第七週:十六夜月と一身上の都合(金曜日)
「あの、先生」と、『決闘事前チェックリスト (写し)』を読み返していた里長が訊いた。「……決闘の理由に『一身上の都合』としかありませんが、これは大丈夫でしょうか?」
すると緑の老人は、賭けの胴元に何事かを伝え終えてから、里長の方を振り、
「拳を、剣を、心を交えてみねば分からぬ理由もあるじゃろうからのう――」と、さも何でもお見通しと云う感じの微笑みで答えた。
――まあ、いつもの通り、いつもの如く、実際どこまで分かっているのかは不明だけれど。
*
「剣は持たなきゃダメ?」
と、フラウスが訊き、これに対して立会人であるサン=ギゼが答えるよりも早く、
「我が家宝の大剣だ」と、シャーリーが口を挿んだ。「なんの問題がある」
この彼女の言葉に対して少年は、反射的な反論を試みそうになったが、間に立ったギゼはこれを抑えると、
「理由如何」と、二人の問いに同時に答えた。
「キライなんだよ、剣とか銃とか戦いとか」と、少年は言い、
「好き嫌いの問題でない」と、少女が応えた。
するとギゼは、これ以上は会話も無用と考えたか、その丸太のような右手を前に出すと、
「我が王も――」と彼には長めのセンテンスを使って言った。「剣はお嫌いだ」
*
ピー、ガガガ。
と云う使い古しのマイク特有の嫌な嫌な音がして、
『えー、それでは』と、やたら張りのある中年男性の声が続いた。
『チョアン=リーの皆さま、こんばんわ。今夜の決闘はこの私。ラリー実況早や十年。AGBCCスポーツ部所属、お耳の恋人、ラ=ブーイがお届けさせて頂きます』
すると、
キャーッと、広場の方々から妙齢女性たちからの黄色い歓声が立ち起こった。
「ブーイ!ラブリー!!」
……何でいるの?
(続く)




