第八週:岩と笑い(木曜日)
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「必死で開こうとしている穴があったとして――君ならどうする?」
「危ないのなら――無理にでも閉じますね」
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突然に、東から一陣の強い風が吹いて、フラウス達の里を襲った。
すると、その風に煽られ、革鎧に着替えるためシャーリー・ウェイワードが脱ぎ捨てていた青の春衣装も宙へと飛ばされて行った。
「お母さん」と、一人の少女が、そのドレスの飛んで行く先を傍らの母に伝えようとした。
が、この母親――いや、少女を除く里の者は皆、目の前で展開されている猛々しくも哀しい騎士達――いや、彼らは未だ騎士ではない、若き二人の闘いから目を離せないでいた。
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『さあ、剣を短く持ち換えたシャーリー嬢の大剣が、均斉とれたフラウス君の脚を止めに入……と見せ掛け! 腹を狙う! が! 躱した! 脇腹をかすめ服を裂いたが! フラウス君も身を捩ってこれを避ける!』
と、静まり返った会場内にラ=ブーイ氏の実況が響き、そこに、
『それだけではありませんよ』
と、マンダ士の解説が被る。
『多分にスロースターターなのでしょうが、フラウスさんの方の動きが確実に早く、強くなっていま……ほら! あの体勢からヒジを入れに行った!!』
『肘が! フラウス君の肘が! シャーリー嬢の横面を! 弾かない! 躱す! 倒れて躱した!』
『しかも! 倒れる勢いで剣を振り上……』
『これも避ける! いや! 回転した! 回転の勢いで倒れる相手に蹴りを入……剣だ! 剣が戻って来て蹴りを防いだ!……そして! 弾かれた! 両者弾かれ! 再び距離を取った!!』
そして双方、同時に地面に降り立つと、いずれも力侮れぬ、生肉喰らう獅子か野猪、ふたたび相手に攻め寄せる。
(続く)