第八週:岩と笑い(火曜日)
パチパチパチパチパチパチッ。
と、ウェイワード家の客間にソロバン玉の激しく鳴る音が響き、と同時に、
シャシャシャシャシャシャシャシャッ。
と、ワラバンシの上をHB鉛筆が激しく動く音も響いた――が、そこは名門ウェイワード家である。バックには静かに『コリトス・ポタモ・コリス・プサリア』のインストバージョンが流れている。
すると――、
パチパチッ、シャシャシャ。
と云う音が続き、
カタン。
とHB鉛筆の置かれる音がした。
それから少しの間を置いて、
「いやいや、どうにか合いましたよ」と、安堵の声で会計係が言った。「やはりウェイワードさんに相談して良かった」
これに対してこの家の主人――シャーリーの父ジョージ・ウェイワードは、
「いえ、あの里長とも長い付き合いですから、」と、謙遜して言った。「手を抜く部分の見当は付くんですよ」
「本当に助かりました。こんなお祭りの日に」
「構いませんよ。そもそも私は祭りが苦手――まあ、娘は楽しみな様子でしたがね」
「ああ、《ウー=シュウ》へ行かれる――」
「ええ。何故かアイツには騎士の血が出ましてね――まあそれでも女の子ですよ。『最後の春祭りになるかも知れない』と、ドレスをせがまれましてな――ああ、スチュ。シャーリーはもう行ったかな?」
すると、この主人の問い掛けに、
「はい。二時間ほど前に」と、執事のスチュワート・ヘブンズは嬉しそうに答えた。「例のドレスを着て、ご友人と待ち合せがあるとかで、このジジは邪魔者扱いでございました」
「まさか男友達か?」と、主人が笑って訊き、
「まさかお嬢さまに限って」と、執事も笑って返した。「――お酒になされますか?」
「ああ、コトさんにも――ホァミでよろしかったかな?」
……平和そうだね、お父さん。
(続く)




