第七週:十六夜月と一身上の都合(土曜日)
「例えばさ、俺たちが海の上を飛んでたとするだろ?すると、斜め下の海の中に何かを見付けてそこに行きたくなったとする。そんな時、俺たちはどうやって進むと想う?」
え?……それは、今いるところと行きたくなったところを結ぶ直線ルートを進むんじゃないんですか?
「って、ヒューマノイドの人とかは想うらしいな。でもよく考えてみろよ、実際のところ俺たち光はどう進んでる?」
ええ??…………あー、空気と水では屈折率が違うから、水面に達した時に方向を変えて……変えられて?います。
「だろ?すると、さっきアンタの言った「直線ルートを進むんじゃ?」って答えは?」
あ、間違ってる……んですかね?
「うーん。例えば、仮にアンタの云う「直線ルート」を通ったとするじゃん」
はい。
「でも俺たちは水中では空気中よりもゆっくりと進む。だから、その直線ルートの中にある水中の部分が多いと……?」
……時間はより長く掛かる?
「正解!逆に水中の部分を減らしても全体の距離が長くなってしまうと……?」
ああ、それも時間が掛かり過ぎますね。
「つまり、俺たち光は、今いるところと行きたくなったところの『最短のルート』を進むんじゃなくて『最速のルート』を進むようにしているワケさ」
あー!……え?アレ?それは……自然にと云うか結果的にと云うか、アレ?
「まあ、ほぼ本能みたいなもんで知性を持つ前からやってたらしいんだけどな、こう云うのも俺たちが宇宙最速である理由の一つさ」
あー、重力?空間?の歪みに沿って飛ぶとかそう云うヤツと似た感じですか?
「そうそう。まあ、俺たちも他の種族から言われて気付いた感じだけどな」
(続く)