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第八週:岩と笑い(金曜日)

     *


「無理にでも閉じるのは正解。でも、その前に一度、ドバッと開けてあげなくちゃダメ。

 内側に溜まった圧力を一旦解放してからじゃないと、歪な形で閉まったり、別のところが破けたりしちゃうわ――」


     *


 シャーリーの持つ大剣がフラウスの頸をかすめ、かすかな黒い血を彼に流させた。


 しかし、ルリュイセスの衣を纏いしフラウスは、かくてもなおも逃げはせず、ほんの僅かに後退り、広場に鎮座す岩に気付いた。


     *


「なあ――」と、息を整えつつフラウスが訊いた。「もう良いだろ?」


「いや――」と、噛み締め過ぎた奥歯の痛みに堪えつつシャーリーが答えた。「まだ終われん」


     *


 少女の背には 十六夜の


 いまも盛りと 紫丁香花


 ちとせやちとせ とわには居れぬ。


 いまこそ群れ居 あそぶめれ。


     *


「なら――」と、両の手の構えを解きながら少年が言った。「歯なんか食いしばってんじゃねえよ」


 が、この言葉に、少女は何も答えなかった――答えられずに居た。


「これが、最後かも知れねえんだろ?」


「……わたしは、」


「だったら!」


「わたしは、最後にはしたくな――」


「だったら!!」


「おまえは! わたしが! 守ると!!」


「だったら! 笑えよ!! シャーリー!! シャーリー・ウェイワード!!!」


 が、しかし、この言葉にも、ふたたび少女は答えられず…………そうして、ふたたび、小さな口の奥歯を噛んだ。


 すると、そんな少女に代わって少年が、「……騎士になるんだろ?」と言って笑った。


     *


 ふたたび、東から一陣の強い風が吹いて、


 フラウス達の里を襲った。


 すると、その風に煽られ、少女の春衣装が、


 月の影をかすめて行った。


 少女が笑い、


 少年も笑った。


 もう、言葉は要らなかった。


 ただ、風の音だけが聞こえた。


 少女の剣が少年を襲い、その影を捉えた。


 少年は逃げも構えもせず、その剣を受けた。


     *


 ザンッ。


 と云う音とともに、少女の大剣が少年の身体を斜めに切り落とした。


 ――と、その場の誰もが想った直後、岩に当って剣は折れ、少年は少女を抱き締めていた。


「ごめんな、シャーリー」


 少年はそう言うと、その掌で、軽く、少女の顎先を打ち抜いた。



(続く)

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