日)
えーっと、なになに「光とは電磁波のうち波長が380~760nmのものを言う」……ま、そうだよな。で、「光の速度は、光源の運動状態に関らず不変である」……ま、これもそうか。「光は媒質を必要とせず、真空中を伝播することが出来る」……云々かんぬん…………うーーん?やっぱりググってもヤホーで調べても光の人たちの空の飛び方とかは出て来ませんね。
「あー、こっちも全然出て来ねえなあ」
それって『大銀河大辞典』ですよね? 『ギャラクティック・ブリタニカ』はどうでした?
「あー、そっちも似たようなことした書いてなかったなあ」
まあ、普通は分かりませんからね、飛び方。
「オレ自身、何も考えずに飛んでたしな」
他に使えそうな辞典ってありました?
「辞典かどうかは分かんねえけど、本棚の同じ列にこんなのあったぜ」
ああ、これはダメですよ、デタラメばかり書いてあるんですから。
「そうか?でも、他の辞典に比べてやたらと付箋が貼ってあるぜ、Mrって人がよく使ってたんじゃないか?」
まあ、Mrが好きそうな本ではありますけどね。一時期飛ぶように売れてたって言うし。
「じゃあ、使えるんじゃねえか?」
いや、それも古くて退屈な『ギャラクティック・ブリタニカ』よりちょっとばかり安くて、カバーに大きく読みやすい字で「狼狽するな」って書いてあったのが売れた理由だって世間もっぱらのウワサですから。
「“狼狽するな”?」
ま、そこは適当に流して下さい。
「ふーーん。……あ、でも、ちょっと待ってくれよ、目次に「空を飛ぶには」って項目があるぞ――」
え?そんな項目あるんですか?『銀河相乗り指南書』に?
(続く)