第七週:十六夜月と一身上の都合(木曜日)
ピー、ガガガ。
と云う使い古しのマイク特有の嫌な嫌な音がして、
『あー、それではっ』と言う與田老人の声が広場中に響き渡った。
『「決闘事前チェックリスト」への記入も終わり、里長の承認印も頂けましたので…………フォースフィールドは?……張れた。よし。――四隅のコーナーボーイ……も、大丈夫のようじゃが……ああ、ギゼ!』
と、突然老人は、舞台の後ろに下がっていたサン=ギゼに声を掛けると、
『立会人はワシとオヌシの二人としたが、問題なかろう?』と、訊いた。
この突然の問い掛けに当のギゼは暫しの間躊躇したが、彼を見詰める里人たちの、何と云うか…… 《さっさと始めろ!》的気迫と云うか 《ここで止めたら暴れるぞ!》的オーラを敏感に感じ取ると、『まあ、我が王なら許してくれるだろう』と、
「む」と言って賛意を示した。
『よろしい!』そう言うと老人は、事前チェックリストを折りたたんで胸にしまうと、『それでは皆さま大変長らくお待たせ致しました!』と、どこぞの興行主よろしく『本日のメインイベントです!』と、叫んだ。
『シャーリー・グラウコピス・ウェイワード嬢と、フラウス・プラキディウス・ランベルト坊やの時間無制限一本決闘ーー!!』
*
「オレはフラウスに五つだ」と、《踊る王媼亭》の亭主が言うと、
「なら、あたしゃシャーリーに七つだよ」と、《酒処・武旺》の女将が返した。「――勝つのはあの子さ」
*
「逃げようぜ、フラウス」と、男友達の一人が言い、
「シャーリーには勝てないって」と、別の男友達が言った。
するとその背後から、
「なに言ってんだい」と、美貌の老婦人――フラウスの祖母が少年達に忠告した。「女の誘いは受けるもんだよ」
(続く)