第九週:翻訳技術と覇王別姫(木曜日)
「まあ、しかし、そんなどうでも良い設定の説明に二日も掛ける必要はあったのかのお――」
と、作者の暴走を窘める口調で緑の老人が言った。
「今はフラウスとシャーリーのその後を追うべきではないか?」
*
さて。
あの決闘の後、里の誰とも (もちろんシャーリーとも)一言も言葉を交さないまま広場を立ち去ったフラウスであったが、サン=ギゼの心を込めた説得が (理解出来ていたかはさておき)効いたのでもあろうか、彼はいま、彼女が脳の検査をして貰っていると云うイー診療所の前に居た。
この診療所の前の庭では、彼女の友人であり彼の友でもあった複数の少女たちが、中に入るでも家に帰るでもなくたむろしていたのだが、その中の一人が彼を見付けると、
ツカツカ。
と、彼に歩み寄って来たかと想うと、
パシン。
と、見事な平手打ちを喰らわした後、涙ながらの訴えを始めた。
*
ブブブ。グオン。シュン。
ギギギギギギギギギーーーーーギャース。
星団歴1803年
――と云うか西暦の方が分かり易いかな……えーっと、
西暦紀元前202年。
中国。鍾離県。とある奥深い山中。
ザッザッザッ。
と、タイムパトロール特製「全自動穴掘機 (スコップ型)」の地面を掘り返す音が周囲に響き、その横には紺色のブラウスに赤い髪の女性――TP隊員のライリー・ストーン女史が腕を組んで立っていた。
と、そこに、黄色と云うか緑と云うか間違ったクラゲオバケみたいな不定形生物――とっても優秀なTP隊員 (自称)のMr.Bがフワフワッと飛んで来て、
「ドウダ?」と、彼女に訊いた。「博士ハ出テ来タカ?」
すると、ストーン女史は、
「あの兵隊さんたちかなり深くに埋めたみたいで」と、これに答えた。「――もうちょっとかかりそうね」
(続く)